うさぎ穴の姫

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「約束しましょう。証文でも書きましょうか?」設計士は机の上のなにかの建物の図面に、冗談で署名でもしそうだったから、オルレアンは丁重にそれをとめた。
「ぼくはそろそろいきます。無理をきいてもらって、すみませんでした」
 オルレアンが立ち上がり、小屋の外に出ていこうとするとき、後ろから設計士の声が追いかけてきた。オルレアンは小屋の外に出て、扉を閉めたが、出てすぐのところで立ち止まった。
「パスィヤンス病院の所有者はダンケルクです。彼は紛れもない当事者です。私は設計士。私は頼まれるままに建てるだけ」設計士の話しぶりは、オルレアンがそこに立ち止まっていることを確信しているものだった。「あなたはいったいなにものなんでしょうねえ。あなたはまだどこか、外から眺めようとしていませんか?私側につこうとしていませんか?それをするにはもう手遅れですよ。早くそれを認めなされ。さもないと、死角から強烈な一撃をくらうことになりますよ。図面をみせる約束をしたついでです。私はあなたにそう忠告しましょう」設計士の声は最後まで冷静だった。
「あなたがそういうなら、きっと間違いないのでしょうね」オルレアンはさみしさや喪失感に近い気持ちを感じながら、小屋の扉に寄りかかった。「ぼくの住所を教えます。十年後、あなたの居場所を手紙で知らせてください。ぼくはどこまでもあなたに会いにいきます」
「それには及びません。私の方がこちらに出向いてくることにしますから」
「そうですか。助かります」
 オルレアンはそれだけをいい残して、小屋から去っていった。オルレアンはパスィヤンス病院へと向かいながら、思案した。設計士は余計なことをいったものだと思った。設計士は自分に十年の猶予があると思っているのだろうか。それならば、読み間違いもいいところであった。設計士に図面をみせてもらうように次回訪れるのは、あとほんの数時間のことであろうし、まして、アルルと顔を合わせるパスィヤンス病院は、もうこの目にうつるところまできてしまっているのだから。








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