首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第2章:夢をかたちにするゾ!

世の中、銭だけじゃ解決できないんだよね

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 1542年9月上旬
 上野国大胡城勘定方書室
 瀬川正親
(大胡の財布番。この人いないと大胡は財政破綻する! 37歳)


 儂ももう40年近く生きてきたが、このような数の銭を見たことも聞いたこともない。倅の正則は今だに呆けている。

 ここには今、殿と家宰の道定どの、儂と倅の4人だけ。
 目の前には殿が子細に書いたらしい、出納帳なるものが広げられている。

 これによれば現在3万8000貫文余りが大胡家の軍資金として、商人に預けられていることになる。

 殿が言うことには、ここ4年間で「米相場で儲けた」そうだ。これでも大分使ったらしい。
 儲けるも何も、元手があるかどうかもわからない5歳にも満たない童に何ができたのか? 今は亡き道忠殿に聞きたい。

「こっちは皆には読めないと思うけど、こっちはわかるよね」

 マス目で囲まれたものに、何やら記号が並んでいる帳面は脇にどかされ、巻物の方を指し示して続ける殿。

「このうちの30000貫文を使って、大土木工事を始めます!」

 拳を振り上げて遠い空を睨む表情で叫ぶ。
 道定殿は耳が痛そうに顔をしかめている。この小さな体のどこからこの大声が出るのか不思議だ。

「して、具体的に何を作るのですかな?」

 道定殿が問う。
 気難しい道定殿も殿に大分胸襟きょうきんを開いている。御内儀の体調が良いのが原因だろう。

「うん。まずはね。まんぱわ~!」
「万羽わ??」

「えへへ。
 何をするにも人手がかかります。幸いと言っては語弊があるけど、ここのところの凶作続きで逃散したお百姓さんたちがたくさんいます。だから、この人たちに来てもらおうかなと。
 だからお米を買います。
 それをただで上げるから田畑を作って、と。ついでにその田畑を自分の物にしていいよ~。なんてね」
 
 これは……本当にだれも想像つかない、いや、できないから考えつかない施策だ。

「あとね。年貢を4割にするよ」

 なんと。
 近在の国衆の領地は低くても5割。漂泊していなくとも来たい者が出よう。後々面倒なことができなければよいが。

「しかし、それでは十分な戦備えができませぬ。たとえ銭があろうとも、いつかはなくなりまする」

 そうだ。
 たとえ3万貫文あろうとも、土木に使いつつ米を買えば数年もすれば潰える。
 その上年貢を減らすとなれば……

「だいじょぶです~。収入源はいろいろ考えていますよ~。まずはこれ~」

 新たに殿に付けられた小姓が、いくつかの品物を持ってくる。

「これが石鹸という手や傷を綺麗にするやつ。
 まだドロドロだけど臭みはとれるようになったからそろそろ売れるね。
 本当は山のハゼの実や椿の実で作りたいけど、ここいらでは取れないんです。
 だから菜種油と大豆の絞り油から作っています~。
 ゆくゆくは山椿なら植えてなんとかできるかな? 
 松ヤニもいいかも。
 まーけてぃんぐをきちんとやればぼろ儲けだよ♪」


 短い竹筒に入っているドロドロとしたものが石鹸というらしい。殿がニコニコしながら、指でべちゃべちゃとこねくり回している。
 これが売れるのか?

「御用商人になった磐梯屋の藤兵衛ちゃんに調べてもらったら、高く売れそうだよ。
 それからこっちも……」

 今度は儂も知っている。
 今では家臣の殆どがこれを好物としている。

 焼酎だ。
 残念ながら道定殿と儂は下戸なのだがっ!

「あとね。これは簡単には売り物にならないんだけど、政影ちゃんの傷の治り方でわかったよね。或粉保流アルコホル
 傷の周りを洗っておくとあら不思議、膿が出にくくなります。極秘の使用法もお教えしますので、これと合わせてお使いくださいませ~♪」

 これは売れないな。
 敵方の兵まで助けてしまう。まあ少しずつ、もしくは製法を秘匿して売りつけるか。そうすれば売れるな。皆欲しがれば高値で売れる。

「これから順次産業を興していくよ。あ、でもまずは田畑の単位当たりの収量を増加させるね。3年くらいはかかるね~」

「そのようなことがすぐにできるのでござろうか?」

「基本的には土木工事で田畑を増やすのは、水利を整えてからになるのでだいぶ遅くなるけどね。ため池と桃ノ木川からの用水路かな。でも一番重要なのは面積当たりの効率を上げるのが一番早いのね」
 
 もう驚くまい。
 と、思うのだがいつも驚かされる。どこからそのような知識を手に入れるのか?

 何度か聞いたところ「な~いしょ」とか「足利学校の書物でみつけた~」と、はぐらかされた。

「なので、次のことをやるよ~。
 まず元気のない種もみを使わないために塩水で選別するの。塩は貴重だから再利用する。 
 次は正条植えと名付けたけど、苗床を作って丈夫な苗を作って、紐を使って十分な隙間を作って均等に植えるんです。
 するとね、そのまま適当に田植えするよりも草刈りも楽だし全部の水田を上手に使って収穫が増えるんだよ。
 それから肥料だけどさっきの油粕とか、ため池を掻い掘り(冬場に入る前の水抜き)した時の……」

 まだまだ続くらしい。
 肥料は下肥と同時に農作業や荷駄用に牛馬を増やして、糞を完熟させて与えるとか。
 幸い、ここ上毛は牛馬の産地だ。

 草刈りは草刈り器ももうすぐ完成するようだ。
 収穫したらこき箸の代わりに千歯こきという器具を使う。

「鉄が大量生産できれば、足踏み脱穀機も作れるんだけどな~」
 ともいう。

 唐箕という、脱穀後の作業を簡単にする仕組みも製作中だとか。

「いままで僕が直接指示できなかったから捗っていないけど、これからはどんどん働けるね」

 今までは通忠殿が間に入っていたらしい。
 ちょっと寂しげな表情を見せる。

「試算からすると、全部実施すれば約2倍に収穫量なりますよ~。
 正親くん、大胡領は今どのくらいの耕地がある?」

「はっ。
 水田が7000石余り。畑はその倍ありまする。
 しかし……」

「ああ、畑は桑畑が多いのね」

 そうなのだ。
 大胡領は水捌けが良いため桑畑を作り、生糸を繰っている。
 麦や野菜に使っている面積は、その半分くらいだろう。
 銭は少々入るが食料がない。

「じゃ、これから開拓する田畑は土地が痩せているから三圃式にしようかな。無理なら六圃式。米・麦・大豆・蓮華の順で植えるんだよ。あとは放牧。
 それを6年で回していくんだ。
 蓮華使うと土地質がよくなるんだよ。3年から5年で、収穫高2倍くらいになると思う♪
 生糸生産のテコ入れはまた後で」

 3年間だけだがすでに試したらしい。それを元に保守的な百姓に説明するという。ついでに保険なるものも行うと……
 もう頭がついていけぬ。

「あとね。製造業だけど……
 鉄の大量生産をしちゃうぞ~~」

 お好きにしてくだされ……

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