2 / 70
第1章:織田家に早めに就職しておこう
槍の又左
しおりを挟む真面目な連中の描写です。
1560年6月
尾張国桶狭間
富永氏繁
(今川義元馬廻り衆。主人公に最初にいじめられる可哀そうな人)
義元様を、早く大高城へお入れせねば。
我ら馬廻り(親衛隊)のすべてを犠牲にしても、義元様さえ無事でいればこの戦い、再興を期せるはず。
まだ兵力差は圧倒的なのだ。
ずが~~~ん!!
左手より轟音。
何事?
1呼吸(5秒)ほど置いて更に1回、2回、3回。
見ると、前を行く馬廻りの者が落馬している。
なんと。
兜に穴が開いて、血と脳漿を右へぶちまけている。
これは……
西国大名たちがしきりと使い始めた種子島か?
織田の子倅も数多くそろえているという報告もある。
「富永さま! 左手に矢盾。草木で隠されております!」
見るとその辺りが白煙で覆われ始めている。
種子島を発射した煙か。
音は4発。
最低4人はいる。
しかしそれに続いて、矢が飛んでくる。これも正確に徒武者達の顔を射貫いている。
儂の顔にも飛んできた!
手にした太刀で払いのけるが、左からの矢は躱し辛い。
次々とお味方の騎馬が倒れる。
「富永さま。残る手勢は3騎。御指示を!」
「弓兵を並べよ。敵の吶喊に備えよ!」
この急行軍だ。
長柄足軽は本陣のしんがりに全ておいてきた。
弓兵も5名のみ。
だが数名の吶喊ならば、射すくめることできよう。
「矢盾より大男が。その後ろにもう一人小兵」
「それだけか?」
おかしい。
後ろで援護をする者がいると思った方が良い。
「徒の者。あの武者が深田から出ようとする足場の悪い時に、敵を仕留めよ」
幸い、あぜ道は2本のみ。
2名は曲がりくねった同じ道をこちらへ駆けて来る。
矢が5本、また5本。
2名の敵兵に飛ぶ。
いいぞ。
大男は兜の錏を傾け矢を防いでおり、前進できないでいる。
「この間に義元様をお逃がしいたせ!」
既に20間ほどまでに義元様の騎馬は近づいてきている。
この伏兵をかわせば、あとは平地。一気に大高城まで駆ける事、できよう。
と、その時
大男の影から、脇をすり抜けるように小兵が現れ、突進してきた。腰の後ろから2本の小刀を抜き放つ。
5人の弓兵はすかさず、そちらへ目標を変えて矢を放つ。
しかし!
そいつは両手の小振りの刀にて、矢を斬り落として何事もないように突き進んでくる。
しかも足元は深田。
なぜ沈まんのだ!
「徒の者は小兵を押さえよ!
弓兵は大男を射すくめよ。
死ぬ気で押さえよ!!」
皆の士気は高い。
伊達に馬廻りに採りたてられているわけではない。
「なに奴?」
「うがぁ」
「ふゅう」
「ごふっ」
兵が倒された気配。何事? 左手を見る。
そこには弓兵が瞬く間に倒されていくのが見えた。
灰色の髪に、緑と茶色のまだら模様の小さな影が、弓兵の背中を飛び越え、股の間を、脇を、舞うようにすり抜け、足軽達の首筋や脇・内ももを切り裂いていく。
新手か。
大男と小兵に気を取られ過ぎた!
別のあぜ道を回り込んだやつに隊列を掻き回される。
見たこともない身なりだが伊賀甲賀の者か?
「うぉりゃぁ! どけぃ。
我は織田家、信長さま(元)馬廻り衆、前田又左衛門利家。
今川治部太夫義元殿が首、頂戴しに参った!
命が惜しいものはすっこんでろ!」
長大な手槍を振り回しつつ接近する大男の武者に、馬廻り衆は吹き飛ばされ突き刺されて、次々と果てていく。
その脇を縫うように、儂に正面から小兵が迫って来た。
速い!
「なに奴!
名を名のれぃ!」
若い。
小兵は十三四か?
「名乗りを上げるのも仕事の内かな~。
めんどくさいけど教えてあげるよ。
美濃明智の住人。
明智十兵衛光秀。
じゃあな。おっさん」
目も止まらぬ速さで馬の左に回り込んで、太刀を振るおうとした儂の右腕を掴み引きずり落とす。落馬の衝撃で息が詰まる。
ぐふっ。
鎧通しで脇腹を抉られたらしき痛みと共に、今度は目の前に血飛沫が見えた。
皆の者。
義元さまを守……
◇ ◇ ◇ ◇
今川義元
(海道一の弓取り。治部太夫👈とにかく偉い奴)
「義元さま!
前方、富永さまが討ち死に!
我らが退路をこじ開けます故、その間に大高城へ!」
近習の者の切羽詰まった声。
ここに伏兵がいたとは。
織田のたわけにしてはようやるわ。
いや。
そんなことを言うている暇はない。儂はここで首を取られるわけにはいかぬ。
まずは尾張を手に入れ、美濃・近江を手中に、そして……
「今川治部太夫殿。その御首、いただき申す!
我が名は服部小平太一忠。
見知り置かれぃ!」
後ろから追ってきた徒武者が坂を降りる勢いを駆って、槍をつけて来た。儂は槍を防ぐとともに、この武者の膝頭を太刀で割った。
「おう。
小平太。大丈夫か?
隣にいるは新介か?
この獲物は俺に譲れ!」
「犬千代!
貴様なぜここに!」
儂をはさむように、坂の下から攻め上って来た伏兵の大男が、儂を包囲しようとしている者と呑気に話をしている。
おのれ。
海道一の弓取りと言われた儂を軽く見るなよ!
太刀で愛馬の尻を叩き、坂下に向かい突進した。
大男は槍を扱いて突き出してきたが、太刀でそれを跳ね上げすれ違いざまに首を狙う。
ぎゃりんっ
脇差で防がれたか。
だがもう誰も目の前にはいない。
このまま大高城へ……
ずががが~ん!!
愛馬が前へもんどりうって倒れる。
地面に投げ出され、息が詰まる。
背中に衝撃。
槍か。
ごふっ……ごれは助から、んか。
「前田又左衛門利家。
海道一の弓取り、今川義元を討ち取った!!!!」
ああ。
軍勢を率いて瀬田の大橋を渡って、京へ入りたかっ……
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜
紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。
第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください

国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版
カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。
そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。
勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か?
いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。
史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。
運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。
もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。
明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。
結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。
この話はそんな奇妙なコメディである。
設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。
特に序盤は有名武将は登場しません。
不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる