うさぎ穴の姫

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 オルレアンにはすっかり忘れていたことがあった。そう、それは、穴をよじ登るためのはしごだ。それをニームが引き上げてしまったばかりに、オルレアンは穴の奥へ探索に出かけたのであった。オルレアンは暗闇の中を気の向くままに歩き進めながら、元の穴の下に戻れたとしても、自分はどうやって穴をのぼればいいのだろうか。オルレアンはあてもないまま歩き続けた。そのときはまた、穴の底から、おーいと叫んでみればいい。運がよければ、クモの糸くらいは天から垂れてくるかもしれない。オルレアンはそのような楽観的な態度で、恐れも不安もなく、暗闇を突き進んだ。そのうち、天から光が差し込む、地面にぽっかりと光の輪のできたところに、オルレアンはたどりついた。そのまま光に吸い込まれて、どこまででもいけそうだと思った。オルレアンはその中に立つと、上を見上げた。青い穴がすっぽり空いていた。それがいつの青空かはっきりとはいえなかったが、たぶんあちらで過ごした時間のぶんだけ、こちらの時間も過ぎたのだろうと思った。オルレアンの見上げた青空が、アルルの庭で穴に入る前に見上げた青空と同じ色だと、オルレアンは思った。
 オルレアンははしごを上って無事に穴のから抜け、裏庭を出た。錠前で閉ざされていたはずの鉄柵も、錠前が外されてあった。オルレアンはパスィヤンス病院の庭を通り過ぎ、門の外に出て、歩みを進めた。
 オルレアンはパスィヤンスのどこにアルルがいるのかを知らなければならなかった。闇雲に病院中を走り回ってもたぶん徒労に終わるだけだろう。オルレアンは老婆の宿へと向かった。オルレアンが十年後の約束をしたのはアルルとだけではなかった。オルレアンは下準備をすでに終えていた。あるいは、終わっていたといってもよかった。オルレアンは大工と約束していた。パスィヤンス病院を設計したあの大工だ。パスィヤンス病院の構造について、いちばん詳しいのは誰か。設計した人間に決まっている。アルルがどこにいるのかを知らなければ、アルルを救い出すことはできない。
 十年前の世界で、オルレアンは大工を訪ねていた。十年後、大工からパスィヤンス病院の設計図をもらいたいと依頼するためだった。大工はダンケルクと話していたときと同じ小屋の中にいた。オルレアンは中からダンケルクの声が聞こえないことを確かめると、小屋に入っていった。大工は驚いた様子もなく、オルレアンを見た。オルレアンは手短にいった。





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