首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第1章:殿さまになっちゃうゾ

何も隠してないよ、政影くん。

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 1542年5月上旬
 厩橋城から大胡城へ至る村道
 長野政影
(これから側仕えに成長する主人公の小姓。17歳)


 父が騎乗して前を進む。
 父が乗る馬は栗毛の馬だ。
 馬体はめったに見ないほどの大きさ。松風様の利殖で増えた銭を使い、父に下賜していただいた馬である。

 某は一昨年、大殿に烏帽子を頂き、いみなを松風様が元服の折名乗るであろう「政」の字を先にいただいている。
 元服と供に松風様の出生の秘密を祖父である大殿と父に教わった。

 松風様の母君お松様の主人、秀政様の「政」を付ける予定だとも。決して関東管領上杉憲政様の「政」ではないとも。

 そして父からは生涯、影のごとく松風様をお守りするように言いつけられた。それから1年の間、自分が眠るとき以外はずっとお傍に控えている。


 お傍近くで控えている者にとって、殿は珍妙であった。

 いや、主君となる方のことを
「珍妙」
 と表すのは不敬であろうが、そうとしか表現できないのだ。

 まず、7歳にもなって厠にはひとりで行けない。幼いとき落ちそうになって九死に一生を得たというから、仕方のないことでもあるが。
 これはまだわかるが、開け放たれた厠の中で毎回わらべ歌を歌っている。

 わらべ歌に聞こえない妙に早口の歌もしばしばある。
 聞けば
「あにそん」とか
「ぼかろ」とか
 言ってはぐらかす。

 そして某や乳母のお福にも一緒に歌わせるのだ。
「だって自分だけ歌うのは恥ずかし~し~♪」だそうだ。

 それから、考えをめぐらすときは首を右に傾げ、右手で髷をいじる。なのでいつもほどけて、そのままでいるとざんばら髪となる。

 結って直して差し上げるといっても
「う~ん、こっちのほうが楽なのになぁ」と、
 なかなか結わせて頂けない。

 また、よく独り言を言われる。
 ぶつぶつと何かを言っているらしいが、某には全く理解できぬ言葉が多く、殆ど聞き取ることが出来ない。

 一昨年、5歳になって初めて厩橋の町に出たとき、普通の童ならば食べ物を売っている店や小物を売る露店商を巡るだろう。
(かく言う某もそうだったが)

 ところが殿はそういったところには目もくれず、

 米屋
 万屋(うまやばし屋)
 刀剣商
 鍛冶屋
 木地師きじし(木製品の細工師)と
 大工
 馬子まご
 そして酒屋などなど、
 大人が出かける全ての店・作業所を廻っていた。

 そこで某には皆目見当がつかない、子細な事柄を問いただし、

 果ては「こうしたらもっと儲かるし~便利なんじゃないの~。うひっ」
 と、素っ頓狂な声と表情で提案するのだった。

 単なる冷やかしかと思ったが、言われた職人商人が納得し
「なるほど。これからそうしてみます。ありがとごぜいますだ」
 などとお礼を言う。
 

 例えば、米屋では米俵を牛に背負わせるのに、左右の平衡をとるための器具を提案する。

 うまやばし屋では世話になったとして、伝兵衛にお手製の計算書・図形問題の書かれた巻物を下賜されておられた。

 刀剣商には
「こんな太刀を打ってくれる人いるかなぁ」とか、
「3間の手槍(にしては長すぎる!)の柄に鉄の芯を入れると、どのくらいの重さになるん?」
 などと聞いて、できれば仕入れてほしいとか仰っていた。

 そして次の店に、踊るように飛び跳ねながら向かうのだった。


 しかも事あるごとに周りの者へ、『ぷれぜんと』と称して贈り物をすることが多い。何もそこまでしなくともよい気もするが、福などにも高価な布や小物を買って帰る。
 某にも高価な品を渡そうとする。
 いりませぬと断るとしょげた顔をされるが、そのすぐ後に自作の紙縒こより等を手渡してきて、

「これ、影ちゃん用に作ったから捨てられないよね。毎日髷に使ってね♪」
 と押し付けてくる。

 策と可愛らしさが同居している。

 この人物は、
 大人か? 
 童か? 
 殿の中には2人の者がおられるよう思えて仕方がないのだった。


 それから気に留める必要があることが一つ。
 ひと月毎に一度、2日ばかりであるが寝込むことがある。

 布団を被り怯えていたり、泣きわめいたり「父さん母さんネキ~」などと叫んだり、時には「許さない、絶対に!」と怨念の籠った暗い声を放つ。

 一度、心配して声をかけたのだが、聞こえないようであった。ただ一人、乳母の福だけには気を許すようで、飯や厠の世話をさせている。


 この2日間以外の日に全身全霊で働き、いや殿曰く「遊んでいる♪」ために心を休めているのだろうが……

 呪うような怯えるような原因といえば、関東管領様のこととしか考えられない。
 すなわち父母の敵として、絶対許さない」と思われているのか。

 おいたわしいというべきか、お傍に使えるものとしてその深い怨念、必ず殿の行動に影響するであろう故、心にしかと刻んでおこう。

 
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