13 / 70
第3章:美濃攻めしよう
墨俣十六夜城その1
しおりを挟む1566年10月(新暦で通します)
「なんとかせよ!」
いつもの信長語翻訳係、司会の丹羽五郎左さんが説明を始める。
「美濃攻めの敗因の一つが、国境の長良川を渡り、補給戦の伸びきった時に、安藤、氏家、稲葉などの国衆に側撃されるなどして稲葉山城まで進撃できないこと。
よって攻撃策源地を対岸に設置します」
というようなことを、現時語にて解説。
「橋頭堡作ろ~ね」という事です。
「キンカン! 申せ!」
最近慣れてきました。
信長語。
これは
「お前んとこに敵として大活躍していた軍師の半兵衛っちが来たよね。その子のいうことにはどうすればいいかな~?」
ということ。
「はっ。廃城となっている墨俣を修築。そこを拠点とし渡河地点を確保。順次、稲葉山城への道を作るのが得策かと」
すでに安藤さんちと氏家さんちは、美濃の支配者である斎藤龍興に見切りを付けているから、積極的には攻撃してこないという予測も言っといた。
信ちゃんは顎に手をやり少し考えた後、
「猿! 修築せよ。一月でやれ」
無難な指名だよね。
前例があると信頼あるよ。この前の石垣の修理は速かったからね。
でも、
「は。有難く拝命いたします! ですが、この猿。7日にて修築して見せまする!」
そうなんだ~。
太閤記なんかの墨俣一夜城。無理だよね。
何もない所に砦を一夜にして作るとか、令和のゼネコンでも不可能。
まあ、はりぼてならできるけど。
7日間。吹きすぎじゃね?
あそこ見たことあるけど、廃城というか廃墟だよ。崩れた土塁あるけど、石垣なんかは当たり前だけどない。堀もなければ建物一切ない。
たとえ一重の柵だけで囲むだけでも、襲撃を気にしながらだったら1か月が妥当。
これを成功させたらもちろん大きな戦功で、武将連中も少しは黙るだろうけどさ。秀吉の配下って何人?
今、秀吉の禄は500貫文(1000万円)。家臣は2人? 総動員しても20人行かないんじゃね?
多分、長良川を取り仕切っている蜂須賀党(蜂須賀小六っていう頭目が率いてる野盗まがいの連中)を調略するんだろうけど、太閤記のように木曽川に上流で切り倒して加工した資材を、いかだにして流すとかどう考えても無理ゲーでしょ?
どうするんだろ?
お楽しみ。
と思っていたら、評定が終わった途端に信ちゃんに呼び出されました。
◇ ◇ ◇ ◇
「キンカン。お主の部隊はどうじゃ」
どのくらい使える練度かとの問いだね。
「は。総員、250名。鉄砲500丁、馬匹150。一日に一斉射撃20回程度は繰り返せるかと。補給をしていただければ、敵2000程度ならば10日間は持ちこたえられます」
このタイミングで呼び出されたということは、秀吉の援護でしょ。やることは。
「(柴田)権六に兵1000を預け、支援させる。1月は持たせよ」
1000は多いよ。
補給が大変。補給部隊の護衛までしなくちゃならなくなる。支那戦線の日本軍みたいになる。
「しかし、補給が。300程度の兵で支援をお願いいたしたく」
信ちゃん、やっぱ頭いいよね。補給の事を考える余裕が頭にある。
「では勝三郎(池田恒興。信長の乳兄弟)に長柄と弓300をつける。合力せよ」
あ~。
それヤヴァイやつ。
向こうが超上役じゃん。指揮権が向こうになっちゃう。戦術の自由性がなくなる。
「采配はどちらに」
「キンカン。お主じゃ」
ひぇえええ。
また無茶振りブッ込んできました~
俺が信ちゃんの乳兄弟に指図なんてしたら古参連中が~
どうしよ。
どうしよ。
「以上じゃ」
信長。
向こうを向いてスタスタと行ってしまった。
光秀、知ってる。
信、光秀がアタフタするの楽しみにしてることを。しかも笑顔で。
◇ ◇ ◇ ◇
「すまないな。信長様は悪気があるわけではない。少し稚気が多いだけじゃ」
それが悪気っていうんです、池田の恒興さん。
でも何、この悟った感のある性格の池田恒興。もっとおっかない奴か、腹黒武将かと思ったよ。中国大返しで真っ先に秀吉についたから雪崩うって秀吉有利に。こいついなけりゃ光秀生き残れた?
あの信ちゃんについていく幼馴染が、こんな悟りを開くとは思えない。
ああ、信ちゃんの後始末が多くて達観しちゃったんですね、納得。
「それでは、明智殿。この配置でよろしいか」
川原の目立たないところに張られた陣幕の中で、矢盾をテーブルにして作戦会議。
いや~、この地図作るの大変で。
百姓や漁師に化けた技術者が三角測量して作ったんだよ。何人か斬り殺された時は泣いたね。真面目にだよ? 御茶らけるほど人間腐っちゃいません。
「池田様。作戦の要諦は、敵を混乱させる事。決して正面から戦い、損害を与えたり撃退しようとしたり思わないでください」
半兵衛っちが念を押す。
有名な八面埋伏ですね。
そこら中に伏兵を置きます。普通にやったら、こっちも味方がどこにいるか分からなくなります。だって向こうの方が地理に詳しいから。
そこで、ちゃちゃら、ちゃっちゃ、ちゃ~ん!
『1/5000の地図~~』
方位磁針がギリギリ間に合いました。
これで各分隊、同士討ちしないで狙撃、面制圧射撃できますです。
「ご主人様~。敵が動き出しましたです~」
どこからかアゲハの声。空蝉の術という奴だ。
これって糸電話みたいな奴だったから、改良して20m位遠くても使えるようにしてやった。糸じゃ作れなくて5mの針金を4本繋げて作っている。
「あまり意味がない。使えない」と言ったが、「これで聞くご主人様の声がご褒美なのです♪」という意味不明な答え。
「アゲハ。木下殿の捗り具合は?」
「え~と。北側正面の柵がもう少しで出来上がりますです」
新月の夜から始めて、作業開始から2日。
結構なスピードだな。流石内政マシーン。チート野郎だぜ。
「では参ろうか。明智殿」
結局、上司かぜ吹かせている池田くん。
きちんと計画通り動いてくれるんだろうか。
光秀、とても心配。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜
紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。
第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください


国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版
カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。
そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。
勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か?
いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。
史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。
運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。
もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。
明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。
結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。
この話はそんな奇妙なコメディである。
設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。
特に序盤は有名武将は登場しません。
不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる