うさぎ穴の姫

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 オルレアンが部屋の扉を開くと、そこは、旧家のアルルの部屋がそのまま保存されているような部屋だった。それは、まるでそのようであるということも許されないような、アルルの部屋そのものであった。
 アルルの部屋の窓、オルレアンとアルルが初めて言葉を交わしたあの窓には、あのときと同じレースのカーテンがかけられていて、陽の光をよりやわらなかものにして、この部屋の中へ満遍なく注いでいた。
 オルレアンは窓のほうへ近づくと、カーテンの隙間から外をのぞいた。オルレアンのその視線の先には、あのときと同じままの、高い外壁に囲まれた庭の中に、一本の木と底の深そうな穴が開いていた。
 オルレアンが視線を横にうつすと、簡素なベッドの上に、アルルが横向きになって寝ていた。時の流れから取り残されたこの部屋の中で、アルルは美しい乙女へと成長していた。うっすらと残るそばかすのほほに、アルルの金の絹のような髪がゆるやかな川の流れのようにたれ落ちていた。
 オルレアンがアルルを揺り起こそうとして手を伸ばすと、手がアルルに触れる前に、アルルの青色の目がぱちりと開いた。目覚めたばかりのアルルは、オルレアンを前にしても冷静だった。アルルはそっと起き上がると、ちょっとばかし身なりを整えてみせ、そして、オルレアンをみた。
「私は長い夢をみていたのか、それとも長いあいだ眠っていたのか」アルルはそう口を開いた。それはまだ夢心地にあるようなセリフだったが、それに反して、醒めたまなざしから発せられたものだった。「私はいまこの目の前の現実も、夢の続きだといわれても驚かないわ。だってあなたがこうして目の前にいるんですもの」
 アルルはそういうと、か細い指でオルレアンの手を握った。「あなたがあのとき差し出した手を、私はいま握り返します。あなたは私をどちらに連れていってくださるのかしら」
 アルルはいたずらっぽく試すような、どこか酔ったような目でオルレアンをみたが、オルレアンはアルルの態度よりも現実的だったりオルレアンはアルルに握られた手を目の高さまで持ち上げると、誓うようにしていった。「きみを安全な場所へ連れていくよ。きみは命の危機にある。きみのお父さんがきみを殺そうとしている。すぐにここから出なくてはいけない」
「まあ」アルルは驚いて目を見開いたが、恐ろしさや不安といった精神的な負の打撃に襲われたようすはなかった。「私たちぐずぐずしてはいられないわ。はやくいきましょう」アルルはベッドから立ち上がると、オルレアンに自分の着替えの服を抱えさせた。そしてオルレアンを置いていくような勢いで、未練などすこしも感じさせないすがすがしさで、自分の部屋を飛び出していった。




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