うさぎ穴の姫

もも

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 アルルはニームにとってずっと二つ年上で、それはいまもこれからもずっと変わらないはずなのに、時の進む速さはそれぞれ違うようであった。
 アルルはどちらかといえば、これまでは時を慎重に進めているように思えた。その慎重さが、アルルとニームの年の差を埋めていた。アルルはずっと、若いままの苗木のようであり、さなぎになることを拒否する幼虫のようであった。
 そんなアルルが、最近、まるで成長を急ぐように、大人びていった。ニームが近寄りがたさを感じるほどであった。
 だからニームは、自分がアルルのそばにいる根拠を求めた。その根拠をいちはやく与えてくれるのは、ニームにとってはアルルではなくてダンケルクだった。ニームはダンケルクからの指示を求めていた。
「ぼくは役割はいつまでも六っつのままなのです。ぼくはあれからその倍を生きてきました。でも、先生がぼくに求めることはなにも変わりません」
 いまはその変わらないことさえ求められているかどうかがあやふやだったが、ニームはそれはいわなかった。
「お父様がニームに求めていることはなに?」アルルはニームにそうたずねた。ニームはアルルになにか根源的な問いを投げかけられているようでやや回答にとまどったが、「それはお嬢様のお話の相手になることです」と当たり障りなく答えた。
 アルルはふーんというようにくちびるに指を置いて、「それがニームは変わってほしいの?」とニームに素朴にきいたが、ニームは疑り深く、それをなにか意図を含ませたもののように、しばらく思案した。
「いや、変わるというのはいい面も悪い面もありますので」ニームはそうして、曖昧な言葉で口を開いた。「つまりぼくは、ぼくの役割とか義務とか、そういうものをぼくの成長に見合うように、追加されたら嬉しいと思うのです。その役割というのはつまり、たとえば、よりお嬢様のこころとか感情に関した、つまり、喜ばせたり、励ましたり、楽しませたりとか、そういうお嬢様のこころを動かせるような、そんな役割のことです」
 ニームはそう口走りながら、身の丈に合わない要求を自分にしたことを恥じた。アルルはそんなニームを笑っていった。
「それなら、いままでどおり、変わらないあなたで十分よ」
「そうでしょうか」
「ええ」
 元来、悲観的な性格のニームだったが、そのアルルを配慮を額面どおりに受け取ることができないのは、ニームの性質のせいだけでなかった。
「ねえ、ニーム」アルルはこの一連の会話の始めと全く同じトーンでニームに問いかけた。







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