うさぎ穴の姫

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「つまり、あなたにとって、その物語を読むということが、仕事のやりがいであり、生きがいであるということですね?」オルレアンは設計士にそうきいた。
「あなたのその表現の強弱については議論の余地がありますが、それがなければ人生の多くをつまらなく感じてしまうようになってしまうだろうことは認めましょう」
「あなたは小説や演劇の結末を、自分が鑑賞する前に打ち明けられることを嫌いますか?」
 オルレアンがそう聞くと、設計士はオルレアンの狙いに反して、考え込むように腕を組んだ。設計士は断固拒絶の態度をとると、オルレアンは考えていたのだった。「もちろん新鮮な感情を得るためには、真っさらな態度で望むのがいちばんでしょう。しかし、傑出した作品というものは、結末を知っていても鑑賞に耐えうるのです。結末を待ちわびるように飼い慣らされるのです。それはさながら、飼い主の帰りを待つ犬のようでしょう」設計士はそういった後ひと息ついたが、オルレアンが黙っているのを確認すると続けた。「私がいわゆるネタバラシを嫌悪する理由としては、それをする人間の忍耐のなさへの嫌悪にあるように思います。強い感動はたしかにひとに打ち明けたり共有したくなるものです。しかし、それを自分の中で味わうのです。感動に耐えられないものは、たいてい、怒りや憎しみにも耐えられないでしょう。だから私はそのような人間を嫌悪し、自分から遠ざけたいと思うのです」
 オルレアンは設計士にそのように語られたことで困ってしまった。オルレアンは性悪ではなかったから、ひとを不快にするとわかってことを起こすことは気がすすまなかった。しかしそれも一瞬のことで、アルルとの約束を果たすためならなにごとも変えられないとあっという間に気持ちを固めた。
「ぼくはパスィヤンス病院の今後十年の行く末を知っています。パスィヤンス病院がどのように変形していくかも、パスィヤンス病院の秘密にされた役割のことも。ぼくはあなたにそれを明かしましょう。明かそうとしましょう。その目的はふたつあります。そのどちらかが果たせればぼくは満足でしょう」
「ぜひ聞きましょう」設計士はオルレアンを遠ざけたいと思うどころか、むしろ興味を得たようであった。
「ひとつめの目的はあなたと交渉するためです。ぼくがネタバラシを控える代わりに図面をぼくに見せることを約束してもらいます」
「ふたつめは?」
「パスィヤンス病院をとりまく十年を正確に予言することで、十年後、ふたたびあなたの前にぼくが現れたとき、あなたはぼくに説得されていることになるでしょう」





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