うさぎ穴の姫

もも

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「なるほど、たしかに、あなたの目的はふたつ同時に果たされることはないでしょうね。して、あなたはどちらの方法を取るおつもりですか?」
「あなたにより効果的な方法を取りたいと考えています」
 オルレアンが設計士をゆすりのネタにしようとした方法は、ほとんどハッタリだった。オルレアンはパスィヤンス病院の沿革など知らなかった。短編小説にもならない、一ページにも満たない語りしか、オルレアンにはできなかった。それでもオルレアンはパスィヤンス病院についての核心を自分は得ていると信じていた。
 オルレアンが自分の手持ちの切り札をを眺めるように思案していると、オルレアンのジョーカーを探るような視線で、設計士はオルレアンを見てきいた。「どちらだと思いますか?」
「どちらがよいのでしょうか?」オルレアンには判断つかなかった。
「脅迫しようとする本人から助言を請おうと?」
「やはりダメですか」
 オルレアンは途方に暮れながら、考えをすすめた。そして、たとえ自分がどちらの方法を取ろうとも、語りのさわりならば、話しておいて損はないだろうというところまで考えを進めた。話を小出しにしてみせ、設計士が興味を示せば続けを話せばよし、苦々しく顔を歪めれば話をやめ、交渉に持ち込めばよいのだ。
 オルレアンがそう意を決めて口を開こうとしたとき、設計士のほうがその口をふさぐように先に動いた。
「私は設計のプロですが」設計士はそういうと少々いい淀んだが、続けた。「だから私は設計に数多くたずさわってきました。建築物の変遷と所有者の変化の多くの事例を、これまで外から見物しておりました。それを生来の趣味としてきました。私の依頼者は、私の滋養として私に営気を供給していきました。そうしていた私は、あるとき気がつきました。私は依頼者の助けもあって、いつのまにか読むことのプロでもあるようになっていたことを。読むことのプロとは、物語の先行きを見通せるようになることです。そして、それでありながら、物語を味わいつくすことができることです」
「つまりあなたは、ぼくが話さずとももうすでに見通しがついているから、ぼくの交渉はその場すら設けてとらえないということですね」
 そういって引き下がろとする姿勢をみせたオルレアンを設計士は慌ててとめた。「いやいや、そうとはいっていません。むしろ、私はもうあなたに協力する意思を固めています」
 設計士のその言葉はオルレアンには意外だった。「なんでまた」



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