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め
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「あなたは設計図を見せてほしいとお願いされたら、こころよくそれを見せてくれるようなひとでしょうか?」
「それが依頼主であれば、私たちには開示義務がありますから」
「では、突然現れた青年であったら?」
「なぜ見せなければならないか、用件を聞くでしょうね。工事の関係者かもしれませんから」
「では、ぼくにみせてもらってもいいですか?」
オルレアンがそうたずねると、設計士は催促して、手のひらを差し出した。「証明書を」
「なるほど」
もちろん、オルレアンにはこのときのパスィヤンス病院の図面には用無しだったが、つまり、十年後に突然この設計士を訪問して図面を見せてもらえはしないと確認したのだった。
「では、みせられません」設計士は手を下ろした。
「ぼくはいまみたいわけじゃないんです。十年後にみせてもらいたいのです」
「十年!?それはずいぶん気の遠くなる話ですね。それはあなたにとって少し長すぎるが、しかしよい時間でもあります。あなたが建設にかかわる資格を取得するには十分な時間でしょう」
「でもぼくにはそんなに時間がないんですよ。時はあっという間に過ぎるのです」
「うーん、よくわかりませんね」設計士は苦しむように首をねじったが、しかし、なにかひらめきを得たように笑った。「よくはわかりません。よくはわかりませんが、私はね、工事関係以外のものには、設計図をけして見せることはないでしょうとはいっていませんよ」設計士はそういって、値踏みするようにオルレアンをみた。不敵な笑みを浮かべる設計士は、ずるかしこい狡知に長けたキツネそっくりであるとオルレアンは感じた。
「どうしたらみせてくれます?」
「その理由をききます。それが私を説得できるものであれば、設計図を見せるのもやぶさかではないでしょう」
「理由ですか」
オルレアンは打ち明けるべきか迷った。設計士がオルレアンの話を信じてくれるかは問題ではなかった。つまり、設計士がダンケルクの味方であれば、オルレアンは今まさにダンケルクの手の上で踊らされているというのは疑いなかった。オルレアンはこの設計士がダンケルクの味方であることはないと信じた。この設計士はアルルのことを知っている。老婆のことを知っていてアルルのことを知らないとは思えない。
「あなたが納得する理由とはなんでしょうか」オルレアンは設計士を牽制するようにいった。今度は設計士のほうが慎重になったが、「いいでしょう」と手を叩くと、いった。
「それが依頼主であれば、私たちには開示義務がありますから」
「では、突然現れた青年であったら?」
「なぜ見せなければならないか、用件を聞くでしょうね。工事の関係者かもしれませんから」
「では、ぼくにみせてもらってもいいですか?」
オルレアンがそうたずねると、設計士は催促して、手のひらを差し出した。「証明書を」
「なるほど」
もちろん、オルレアンにはこのときのパスィヤンス病院の図面には用無しだったが、つまり、十年後に突然この設計士を訪問して図面を見せてもらえはしないと確認したのだった。
「では、みせられません」設計士は手を下ろした。
「ぼくはいまみたいわけじゃないんです。十年後にみせてもらいたいのです」
「十年!?それはずいぶん気の遠くなる話ですね。それはあなたにとって少し長すぎるが、しかしよい時間でもあります。あなたが建設にかかわる資格を取得するには十分な時間でしょう」
「でもぼくにはそんなに時間がないんですよ。時はあっという間に過ぎるのです」
「うーん、よくわかりませんね」設計士は苦しむように首をねじったが、しかし、なにかひらめきを得たように笑った。「よくはわかりません。よくはわかりませんが、私はね、工事関係以外のものには、設計図をけして見せることはないでしょうとはいっていませんよ」設計士はそういって、値踏みするようにオルレアンをみた。不敵な笑みを浮かべる設計士は、ずるかしこい狡知に長けたキツネそっくりであるとオルレアンは感じた。
「どうしたらみせてくれます?」
「その理由をききます。それが私を説得できるものであれば、設計図を見せるのもやぶさかではないでしょう」
「理由ですか」
オルレアンは打ち明けるべきか迷った。設計士がオルレアンの話を信じてくれるかは問題ではなかった。つまり、設計士がダンケルクの味方であれば、オルレアンは今まさにダンケルクの手の上で踊らされているというのは疑いなかった。オルレアンはこの設計士がダンケルクの味方であることはないと信じた。この設計士はアルルのことを知っている。老婆のことを知っていてアルルのことを知らないとは思えない。
「あなたが納得する理由とはなんでしょうか」オルレアンは設計士を牽制するようにいった。今度は設計士のほうが慎重になったが、「いいでしょう」と手を叩くと、いった。
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