79 / 101
ヱ
しおりを挟む
「約束しましょう。証文でも書きましょうか?」設計士は机の上のなにかの建物の図面に、冗談で署名でもしそうだったから、オルレアンは丁重にそれをとめた。
「ぼくはそろそろいきます。無理をきいてもらって、すみませんでした」
オルレアンが立ち上がり、小屋の外に出ていこうとするとき、後ろから設計士の声が追いかけてきた。オルレアンは小屋の外に出て、扉を閉めたが、出てすぐのところで立ち止まった。
「パスィヤンス病院の所有者はダンケルクです。彼は紛れもない当事者です。私は設計士。私は頼まれるままに建てるだけ」設計士の話しぶりは、オルレアンがそこに立ち止まっていることを確信しているものだった。「あなたはいったいなにものなんでしょうねえ。あなたはまだどこか、外から眺めようとしていませんか?私側につこうとしていませんか?それをするにはもう手遅れですよ。早くそれを認めなされ。さもないと、死角から強烈な一撃をくらうことになりますよ。図面をみせる約束をしたついでです。私はあなたにそう忠告しましょう」設計士の声は最後まで冷静だった。
「あなたがそういうなら、きっと間違いないのでしょうね」オルレアンはさみしさや喪失感に近い気持ちを感じながら、小屋の扉に寄りかかった。「ぼくの住所を教えます。十年後、あなたの居場所を手紙で知らせてください。ぼくはどこまでもあなたに会いにいきます」
「それには及びません。私の方がこちらに出向いてくることにしますから」
「そうですか。助かります」
オルレアンはそれだけをいい残して、小屋から去っていった。オルレアンはパスィヤンス病院へと向かいながら、思案した。設計士は余計なことをいったものだと思った。設計士は自分に十年の猶予があると思っているのだろうか。それならば、読み間違いもいいところであった。設計士に図面をみせてもらうように次回訪れるのは、あとほんの数時間のことであろうし、まして、アルルと顔を合わせるパスィヤンス病院は、もうこの目にうつるところまできてしまっているのだから。
「ぼくはそろそろいきます。無理をきいてもらって、すみませんでした」
オルレアンが立ち上がり、小屋の外に出ていこうとするとき、後ろから設計士の声が追いかけてきた。オルレアンは小屋の外に出て、扉を閉めたが、出てすぐのところで立ち止まった。
「パスィヤンス病院の所有者はダンケルクです。彼は紛れもない当事者です。私は設計士。私は頼まれるままに建てるだけ」設計士の話しぶりは、オルレアンがそこに立ち止まっていることを確信しているものだった。「あなたはいったいなにものなんでしょうねえ。あなたはまだどこか、外から眺めようとしていませんか?私側につこうとしていませんか?それをするにはもう手遅れですよ。早くそれを認めなされ。さもないと、死角から強烈な一撃をくらうことになりますよ。図面をみせる約束をしたついでです。私はあなたにそう忠告しましょう」設計士の声は最後まで冷静だった。
「あなたがそういうなら、きっと間違いないのでしょうね」オルレアンはさみしさや喪失感に近い気持ちを感じながら、小屋の扉に寄りかかった。「ぼくの住所を教えます。十年後、あなたの居場所を手紙で知らせてください。ぼくはどこまでもあなたに会いにいきます」
「それには及びません。私の方がこちらに出向いてくることにしますから」
「そうですか。助かります」
オルレアンはそれだけをいい残して、小屋から去っていった。オルレアンはパスィヤンス病院へと向かいながら、思案した。設計士は余計なことをいったものだと思った。設計士は自分に十年の猶予があると思っているのだろうか。それならば、読み間違いもいいところであった。設計士に図面をみせてもらうように次回訪れるのは、あとほんの数時間のことであろうし、まして、アルルと顔を合わせるパスィヤンス病院は、もうこの目にうつるところまできてしまっているのだから。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
※多少、残酷なシーンがあります
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2021/07/07 アルファポリス、HOT3位
2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位
2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位
【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676)
【完結】2021/10/10
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~
雑木林
ファンタジー
地面に頭をぶつけた拍子に、私は前世の記憶を取り戻した。
それは、他力本願をモットーに生きていた、アラサー女の記憶だ。
現状を確認してみると、今世の私が生きているのはファンタジーな世界で、自分の身体は六歳の幼女だと判明。
しかも、社会的地位が不安定な孤児だった。
更に悪いことは重なり、今世の私には『他者への攻撃不可』という、厄介な呪いがかけられている。
人を襲う魔物、凶悪な犯罪者、国家間の戦争──様々な暴力が渦巻く異世界で、か弱い私は生きていけるのか……!?
幸いにも、魔物使いの才能があったから、そこに活路を見出したけど……私って、生まれ変わっても他力本願がモットーみたい。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
小林結城は奇妙な縁を持っている
木林 裕四郎
ファンタジー
「谷崎町の山奥にある古屋敷に行けば、奇妙な事件を解決してくれる」
そんな噂を耳にした人々が、今日も古屋敷の前へとやって来る。
だが本当に奇妙なのは、そこに住まう者たちだった。
小林結城と、彼の持つ不思議な縁に引き寄せられて集まった仲間たち。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる