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第12章:ドラゴンスレイヤー!
『スローに謙信』っていうマンガ描いてやるぜ(謙信視点)
しおりを挟む<上杉謙信視点です>
加賀国。倶利伽羅峠西6km
小高い丘。
「御実城(上杉謙信)さま。織田勢の先手、全て騎馬。
その数、およそ1000。
後ろにも1000程の騎馬が」
母衣衆が伝令として戻ってきて儂に伝える。
織田は鉄砲だけでなく、騎馬も数をそろえている。
三方ヶ原で信玄坊主の首を取った明智光秀の隊か?
織田の精鋭をこちらへ向けて来たか。
義昭さまの檄(兵を上げよという命令)に応じたのは、本願寺や三好だけであった。
毛利は兵糧を入れたのみ。しかしその兵糧にて本願寺は6万もの兵を集めたという。
一向宗は手ごわい。
今は亡き、朝倉宗滴《あさくらそうてき》殿。戦功者(戦が上手い人)の宗滴殿ですら、一向宗相手の戦で命をすり減らした。
儂はその轍を踏まず、一向宗と和解した。
そしてこたびの織田に対する挟撃。必ずやうまくいくであろう。
わが神速に勝るものは無し。
たとえ騎馬軍団でも、全てが速いわけではない。兵糧がついて行かぬ。精鋭の明智勢がこちらへ来ているということは、摂津が絶体絶命という事よ。
いつまでここに居れるか、信長よ。
儂は最近、上方でよく飲まれるようになったウヰスキーというものを飲み干す。
腸に染み入る。
この香りといい、舌触りと言い、癖になる味ぞ。
多くの者は水で割るなどして飲むが、儂は濃い酒精のまま飲む。これぞ漢の飲み方。透明な徳利に貼ってある紙には『参鳥居』と書いてあるが、神に近づく酒じゃな。
「御実城さま。土地の者が織田の情報を持って参りました」
百姓が2人程、陣幕に入ってきた。
手を出させる。
鋤鍬の豆ダコがある。草では無かろう。
「お殿様。織田の軍勢はだいたい4万ですだ。でもその多くが最近雇われた流れ者の雑兵との事。
手癖が悪くて困っていますだ。行進もダラダラしていて動きが遅いと怒鳴られている者が多いそうな」
全く違う村の百姓という2人から同様の情報が入った。
確実性は高い。
烏合の衆だな。
最精鋭を潰せば勝ったも同然よ。
明智を潰す!
「左右の伏兵に伝えよ。予定通り敵の先鋒を包囲撃滅する。半分だけ通らせよ。残る半分は伏兵で押さえて置け。
先に罠にはまった奴を潰してから反撃に出る。
心せよ。毘沙門天は我らの下にいる!」
儂は再びウヰスキーを一気にあおった。
◇ ◇ ◇ ◇
<光秀視点です>
明智機動部隊。前衛第1大隊
「ご主人様~。甲賀の人たちの情報によると、左右の山に伏兵が隠れているです」
となりに馬を寄せて来たアゲハが報告に来た。
頭をポンポンしてやりながら兵数を聞く。
手前の山に2000。
北の山に1500か。
「殿。多分ですが北の山の1500は囮。先に見つけさせ、驚いて混乱した所を南の2000が襲い掛かるものかと」
半兵衛っちが即座に判断。
さすが天才軍師。
「殿。伊賀者を使い、織田の軍勢に関する偽情報はうまく伝わったようにて。この応用で明智軍団の凄さを日ノ本中に轟かせて天下を取り……モゴモゴ」
先を読むことすごい官兵衛。
だが後半は黙らせる。
「十兵衛よ、お前は肝が据わっているなぁ。越後の強兵15000の真っただ中に1000で飛び込むとか。
半端じゃね~ぜ。やはり俺が見込んだ大将だ。天下を取ったらこの辺りを領地にくれないか?」
加賀前田百万石ね。
そう言わずに秀吉君と一緒に天下取ってね。俺いらないから。この戦い終わったら、この辺りにいい物件探しに行こうかな。
日当たりの悪い一軒家。
6畳くらいの狭い奴でいいです。
隙間風がフィギュア塗装後の換気にちょうどいい?
「上杉勢。殿に似せて陣取っている先鋒は柿崎景家。猛将だな」
川中島で大活躍した先手大将。
普通ならこいつがいれば、殿は安泰じゃね?
これをおびき寄せるのは厳しいな。巣穴に引っ込んだドラゴン。やはりこっちから踏み込まないと勝負つかないかな。今回の戦の目的は謙信の首か、越後の精兵に大打撃をあたえる事。
「突っ込むか? 『あれ』ならやれるぞ?」
白い歯をキラキラさせて、いつでも行けるアピールをする利家のに~ちゃん。
「まだだな。後ろの第3大隊との間に割り込んでくるんだろ? 伏兵が」
「流石は殿。わたくしの予想と同じ……」
いや、それさっき官兵衛がモゾモゾ教えてくれただけです、はい。
この2人がいると、別々に作戦聞けるから結構使えるぞ!
「では、それまでは陣形を整えつつ、柿崎勢へゆっくりと向かう」
皆がピースサインを左目の前に合わせて答える。
だんだんこいつらもヲタクの掟を守るようになってきたな。もっともっと深淵の技を身につけさせてやろう。
まずはかっこいい右手の疼《うず》かせ方からだな。
「殿。第3大隊との間を遮断されました! 四方敵だらけにて!」
そうだね。
でもこうじゃなくちゃ逃げられちゃう。倶利伽羅峠に逃げ込まれたら厄介だから、その前にドラゴンの首をはねる。包囲撃滅したかったけどここまで用意周到に陣取られちゃうと釣り野伏せはできない。
「よし時は来た。北国のドラゴンを切り刻む!
第3は第6攻撃陣型で交互反転射撃、その場で装填、前進せよ。敵3500などぶっ潰せ!
第1は第7攻撃陣形。
柿崎勢を削りつくせ!」
第1大隊の騎馬が薄い騎幕を張る。
各横隊は50騎1小隊。
これが円となり半回転して戻って来る。
ヨーロッパでカラコールと言われた陣形だ。
まあこの時期のピストルってせいぜい5mくらいしか有効射程内から、意味がないものだと言われていたけどね。
明智勢にはあれがあるんすよ。
一式弾と三式弾。
拳銃2丁持って突撃します。
一発目は遠くから一式弾で命中性重視。近づいたら2丁目に込めた散弾である三式弾を撃って士気を崩壊させる。
これを続けるんです。
16個小隊あるからどんどん行きましょ。
少しは弓にやられるものもいるけど、高速で回ればそれ程被害は出ない。
折を見てサーベルチャージ!
これぞヲタク流
『車懸の陣』
やっぱ謙信君にはこれですね。お株を奪っちゃう快感!
見る見るうちに柿崎勢の士気が崩壊していく。反撃できないのって辛いよね。戦死者はあまりでないけど、散弾の弾が一粒でも当たればやっぱコワイ。
後ろでは第3大隊が、ごり押しの鉄砲斉射での前進。
完全に谷間が鉄砲の轟音で埋め尽くされて、意気軒高であった越後勢の面影はない。
もう逃げるのは遅きに失したね。神速をもってしても立て直しての反撃は不可能。
俺は一緒に摂津からついて来た世紀末な突撃隊長に突撃を指示した。
「行け! 慶次よ。柿崎景家だけは逃がすな。
あいつの首だけでいい。謙信の所までは突っ込むな。本陣はまた車懸の陣で削ってから突撃する。
死ぬなよ。無理はしなくてもよい」
その答えは決まっているよな。
「おうよ。殿さんが塗ってくれたこの赤い肩袖にかけて誓う。
日ノ本を真っ二つに分けた応仁の乱より始まった、100年戦争の世を殿さんの手で終わりにさせてやる。
そのためにはまだ死ねん。
天下人に殿はなる!」
慶次君。
君も十分ヲタクに染まってきて嬉しいよ、光秀。
お前にはレッドなショルダーの意味、全く意味が解らないと思うけど。
突撃していく本部中隊の精鋭を見送りながら、アゲハにこの辺りに今のセリフを聞いていた一般人がいたら黙らせるように指示する。
流石にここまで戦功立てちゃうと信ちゃんが嫉妬、いや正史の光秀みたいに邪険にし始めそうでコワイ。
ずっとよい子で、幸せに暮らしたい光秀です。
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