首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第3章:初陣だよ

プロイセン陸軍よりも先を行っちゃえ!

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 1546年4月中旬
 武蔵国松山城北方
 上泉秀胤
(邪眼は持っていない14歳の参謀見習い)


 体格の良い後藤殿と長野殿、お二方は身の丈6尺を超える。

 その騎乗する馬も巨躯である。普通ならば己が財にて賄うが、個人の能力を最大にするためにと殿が下賜された。

 後藤殿は大喜びしたが、長野殿は殿を差し置いてこのようなものに乗るわけには参らぬ、と辞退したのだが、

 「攻めるにしても逃げるにしても足が大事だよ~。撤退するときには僕も乗せてね~♪」と言われ、渋々折れて自分の愛馬とした。

 そういう殿は4尺足らずの身体。11歳にしてはかなり小さい。
 乗れる軍馬はほとんどないため、子馬に乗っている。それも鐙に足が届かなく危なっかしい。鐙を上にしたためにいつ落ちてしまうか長野殿などはハラハラしているらしい。
 しばしば殿の様子を見るとともに近づいては、子馬が落ち着くように撫でたりしている。

「ナポレオンモロバニノッテイタンダカラキニシナイゾ……」

 また何かつぶやいておいでだ……

 ◇ ◇ ◇ ◇

 先行していた是政殿が、扇ケ谷上杉家家宰の難波田殿の居城である松山城から帰ってきた。

「松山城南東1里にての仮陣屋の設営、確約していただきました」

「ありがたや~。やっぱり袖の下は効くね~。扇ケ谷上杉は金欠だから朝定さんは快く受けちゃったね。城代さんにも袖の下あげたからすんなりだね」

 生真面目な長野殿以外は、にやにやと笑ったり鼻を鳴らしたりしている。
 考えてみれば、大胡も殿が来てくださらねば今頃年貢すら入ってこなかったかもしれない。
 これだけ毎年不作と合戦が続くのだ。
 どこも困窮している。


「では、ちゃっちゃとデポ……
 う~ん、補給処を作っちゃいましょ~」

 ◇ ◇ ◇ ◇

 松山城南東1里
 佐竹義厚
(いつもこき使われる気弱なおっさん)


 人使いが荒いね~、うちの殿さんは。
 大胡近くの道よりもまだましだが、道路の凸凹がひでぇや。道幅も広くなったり狭くなったり。

 長柄足軽が3人も横に並べば、身動きの取れない箇所が出てくるね、こりゃ。
 これ大身の豪族・大名の軍勢が通るときどうすんだい? 
 1里とか2里とか平気で長々と列が伸びるんじゃね?

 新しく使い始めた、牛の後ろにつける荷車、このいいようだか悪いようだかわからん車。車輪が土に埋まっちまって後ろから人力で押さなきゃなんねぇ。

 殿さんは
「これまだ試作品だからごめんね」
 とか言ってくれたが、牛多くするんじゃだめなん? 
 そりゃ牛3頭分運べるけどよ。

 「技術の進歩は少しの不便なんか直ぐに解消するよん♪」
 といっていたけんどそういうもんかねぇ。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 補給処を作るところに着いた。
 早速天幕を張り篝火を付けられるようにし、300人程が寝られる場所を確保した。

 そこに600人が大胡まで帰りつける分の兵糧と予備の武器・武具を運び込んだ。こんなに要るんかいな、大胡は220しか居らんのに。

 あとは空の酒樽、おっと焼酎の入った酒樽な。それを遠くからでも物見が見えるように積み重ねる。まあそのうち磐梯屋が中身持ってくるけどな。兵糧の付け足しも。

 そしてそれを警備する兵の監視所と簡易な防柵をつくる。
 ここまでの作業だけでも荷駄隊50人でやるには重荷だぜ。

 一休みしたほかの備えの兵が手伝ってくれたが、それが終わった後、殿の容赦ない声。

「さあ、これからが本番だよ~。
 逃げてきたら最終的にここで追っ手を跳ね返すからね♪」

 なんでぇ。最初から言ってくれよ。
 もうみんなへとへとで、動けね~よ。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 東雲尚政
(面長を通り越した馬面。谷潜蔵=高杉晋作よりも長い)

 
 殿がうれしそうな声を上げた。

「それじゃ、本番ね。参謀旅行を始めます!」

 補給処を後にして川越城へ出立したが、今までの雑談のような殿の言葉が厳しくなった。

「仁王様! 
 右手塚山に布陣した味方100。正面の街道から長蛇の列で相手方先陣が行軍中。どのように対応する?」

 急に問いただされ後藤殿は目をまわし、周りに助けを求めたが誰もそ知らぬふり。
 遂に後藤のおっさんは破れかぶれになったのか。

「敵方中央に、儂が先頭になり突入いたすっ!」
「20点!」

 殿が両手を胸の前にて交差させて答える。たしか100点で満点とか言っておられた。

「しのちゃ~ん。
 敵中に突っ込んだら大胡勢はどうなっちゃう?」

 俺に来たか。前方の地勢を見、しばし考える。

「前方の街道右手は雑木林と荒れ地が散見され、塚森を下ったのち敵までの1町で行き足が逡巡、左右に回り込まれて囲まれまするな」

 皆から、「おお」とか「さすが東雲殿」などと声が出る。

 いや。これ普通だろ? 
 こんなこともわからんのか、先が思いやられる。

「じゃあ、練習~。たねちゃんはどうする?」

 上泉秀胤殿か。まだ若いが勘がいい若武者だ。思慮もある。

「某は……未熟者故、わかりませぬ。」
「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ……って、言ってもだあれも突っ込んでくれないのが悲しい……」

 殿が何か言いたそうだが、策とは別の話だろう。
 よくある風景だ。

「さすれば。塚森より半数50を密かに下らせ右回りにて敵方前面に進出。これを囮にして後藤殿に敵中央にいると思われる大将目掛け突入していただき、首級を狙いまする」

「50て~ん!
 しのちゃんはどう思う?」

 秀胤はいいところまで行っているか? 
 だがまだ戦場の心理がわかっていないな。

「某ならば、逆にいたすな。
 側撃を先にいたす。
 最初から塚森を降りて側撃は伏兵とし、弩弓で伏せ撃ち敵の大将をはじめ兜首を集中して狙いまする。その後衝撃を生かすよう斜め後方より半数の50で強襲いたす」

「90て~ん!
 さすがしのちゃん。上手いね~。これ以上複雑にするとうまく運ばないからこの程度で十分。しかも指揮官狙いは敵の反撃能力なくすからなおいいね~♪」

「おおおさすが東雲殿!」
「大胡の狐の名前は伊達ではない!」

 褒めるのはいいが、狐はやめてくれ。
 微妙に傷つく。
 面長を隠すための横に伸ばした付け髭。
 やめるかな……


「しかし、残る10点はどこがいけないのでござろう?」

 秀胤が真面目に聞く。

「うん。戦は絶対に勝つことはないからね。でも……」
「でも?」
「戦わなければ負けないよ。勝ちもしないけどね。
 重要なのはここで戦う意味。戦闘の目的を確認しなくちゃ。
 大胡勢だけならここで戦う必要ないから、塚森の裏からひっそりと降りて撤退しちゃえばいいの。そしてもっと有利な地形で迎え撃ったり味方の陣へ誘導したり手はたくさんあるよ」

 なんだか、騙されたような感じではあるが、殿は「戦の目的を間違えないように」と、教えたいのであろう。

 この殿と一緒にいると気が抜けぬな。
 己が磨けるであろうが。

 よし、殿から学べるところは全て学んでやるぜ。戦さ経験のある俺の方がすぐ上手になる。

 そのときはこっちが殿に騙されている気分を味合わせてやる。


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