うさぎ穴の姫

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 オルレアンからアルルを取り戻したら、自分はどうするのか。オルレアン同様に、ダンケルクの手から逃れようと奔走するのか。自分ならそうしない。ダンケルクのもとへ連れ返すのだ。アルルにとって、それが適切な選択なんだ。たしかに、外を自由に活動できることが、いちばんの幸せかもしれない。でも、アルルは病気をもっている。いつなにがあるかわからない。いまも刻々と症状を悪化させているかもしれない。それならば、ダンケルクの傘の下に隠れていたほうがアルルのためだ。
 それでは、これまでもなにもかわらないのか。いや、そんなことはない。自分の手でアルルを取り戻せれば、さすがのダンケルクも自分を無碍に扱ったりしないだろう。自分とアルルの面会を許可してくれるだろう。
 それはまるで、いつかと変わらない光景だ。そう、これは過去を取り戻すための闘いだ。自分はアルルの話し相手になり、ダンケルクはアルルを治す術を研究する。ニームはそれを取り戻すためなら、どんな犠牲も惜しくないと思えた。
 そう考えるとニームには、オルレアンが、自分が幸福だったころの過去を取り戻すために導かれた使者のように思えてきた。ニームはオルレアンに感謝の情さえ覚えてきた。
 きみを犠牲にして、ぼくは幸福になる。きみはぼくのために喜んで消えてくれるだろうか。
 そうして自分の考えに心酔しているニームに、ダンケルクは冷や水のような言葉をかけた。
「きみはなにもわかっていない。きみはその従僕でありたいと願う私のことさえなにもわかっていない。きみは友人であったオルレアン君のことも、密やかに慕ったアルルののことも、誰のこともわかっていなかったのだ」
「ぼくが、ぼくが、なにをわかっていませんか」
 ニームのそういう声は震えていた。ニームは、額を思い切り殴りつけられ、後ろによろめき、倒れ込むような気持ちだった。ダンケルクの言葉は、狂おしいほどに懐かしい過去を求めたニームを、その楽園に回帰する望みを回復させたニームを、そこにつま先をかけさせながら追放するサタンのように思えた。
「アルルは私の運命の輪から、オルレアン君の手で引き離され、そして自分の運命を回し始めたのだ。アルルは自分の運命を生き始めたのだ。アルルがそうと決断したのなら、私がもう関与するところではない。たとえ、アルルその歯車をまわすネジが早々にゆるむことがあったとしても、もはや私の知るところではない」


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