うさぎ穴の姫

もも

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 オルレアンは過去を知り、現在につなげるためにここにいる自分の身をわきまえていた。アルルとともにあの穴を通り抜けようとしても、時間の超えられない波によって、ふたりは暴力的に押し返されるだろう。そうして、穴から庭に戻され打ち上げられたふたりは、オルレアンは牢獄で、アルルは外部からの侵入も内部からの脱出も許されない、錠前だらけの部屋で過ごすことになるだろう。
「そんな悲しそうにしないで」アルルはオルレアンをなぐさめた。
「別に悲しくなんてないさ」オルレアンは実際、悲しくはなかった。ここから先の十年を悲しむことは、意味のないことだと思った。オルレアン自身はすでにこの十年を悲しみを知らずに過ごしてしまった。その悲しみをいまさら拾い集めてもなにも得ることはないように思った。オルレアンはそうして、少なくとも悲しみに愚鈍であろうと思った。
「でも、あなたはたぶん、私のことをかわいそうなひとだと思ってるのでしょう?」アルルはオルレアンにそうたずねた。
「それはわからない」オルレアンは言葉をにごした。
「それだとあなたは行動と感情が矛盾しているわ」
「ぼくは本当に、よくわかっていないんだ」
「それなのに、私を助け出したいなんていってるの?」
「ぼくはもともとは君を助けにここにきたわけではないんだよ」オルレアンは素直にそう白状した。
「ここってどこ?私の部屋のこと?」
「ちがう。この部屋には、たしかに君を助け出したいという気持ちできた。もちろんそれはいまではないのだけど」
「私にはよくわからないわ」
「ここっていうのはつまり、あの穴から出てきたときのことさ。君にいっただろう。ぼくはうさぎを探し求めて穴から出てきたんだって」
 オルレアンは熱っぽく、そういうと、アルルはふふっと笑って、余裕な態度を見せた。
「どうしようかしら」
「なにが?」
「それを信じるか、信じないか」
「本当なんだよ」
「あなたはウソばかりつくひとだから」
「こんなことでウソはつかないよ」
「どうして?」
「だって、ぼくにとっては損な話だからだ」
「損?」
「考えてもみなよ。ぼくが君を助け出したいと思っていることは確かだ。じゃなきゃわざわざ君を訪れたりはしない。そして、せっかく君を助けるのであれば、ぼくだってすこしはかっこつけたいものさ。つまり」オルレアンはそういって、ドアの閉めたところと窓際の、ふたりの離れていた距離を縮めながら、アルルに近づいていった。「君に運命を感じて、君をさらいにきたとそういったってよかったんだ」オルレアンは椅子に座るアルルの真向かいに膝をつき、そっと手を伸ばした。


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