16 / 70
第4章:ちょっと伊勢を切り取ってこよう
義昭(まだ義秋で~す)
しおりを挟む1567年8月
美濃国岐阜城
やっぱり1年くらい歴史早まっています。
なんで1567年中に義昭来ちゃうんだよ!
1568年だろ、68年!
お市様も1年早く結婚しちゃうしさ。
そりゃ交渉うまく行ったさ。俺が頑張ったから。てゆ~か、半兵衛っちが頑張ったんだけどね。
なんで俺ばっか重要な仕事が回って来るんだよ!?
調略なんか秀吉がいるでしょ、人誑しのプロ。
浅井家の内紛に手を回して、長政の父ちゃん、つまり久政おじちゃんの大好きな猿楽師紹介したりさ、連歌の会を毎月開くとか。それは涙ぐましい努力を……
久政おじちゃん、いい奴なんだよ本当は。サブカル知識と全然違ったよ。内政ばっちりよ。治水灌漑技術この当時の最高水準の技術者呼んで頑張ってた。
外交も弱腰とか言われたけど、六角と良い関係持っていたから豊かになったわけ。
それを息子が壊しちゃってさぁ。
俺、嫌いだ。長政。
野蛮な奴、嫌いです。
◇ ◇ ◇ ◇
「では、此度の上洛の件。上総介よ、先導せよ」
「ははっ。畏まってござる」
狩衣(あの公家さんが着ているやつ)着て胸を反らした、えっらそうな小男を前に、信ちゃん平伏。
あれ、足利将軍家の後を継ぎ第14代の将軍職を足利本家のスペア的な平島公方だっけ? そこの出身、義栄くんと争っている最中。
向こうは実質的な天下人だった三好長慶の死後、落ち目の三好三人衆という連中に引っ張り出されて推薦立候補しています。
それに対抗しているんです。
いや、対抗しないと命危険だから。抹殺されるから。少しでも危険な芽を摘んでおこうと将軍に近い人、減らすんだよね。
この人、先の第13代将軍足利義輝の弟だからさ。危険なんだよ。
信ちゃんは上洛したい。
義秋にーちゃんは、自己防衛のために上洛して将軍になりたい。
意見一致!
思惑一致!
レッツゴー!!
ということで、これから上洛戦が始まります。
……でもね。
気になることが。
この義秋のにーちゃんさ。
連れてくるのは正史では『光秀』なんだよ。
俺?
やってないっす。
だって幕臣じゃないし。
文化的素養なんかないから、京都に疎いし。
で、連れて来たのが秀吉なんだよ。
あいつ、俺とおんなじか、それ以上に教養ないでしょ。それとなく聞いてみたんだけどね。
いつもの大笑いの後、胸を張り「よい家来が出来て、その者が手引きした」とかなんとか。
誰だよ、そいつ。
後で会ってみるかな。まずはアゲハに調べさせるかな。
あ。
知らぬ間に謁見の儀が終わっちゃいました。
明日は大評定で作戦方針を説明だとか。信ちゃん、大抵上位下達だから一瞬で終わる?
でも、最近は意見を求めるようになったね。
ワンマンは組織が大きくなると嫌われるよ。
謀反に気をつけてね。
でも、俺はやんないから。
だから優しくしてね。
痛くしないでね。
◇ ◇ ◇ ◇
「キンカン! 貴様は北伊勢に行け!」
は?
さっきの将軍謁見のすぐ後、呼び出されました、俺。
急に何を言うのか?
これから全兵力を持って、上洛するんでしょ?
正史での北伊勢攻略この年だけどさ。やっている暇ないじゃん。
兵力足りない。
そんな感じで視線を送ると、
「調略じゃ」
やはりそれくらいでしょ、打てる手は。
滝川一益が先鋒で第1次侵攻したけど、後続ないと知れば徹底交戦されるよ。この時代は徹底抗戦なんか珍しい。だいたいある程度の所で開城とか降伏。
だってそれで勝ったとしても、農民疲弊して反乱祭りで大名やってられなくなる。
ある程度打撃与えてからの調略ですよ。
だっ、がっ!
今回は打撃与えられるの?
そんなに兵力持って行けないでしょ?
「兵力はいかに?」
「一益に兵6000を預ける。それに寄騎せよ」
6000……
ゲーム知識では、伊勢国全体で50万石以上あったような。その半分として少なく見積もって25万石。40万石で総動員兵力1万人から2万人だから。7000人?
まさかこの時期、総動員なんかするはずもなく。
半分の3500。
これを織田の6500弱で潰せるか?
いや潰さなくていいんだよ。こっちにつけば。半数を調略できればなぁ。
「一益に勝三郎(池田恒興)をつける。あ奴らは北伊勢に縁がある。切り崩させる故、貴様の部隊で一撃後、その威力を背景に調略する」
なるほど~。さすが信ちゃん。
戦だけではないね。こういう硬軟混ぜての作戦でなくちゃ勝てないよ。
「はっ。承知仕りました。この光秀、一命をとして北伊勢を攻略……」
「そうではない。お主の使命は、一撃を加えるだけじゃ。北伊勢の攻略は一益の仕事。貴様はすぐに取って返し、5日のうちに観音寺攻めに参加せよ」
ほへ?
今、手元に地図なんかないけど、どう考えても100kmくらいあるよね、伊勢亀山付近から鈴鹿山脈大回りして関ヶ原抜けて南近江行くのに。
それ鉄砲担いでよいコラショって。
この時代の街道なんか、石がゴロゴロ、穴がボコボコ。荷駄連れていくから一日20km行軍すればヒイコラしょ。
急いで5日だけどね。
向こうで死闘を繰り広げるんでしょ?
やだよ、そんな苦労。したくな~い。
なにか逃げる手は……
そうだっ!
今後の戦略を考えると、六角が甲賀に逃げ込んでしぶとく交戦を続けたから信長の戦略的自由性が制限された。
だから信長包囲網で苦戦したんだっけ。
だったら先に、この時期甲賀を押さえればいい!
ここも調略と合戦の併用で。
「信長様。某に名案が」
「ん、申せ」
ここはこの策が有意義であることを強調、その後、危険極まりないことを説明。そして最後に「できないかもしれないけど、その時は許してね」的に予防線を張る。
「上洛後のことにございまする。京の都と岐阜との交通線の安全が最重要。そこに脅威を与えるもの。それすなわち比叡山と南の守り。
比叡山は今後の課題ですが、今せねばならぬのは六角の完全消滅による、南の安全確保。これ無くして上洛後の戦略は展開できませぬ」
信ちゃん、黙ってしまい「続けよ」という目つき。
「観音寺城攻めは織田勢総力を挙げても不可能と見ます。よって義秋様からの大号令を発布。周辺諸将の来援を待ち、取り掛かるのが吉。
その間に古来から将軍や管領の逃げ場となっている甲賀を押さえまする。これで逃げ場を封じ、適当な条件を持たせて仲介者に降伏を呼びかけまする。
ことに隠居の六角承禎と当主義治との離間策。それから蒲生を離間させまする。そのための伝手として、伊勢の関氏と神戸氏を真っ先に降伏させまする。
うまく行くかは某の実力次第。また、蒲生を説き伏せる事が出来るかがカギとなります。準備は入念さが必要ですが」
そして、ダメだったらふつ~に観音寺城攻めましょ、と言おう。それを言おうとしたら信、先回りして……
「よし。キンカン。お主に甲賀を任せた。
しかし観音寺城は並行して攻める。鉄砲隊は犬(前田利家)に任せて近江へ寄こせ」
はひ?
「調略なれば鉄砲隊は要らぬ。北伊勢を平定後、一益が北伊勢を押さえる。その分の補完として鉄砲隊を観音寺攻めに使う。
キンカン、お主は単身、蒲生をはじめとして甲賀の国衆を押さえよ」
ま、待ってください。
単身赴任?
部下を取り上げて、成績不振の地方の子会社に出向させられて、いつ帰って来れるかわからない的な?
「しかし、そのような短期間にての調略は……しかも戦力を背景とした威しも無く……」
「命じた。二度とは言わぬ」
ああ。神様。仏様。
あ、違った、俺、無神論者。
ああ、稲生様!
ヘルプ~~~
光秀、知ってる。
信、できないと思ってる。でもやらせる。鬼~~~~~!!!!
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜
紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。
第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください


国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版
カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。
そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。
勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か?
いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。
史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。
運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。
もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。
明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。
結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。
この話はそんな奇妙なコメディである。
設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。
特に序盤は有名武将は登場しません。
不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる