首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第1章:殿さまになっちゃうゾ

ボクっていらない子?

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 1534年3月初旬

 上野国厩橋うまやばし城長野賢忠居室
 長野賢忠かたただ
(主人公のひいおじいちゃん)


「父上。
 某、出奔いたす! 
 勘当していただきたく! 
 そしてあ奴と刺し違え……」


 次男の道忠みちただが、儂に向かってにじり寄りながら叫んでいる。

 わが厩橋長野家、武人の祖・物部から続く武門にとって、到底看過できぬ事態だ。
 隣で膝を鷲掴みにして座る、兄の道安みちやすも怒り心頭の表情で睨みつけてくる。


 孫の松の件だ。

 昨年、
 関東管領である上杉憲政のりまさ様の下令により、我が厩橋長野家が急遽出兵している隙を衝き、あろうことか惣領息子道安の長女・松を見初めたと称して乱暴狼藉を働いたのだ。

 13歳の管領殿は、幼き頃に関東管領の職に就いた。

 9歳から旗頭として擁立されていた憲政殿は、自らの意志で戦やまつりごとを動かせなかった。

 その鬱憤うっぷんを晴らすかのように、長野一族に様々な横暴を加えていた。

 それを深く臣従している為に反抗せず唯唯諾諾として無体を甘受していると勘違いした幼い関東管領殿は、ついに超えてはならない一線を越える暴挙に出てしまった。

 表向きの戦や仕置ならまだしも、私事で家臣の、それも独立した国衆の娘を凌辱した。

 ここまでされれば、どのような国衆でも誇りを踏みにじられ離反する。
 それがわからなかったのだ。

 管領を傀儡かいらいとして、上杉家を差配している小幡や安中も制止できなかった。

 というか、まだこのことは知らないはずだ。

 もしこのことが明るみに出て、周知の事実となれば、我が厩橋長野家の問題だけではなく、上野国いや、山内上杉管領家全体、ひいては坂東全域の情勢を揺るがせかねない。

 このままではいけない。



「今一度、頼む。秀政、堪えてくれ」
「父上! それはあまりにも!」

 この場にいる、四人目の武士。
 松と祝言を上げただけで出陣した永野秀政。

 幼馴染とも言える松との幸せいっぱいの結婚生活が始まるはずだった。
 18歳と14歳の初々しい夫婦。

 しかし、祝言直後の初陣の留守を、関東管領という手の届かない存在に襲われた。
 さらに悪いことに、松が懐妊してしまったのだ。
 顔ばかりか、体全体が青くなるような怒りに飲まれている姿で震えている。

 29歳の道忠は奔放な性格のため、激発しそうになっている。
 そろそろ、儂の覚悟を示せねば。


「秀政。儂はこれから平井の金山城へ出向き、関東管領様に談判してくる。
 其方の元服の儀に下賜したその脇差を預けてくれい」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 数日後
 上野国厩橋永野秀政宅
 長野道忠
(主人公の大叔父)


 先ぶれが父の帰りを告げる。

 帰ってきた父は私たちの前にドシンと腰を下ろしながら、手にした奉書をだらんと秀政の前に放り出した。

「秀政。すまぬ。
 儂にはこれが精いっぱいじゃった」
「拝見仕る」

 私は秀政が読む前に、素早く奉書に目を通した。

「こ……れは」


 約定

 一.関東管領上杉憲政は長野道安娘ヶ議。関知せず事。

 二.関東管領上杉憲政は日ごろの忠勤に鑑み、厩橋長野家に銭100貫文下賜す。

 三.関東管領家は上野国衆の断絶の際は、厩橋長野家より婿入り跡を継がせる周旋をする。

 四.上記跡取りの際は、関東管領家より後継に銭200貫文を下賜する。


「父上! 
 あ奴はなかった事にすると!?」

「これを表面化させても誰も喜ばぬ。
 強いてあげれば北条の奴らが喜ぶかの。
 できぬのじゃ。
 だったらできる限りむしり取ってやるしかない」

 父から奉書を受け取り、再度一読した。

 目を瞑り、
「ふうっ」と深いため息のように息を吐きだした。

「これが落としどころなのか……」

 秀政に奉書を渡しながら、眉間を揉み、考えを巡らす。
 秀政が読み終わるのを待って、父は非常に言いにくいことを伝えた。

「秀政。厳しいことを言うが、今は戦の世だ。
 国衆は生き延びることが一大事じゃ。
 関東管領家の御種をいただいたことを奇貨とせねばならぬ。

 お主は厩橋長野家の一門じゃ。
 しかしながら、山内上杉家は今、長野の血筋を入れることはできぬ。
 諍いになるは必定。
 故に松に一子が生まれるならば、捨て置かれる。
 だから……」

「だからむしり取るわけですか……」

 秀政が二の句を続ける。
 そして父はとどめになる言葉を告げる。

「長野のために、松の子を其方の子として育てよ。
 それが我が長野一族を守る奥の手となる。
 堪えてくれい」

 父は、首を垂れて深々と土下座した。
 こうでもしなければ、涙を見せてしまう。
 秀政の顔をまともに見れぬということか。

 秀政は、奉書を床に置き目を落としたままで、深くて太いため息を吐いた。


「わかり申した。生まれますれば……某の一子として大事に育てまする」

 生まれますれば……
 というとてもとても小さな声が再び聞こえた気がする。

 
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