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第1章:殿さまになっちゃうゾ
天才じゃないよ、ほんとだよ。
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1535年10月上旬
上野国厩橋城下長野道忠屋敷
長野道忠
(結構よい親になりそうな主人公の大叔父さま。義理の父30歳)
「おじうえ~。
まつかぜはふみがよめるようになりたいです。
あとかけるようにもなりたいです。
う~ん、かずをけいさん?
たしたりひいたりできるようになりたいです。
あとは……」
松風丸が舌足らずの口調でおねだりする。
松風丸。
姪の松が残していった男児だ。
松が臥せっていた部屋から見える松林を吹く清々しい風に因んで、松風と名付けられた。その後、産後の肥立ちが悪く2か月後に儚くなった。
最後は泣きながらであったが、笑顔で松風の顔を撫でながら、
「生きるのですよ、幸せになるのですよ」と、だんだん小さくなる声で話しかけていた。
秀政は……逐電した。
生まれてくる子の泣き声を聞いた後、いつの間にかいなくなっていた。
それまでの半年余り、荒んだ生活を送り、長野一族の希望とされていた若武者の姿はどこにもなかった。
そこまで追い詰めたのは誰であろう。
関東管領殿か?
父か?
私か?
考えても考えてもわからなかった。
私のできることは、松風を引き取ることだけであった。
私も既に30だ。
まだ子供は長子1人のみ。
長野一門として血族を増やさねば、逆に厩橋長野家が断絶することもあり得る。
このことからも松風を養子としたが、私を父とは呼ばせていない。
父は秀政だ。
それだけは譲れないと思った。
かといって叔父でもないのだが……
◇ ◇ ◇ ◇
松風は聡い子だ。
まだ1歳の赤子に「聡い」もないのだが、そうとしか言いようがない。
泣いて乳を飲み眠る。この日常が続くのは2か月くらいまで。3か月でハイハイをはじめ、そう広くはないが我が屋敷の隅から隅まで探索したらしい。
一度は厠に落ちそうになり大騒ぎをした。
乳母に付いてくれている近くの後家が、付きっ切りでいたおかげで事なきを得たが、その時だけだったか松風が泣いてぐずったのは。
それ以来乳母に付いて行ってもらわないと厠に行けなくなっている。
そんなこともあったが、今ではヨチヨチ歩きを始めている。
そればかりか、私の書棚の本を読もうとしたり、筆を使って何かを書こうとしたりする。
「松風。
其方は聡いな。
よし青柳大師さんに人をよこしてもらおう。
算術は……」
「まちにいる、あきんどのひとがいいです」
どこで聞いてくるのか。
「あきんど」などどうして知っているのだろう?
乳母に聞いたのか?
このような疑問がいくつもあるが、聞いてみても「??」という顔で、にこにことこちらを見るだけだ。
なににせよ、私は松風が聡いなら賢人に。身体が強く成れば武人に。なりたいものにならせよう。そのために私は生きよう。
瞼を閉じると浮かんでくる幼い松と秀政に誓うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
1535年12月上旬
上野国厩橋長野家領橘郷天台宗龍蔵寺青柳大師
賢祥
(毎回主人公に振り回される運命にある可哀そうなお坊さん)
あの童は伝教大師様の生まれ変わりか??
まだ童とも言えない齢にも拘わらず、平仮名カタカナはすぐ憶え、
「かんじをおしえてください」
と、催促する。
長野道忠様が短く切った細筆を器用に扱い、習い始めて1か月。
下手な大人の筆くらいには書けるようになった。
聞けば毎日平たい石に薄い墨汁を付けた筆で、文字を書く練習をしていたそうだ。 道忠様がお考えになったのかと思い、そう伺ったら「松風が用意してくれと言った」とのこと。
舌を巻いた。
筆は消耗が激しい。
紙に書いてもそうなのだ。
紙以外ではすぐに筆はダメになる。
それをすべすべした石に薄墨を付けた筆で文字を書くことで、高価な紙を使わず練習を何度もできる。
墨もそれほど使わずに済む。どこからそのような知恵が沸いてくるのか?
しかし仏教の教えには、とんと興味がわかないらしい。
「母上は仏の世界で元気に其方を毎日みていらっしゃるのですよ」
と、慰めにお声をお掛けしたのだが、
答えは、
「うん。わかっています。
いきているうちはいきているひとをあいてにします。
ははうえにはしんだらあえますから」
対応に困ってしまった。
心を平静に穏やかに致す仏の御教えが必要になる日は、まだまだ先のようだ。
そんな時に来ていただければ、その時には改めてお話をいたそう。
◇ ◇ ◇ ◇
1536年1月中旬
上野国厩橋馬場川通り。うまやばし屋
手代伝兵衛
(下ッ端商人)
長野のあの赤子。
どえらい奴になりそうだぜ。
旦那さんに長野の分家の子供に、数の数え方を教えてやれと言われて、めんどくせーと思いつつも門をくぐった。
行ってみてからわかったよ。相手がまだ2歳の童と先に教えろよ!
きちまったもんはしょうがねえ。早く帰るために、1から10までの文字を教えるだけにしようと思ったら
「もうかけます~」
だと。
こっちも頭きちまったから、じゃあこれは、これは?
これならわかんね~だろ? って和差積まで教えちまった。
俺なんか、
和差積まで憶えるまで3年かかったのを、なんで1刻でスラスラ解いちまうんだよぉ~!
次来る日までに「これやっといてください」と、昔旦那から頂いた帳面を写しておくように宿題を出しておいた。
2回目にお伺いしたときに、のけ反るくらいにおどろいた。この童は1か月で分厚い帳面をすっかり写しただけじゃなくて、自分で問題を作って、それを何度も解いていた。
すわることも怪しい童が、なんなんだよ、おい?
今度は商を教えたら、なんか変な書き込みをして、あっという間に解いちまったんさ。
それは誰に教えてもらった?
と聞いたら、
「ん~と。あたまにうかんできたかんじ~?」
もうしらん!
帰ったらうちの丁稚どもへの話しのネタにと思っていたら、これは内密に」と長野様に言われちまった。
せめて、今度越後の大旦那が厩橋を通りなさったら、ちょっとだけ話してみるくらいはしとくか?
上野国厩橋城下長野道忠屋敷
長野道忠
(結構よい親になりそうな主人公の大叔父さま。義理の父30歳)
「おじうえ~。
まつかぜはふみがよめるようになりたいです。
あとかけるようにもなりたいです。
う~ん、かずをけいさん?
たしたりひいたりできるようになりたいです。
あとは……」
松風丸が舌足らずの口調でおねだりする。
松風丸。
姪の松が残していった男児だ。
松が臥せっていた部屋から見える松林を吹く清々しい風に因んで、松風と名付けられた。その後、産後の肥立ちが悪く2か月後に儚くなった。
最後は泣きながらであったが、笑顔で松風の顔を撫でながら、
「生きるのですよ、幸せになるのですよ」と、だんだん小さくなる声で話しかけていた。
秀政は……逐電した。
生まれてくる子の泣き声を聞いた後、いつの間にかいなくなっていた。
それまでの半年余り、荒んだ生活を送り、長野一族の希望とされていた若武者の姿はどこにもなかった。
そこまで追い詰めたのは誰であろう。
関東管領殿か?
父か?
私か?
考えても考えてもわからなかった。
私のできることは、松風を引き取ることだけであった。
私も既に30だ。
まだ子供は長子1人のみ。
長野一門として血族を増やさねば、逆に厩橋長野家が断絶することもあり得る。
このことからも松風を養子としたが、私を父とは呼ばせていない。
父は秀政だ。
それだけは譲れないと思った。
かといって叔父でもないのだが……
◇ ◇ ◇ ◇
松風は聡い子だ。
まだ1歳の赤子に「聡い」もないのだが、そうとしか言いようがない。
泣いて乳を飲み眠る。この日常が続くのは2か月くらいまで。3か月でハイハイをはじめ、そう広くはないが我が屋敷の隅から隅まで探索したらしい。
一度は厠に落ちそうになり大騒ぎをした。
乳母に付いてくれている近くの後家が、付きっ切りでいたおかげで事なきを得たが、その時だけだったか松風が泣いてぐずったのは。
それ以来乳母に付いて行ってもらわないと厠に行けなくなっている。
そんなこともあったが、今ではヨチヨチ歩きを始めている。
そればかりか、私の書棚の本を読もうとしたり、筆を使って何かを書こうとしたりする。
「松風。
其方は聡いな。
よし青柳大師さんに人をよこしてもらおう。
算術は……」
「まちにいる、あきんどのひとがいいです」
どこで聞いてくるのか。
「あきんど」などどうして知っているのだろう?
乳母に聞いたのか?
このような疑問がいくつもあるが、聞いてみても「??」という顔で、にこにことこちらを見るだけだ。
なににせよ、私は松風が聡いなら賢人に。身体が強く成れば武人に。なりたいものにならせよう。そのために私は生きよう。
瞼を閉じると浮かんでくる幼い松と秀政に誓うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
1535年12月上旬
上野国厩橋長野家領橘郷天台宗龍蔵寺青柳大師
賢祥
(毎回主人公に振り回される運命にある可哀そうなお坊さん)
あの童は伝教大師様の生まれ変わりか??
まだ童とも言えない齢にも拘わらず、平仮名カタカナはすぐ憶え、
「かんじをおしえてください」
と、催促する。
長野道忠様が短く切った細筆を器用に扱い、習い始めて1か月。
下手な大人の筆くらいには書けるようになった。
聞けば毎日平たい石に薄い墨汁を付けた筆で、文字を書く練習をしていたそうだ。 道忠様がお考えになったのかと思い、そう伺ったら「松風が用意してくれと言った」とのこと。
舌を巻いた。
筆は消耗が激しい。
紙に書いてもそうなのだ。
紙以外ではすぐに筆はダメになる。
それをすべすべした石に薄墨を付けた筆で文字を書くことで、高価な紙を使わず練習を何度もできる。
墨もそれほど使わずに済む。どこからそのような知恵が沸いてくるのか?
しかし仏教の教えには、とんと興味がわかないらしい。
「母上は仏の世界で元気に其方を毎日みていらっしゃるのですよ」
と、慰めにお声をお掛けしたのだが、
答えは、
「うん。わかっています。
いきているうちはいきているひとをあいてにします。
ははうえにはしんだらあえますから」
対応に困ってしまった。
心を平静に穏やかに致す仏の御教えが必要になる日は、まだまだ先のようだ。
そんな時に来ていただければ、その時には改めてお話をいたそう。
◇ ◇ ◇ ◇
1536年1月中旬
上野国厩橋馬場川通り。うまやばし屋
手代伝兵衛
(下ッ端商人)
長野のあの赤子。
どえらい奴になりそうだぜ。
旦那さんに長野の分家の子供に、数の数え方を教えてやれと言われて、めんどくせーと思いつつも門をくぐった。
行ってみてからわかったよ。相手がまだ2歳の童と先に教えろよ!
きちまったもんはしょうがねえ。早く帰るために、1から10までの文字を教えるだけにしようと思ったら
「もうかけます~」
だと。
こっちも頭きちまったから、じゃあこれは、これは?
これならわかんね~だろ? って和差積まで教えちまった。
俺なんか、
和差積まで憶えるまで3年かかったのを、なんで1刻でスラスラ解いちまうんだよぉ~!
次来る日までに「これやっといてください」と、昔旦那から頂いた帳面を写しておくように宿題を出しておいた。
2回目にお伺いしたときに、のけ反るくらいにおどろいた。この童は1か月で分厚い帳面をすっかり写しただけじゃなくて、自分で問題を作って、それを何度も解いていた。
すわることも怪しい童が、なんなんだよ、おい?
今度は商を教えたら、なんか変な書き込みをして、あっという間に解いちまったんさ。
それは誰に教えてもらった?
と聞いたら、
「ん~と。あたまにうかんできたかんじ~?」
もうしらん!
帰ったらうちの丁稚どもへの話しのネタにと思っていたら、これは内密に」と長野様に言われちまった。
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彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
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あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
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