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第3章:美濃攻めしよう

文化的侵略(信長視点)

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 <信長視点です>


 1565年
 尾張犬山城


 ようやく尾張を統一できた。
 親父殿(織田信秀)の念願が果たせた。

 さらには美濃(岐阜県)中部の国衆が徐々に織田家に服従してきた。国衆は勢力変化にさといものよ。


 今考えるべきは今後どうするかじゃ。
 東の今川の脅威は、義元を倒したおかげで弱まった。更には松平家康と同盟を組んだことで、ほぼ脅威は排除できた。

 南西の伊勢(三重県)は、長良川をはさんでいる事と制海権を握っている事で安全じゃ。

 残るは北よ。
 美濃を攻め取る。
 帰蝶(信長の正妻)を同盟の証として寄こしてきた今は亡き(斎藤)道三。
 あのまむしが残していった『息子ではなく信長に美濃を譲る』という書状。
 あれを使うか。

 実質的には意味のない証文。だがこれでも美濃を切り取る『口実』にはなる。


 すでに尾張は桶狭間の後、内政へ力を注いだお蔭で、美濃よりも財政が堅固。逆に美濃の国衆の結束は徐々に崩れている。

 ここは調略をかけて国衆を切り崩し、その後一気に美濃を平らげる。
 この方針でいいであろう。



 内政。

 半介(佐久間信盛)や権六(柴田勝家)は戦には重宝する。
 じゃが、内政を任せるのはいまいちじゃ。
 新五郎(林秀貞)、五郎左(丹羽長秀)は使える。吉兵衛(村井貞勝)は重要な奉行職に欠かせぬ。

 手駒が少なかった。
 幸い、この5年で2人も育ったわ。

 キンカンと猿。
 2人とも目先が効く。
 猿は俺の言うことを素早く理解、先回りして実行に移していく。細かいことは指示しなくともよい。俺が思った以上の成果を上げて来る。
 見事なものよ。
 少し出世意欲が高すぎ、周りといざこざが起き始めているが。


 じゃが。
 キンカンは……異様だ。

 その手際。なにやら妖術を見ているような、狐にたぶらかされているように思える時もある。
 あの馬鹿高い硝石を、たった3年で大量生産を開始できるまでに仕組みを作り上げた。まだまだ便所が足りないためごく少量だが、領土が増え人口が増えれば、その分爆発的に生産量が増えるであろう。

 周りにも気を配り、自分の勲功を他人に譲るので評判は上々。


 石垣修復の時も新しき滑車と言ったか、器具を発明。普通必要な人足の二十分の一で済ませた。

 その後の献策も皆、突飛なものばかり。
 道路を作るために測量を。そのための数学を使える人材を育成するための学校。学校を作るために黒板、白墨。その職人を育成する。
 次から次へと考えが広がっていく。

 今日は真珠養殖をして南蛮に売りつけるとか献策しにきおった。

 そしてあいつの懐には膨大な銭が流れ込んでいくという。それを織田家のために使えばよい。だから見逃しておこうと思った。余興や娯楽のために浪費しなければよいであろうと。

 じゃがあれはなんじゃ!
 面妖な絵。
 不気味な形の人形。
 南蛮とも違う衣装装束。
 不可思議な食い物。
 その手のものを数限りなく作っておる。

 確かに慣れれば楽しめるであろう。うまいであろう。
 俺もあのカステーラやクッキーは好物じゃ。 傾奇いた物も好み。

 じゃが! 
 それを作るのに琉球から馬鹿高い砂糖を買い付けるとか、異常だ。
 そんな銭があれば城修復や、鉄砲増産に使うべきだ。道路整備も費用が馬鹿にならぬ。

 そう𠮟りつけたらなんというたか。

「これは文化的侵略でござる」

 なんじゃ?それは。
 そう尋ねた。聞いたこともないわ。


「一向宗門徒や比叡山に心を寄せる者共は習合しやすいのはご存じの事かと。このきずなをぶった切ります。そのために奴らの基準で言えば堕落した民衆を増やします。
 これらの大衆が求めるものを、信長様の足元に並べておくのです。
 さすれば皆が信長様のいる場所をとあがめるでしょう。聖地巡礼をするものが引きも切らずという事に。
 混み家や虎の亜菜、アニ名徒を信長様の居城城下に設立するのでございまする!」


 最後の方は全くわからなかったが、納得がいったわ。
 内政が既に外交調略に結びついておる。
 誠に天晴れ!

 しかし。
 この俺への「ぷれぜんと」とか称して置いて行った薄い冊子はなんじゃ? 男同士の絡み合いの絵など見とうはない!
 確かに俺は衆道しゅどう(BL)を嗜む。しかしこのようなものを見ても面白くはないわ!

 そう言うと

「それは外交にお使いください。上杉輝虎(謙信)に贈答なされませ。必ずや喜ばれまする」

 本当かどうかは知らぬが、何かの折に送ってみようか。


 とにかく、あいつの元には多くの銭が集まっている。
 仕組みを聞くと「ないしょ」と言ったが、首をはねると脅したら簡単にはきおった。大分俺が怖いらしい。

『委託製造販売』というそうだ。
 あいつの領地は少ない。勲功が多いために加増したが、それでも800貫文(1600石=1億6千万円)だ。
 その領民・領地の経営に半分は消えていくであろう。

 故に残る400貫文で人を集め、新たな特産品を製造して売ったとしても大した収入にはならぬ。よって思いついたアイデアを大店の商人に売りつける。それも歩合制だそうだ。10000貫文の売り上げが出たら50貫文を貰うというような。
「スマイルカーブで川上を取った」
 とか言っておる。
 訳が分からぬ。

 これを既に数十種類契約していると。
 だから毎年5000貫文(10億円以上)、つまり2万石の領地の年貢と同じ収入を得ている!
 思わず殴りたくなってしまったわ。
 そんな勝手働きは許しておくわけにはいかぬ。

 しかしすぐさま考えを改めた。
 こいつにこの2万石の収入を預けて置けば、さらに大きな勲功をあげるに違いないと。

 幸いこいつは肝が小さいと見た。
 戦場では命知らずじゃが、俺にはとことん従順。
「この銭収入で最強の軍団を作って見せよ!」と怒鳴りつけたら、一瞬、天が落ちて来て潰されたような表情と仕草を見せて嘆いた。

 しかしすぐに立ち直り
「わかりましてござる。必ずや武田や上杉などの軍勢も撃破できる備えを編成いたしまする!」
 と見事な若武者に戻り、力強い返事をしてきおった。

 じゃが。
 その後、下を向き、俺に礼を取る仕草をしながら小さい声でつぶやいている言葉は全く意味が分からなんだ。

「最強部隊、サブカルだぁ。これこそヲタクの喜ぶ厨二的な存在。ナポレオンの大陸軍作っちゃうか。いあいあ、目指すなら秋山支隊。でもミシンとハーバーボッシュ法がネックで……」


 とにかく変な奴だが使える。
 あいつにもそろそろ手駒が必要だろう。
 寄騎をつけてやろう。


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