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オルレアンは飾り気のない木目調のドアをノックすると、中から「はい」と張り詰めた弦のような、緊張した声が答えた。ノックしたオルレアンのことをダンケルクだと思っているのだ。常識で考えたら、オルレアン自身のほうが、よほど窃盗か誘拐かをしでかそうとする侵入者であったが、オルレアンは自分が姿を見せたほうが、アルルを和ませられることを疑わなかった。
オルレアンは部屋のドアを自分の身の分だけ開け、そこに身体をすべりこませると、すばやくドアをしめた。アルルは窓際で椅子に座ってドアが開くのを行儀良く待っていたようらだったが、部屋に入ってきたのがダンケルクではないと気づくと、はっと目を見開いて息をのんだ。しかし、その侵入者がオルレアンだとわかると、こわばらせた肩を撫で下ろしたが、それも束の間のこと、感情が波のように往復するように、目を泳がせた。
「あなた、どうして?」アルルのその言葉は、どうしてまたきたの、というようでもあったし、どのようにしてここまできたのというようでもあった。
「この病院の良客の婆さんと知り合いになってね。その婆さんがいまお父さんの診察を受けている。ちょっとやそっとの足音や物音では気づけないくらい、足の痛みを訴えてやるって意気込んでたよ」オルレアンはそういって笑った。
「受け付けにいる母は?」アルルは信じられないというように首をふった。それは、どうして私を気にしてくれるのか信じられないというようでもあったし、そんな危険を犯す向こう見ずな行動を信じられないというようでもあった。
「お母さんはなにもいわなかったよ。名前も呼ばれていないのに、待合い室から奥に入っていくぼくを見逃してくれた。ぼくは婆さんがヒステリーにわめき立てる喚き声を尻目に君の部屋をのんびりと探させてもらったということさ」
アンティーブ夫人がオルレアンを見逃してくれることは、オルレアンにはわかっていた。夫人はオルレアンが庭でオルレアンとアルルが話しているのを見つけても黙っていた。老婆とも接触を保っていた。オルレアンの宿の便宜をはかってくれた。オルレアンは夫人に糸で操られているような不気味さを感じながらも、夫人の誘いに乗ったのだった。
「あなた、不思議なひとね」アルルはそういって、ツンと窓の外に顔を向けた。「それで、私になんのご用?それとも、この窓から外に出て、あの穴に戻りたいのかしら。だとしたら遠慮はいらないわ。どうぞ、お通りになって」
オルレアンは部屋のドアを自分の身の分だけ開け、そこに身体をすべりこませると、すばやくドアをしめた。アルルは窓際で椅子に座ってドアが開くのを行儀良く待っていたようらだったが、部屋に入ってきたのがダンケルクではないと気づくと、はっと目を見開いて息をのんだ。しかし、その侵入者がオルレアンだとわかると、こわばらせた肩を撫で下ろしたが、それも束の間のこと、感情が波のように往復するように、目を泳がせた。
「あなた、どうして?」アルルのその言葉は、どうしてまたきたの、というようでもあったし、どのようにしてここまできたのというようでもあった。
「この病院の良客の婆さんと知り合いになってね。その婆さんがいまお父さんの診察を受けている。ちょっとやそっとの足音や物音では気づけないくらい、足の痛みを訴えてやるって意気込んでたよ」オルレアンはそういって笑った。
「受け付けにいる母は?」アルルは信じられないというように首をふった。それは、どうして私を気にしてくれるのか信じられないというようでもあったし、そんな危険を犯す向こう見ずな行動を信じられないというようでもあった。
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