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み
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「いえ」ニームは、そうだといえない自分がむなしかった。ニームはダンケルクを否定することなどできなかった。また、アルルがニームに会いたくないということは、ありえそうなことだとニームには思えたのだった。
「なにやら、心当たりがありそうだな」ダンケルクはにやっと笑った。
「それはしかたのないことです」ニームは抵抗する様子もなく、事実に諦めたようだった。
「正直にいおう」ダンケルクはそういうと、両方のひざを両方の手のひらでぱんと打った。「たしかに、私はアルルが十二歳を超えたら、君とは会わせないようにしようと考えていた。アルルの話し相手にと君をよこすようにしたが、もう君とでは話し相手にはならないだろう。これから君も青年になっていく。私は君にアルルの友だちになるように約束をしたが、君はアルルの友だちでこれからもいられるのだろうか」
ダンケルクは試すようにニームをみた。ニームは押し黙ったままだった。
「君は実によくやってくれた。君には本当に感謝しているのだよ」ダンケルクはニームに握手を求めたが、ニームの手はひざのところで固く結ばれたままだった。ダンケルクはしばらく手を突き出したまま待っていたが、ニームが動かないのをみると、その手を引き込めた。「アルルとはもう会わせることはできないが、これからも私のもとにくるといい。私からの感謝の印として、君の診療と薬の処方はこれからも無償でおこなおう。もっとも君に必要な薬はここでしかもらえないから、君はここにくることになるだろうけどね」
ダンケルクは立ち上がれないままのニームをみると、元気を出させるようにそのひ弱な肩にごつごつとした手を乗せたが、ダンケルクはその手をニームの腕までまわせると、ニームに立つようにうながした。
ニームは家への帰路をとぼとぼと歩きながら、パスィヤンス病院を後ろに振り返った。もともと二層だったパスィヤンス病院は、増築により早くも三層の建物になっていた。ニームはそんなことにすら、ほとんど気を止めていなかった。アルルはあの三層目のどこかにいるのだろうか。
病院が新しく立派に建てられることを無邪気に喜んでいた自分の無思慮をニームは責めた。また、アルルの嘆きや憂いに耳をかそうとしなかった自分の盲目さにあきれた。アルルはあのときから自分がこうなることをわかっていた。アルルはパスィヤンス病院の真の目的を悟っていた。ニームにこっそりとそれをほのめかせてもみせた。けれど、アルルはあのときからニームを見放していた。ニームに救いは求めなかった。
「さすがですね、お嬢様」ニームは胸を苦しめる息を、少し吐き出すように、ひとりでそうつぶやいた。「だってぼくは、この後に及んでも、なにをする気にもならないのだから」
「なにやら、心当たりがありそうだな」ダンケルクはにやっと笑った。
「それはしかたのないことです」ニームは抵抗する様子もなく、事実に諦めたようだった。
「正直にいおう」ダンケルクはそういうと、両方のひざを両方の手のひらでぱんと打った。「たしかに、私はアルルが十二歳を超えたら、君とは会わせないようにしようと考えていた。アルルの話し相手にと君をよこすようにしたが、もう君とでは話し相手にはならないだろう。これから君も青年になっていく。私は君にアルルの友だちになるように約束をしたが、君はアルルの友だちでこれからもいられるのだろうか」
ダンケルクは試すようにニームをみた。ニームは押し黙ったままだった。
「君は実によくやってくれた。君には本当に感謝しているのだよ」ダンケルクはニームに握手を求めたが、ニームの手はひざのところで固く結ばれたままだった。ダンケルクはしばらく手を突き出したまま待っていたが、ニームが動かないのをみると、その手を引き込めた。「アルルとはもう会わせることはできないが、これからも私のもとにくるといい。私からの感謝の印として、君の診療と薬の処方はこれからも無償でおこなおう。もっとも君に必要な薬はここでしかもらえないから、君はここにくることになるだろうけどね」
ダンケルクは立ち上がれないままのニームをみると、元気を出させるようにそのひ弱な肩にごつごつとした手を乗せたが、ダンケルクはその手をニームの腕までまわせると、ニームに立つようにうながした。
ニームは家への帰路をとぼとぼと歩きながら、パスィヤンス病院を後ろに振り返った。もともと二層だったパスィヤンス病院は、増築により早くも三層の建物になっていた。ニームはそんなことにすら、ほとんど気を止めていなかった。アルルはあの三層目のどこかにいるのだろうか。
病院が新しく立派に建てられることを無邪気に喜んでいた自分の無思慮をニームは責めた。また、アルルの嘆きや憂いに耳をかそうとしなかった自分の盲目さにあきれた。アルルはあのときから自分がこうなることをわかっていた。アルルはパスィヤンス病院の真の目的を悟っていた。ニームにこっそりとそれをほのめかせてもみせた。けれど、アルルはあのときからニームを見放していた。ニームに救いは求めなかった。
「さすがですね、お嬢様」ニームは胸を苦しめる息を、少し吐き出すように、ひとりでそうつぶやいた。「だってぼくは、この後に及んでも、なにをする気にもならないのだから」
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