うさぎ穴の姫

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 そのようにずっと絶望の淵にいた老婆は、オルレアンの背中の十字のあざを見たとき、救済という言葉が身体をつらぬいてくるのを感じた。老婆は祭司の養子となったオルレアンにあざがあることを知っているわけではないし、確かめに行くこともできたが、その必要は不思議と感じられなかった。養子の子には同じあざがあるに違いない。そしてそのあざを刻印されて突然目の前に姿を現したこの青年に、老婆は賭けるべき価値を感じた。
 老婆はこれが世間のものが教会に求めるものなのかと、これまで疎ましく感じていた敬虔な民にこころから共感した。この感覚をもっとはやく得られたなら、得られると知っていたのなら、老婆は自分も教会へ、ブリキのようなぎこちないひざを動かしてまで足しげく通っただろうとわすがに後悔した。しかし実際のところは、教会に日常的に通っても、老婆が得た感銘はそうそうに得られるものではなかった。それほどに老婆にとっては、オルレアンの登場が、自分の後悔の理解であり、受容であり、その許しをもたらしてくれるもののように思えた。もちろんオルレアンは神でもなんでもなかった。しかし、オルレアンは老婆に救済者のイメージを喚起してしまうほど、オルレアンの希望する未来が、老婆の自責の念を鮮やかに打ち消した。老婆にはオルレアンが暗闇を照らす太陽に思えた。そして古来からひとびとが太陽に神を見出してきたのは紛れもない事実であって、それと同じ感情がふつふつと湧き出てきたのだった。
「私は十年後にお主を待っていることだろう」老婆はオルレアンによって、枯れかけていた自分に水を与えられたのだった。「しかし、この十年の間もお主のことを待っていたような気がするよ」

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