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オルレアンはそう尋ねながら、老婆の震える手からロウソクの燭台を優しく取り上げた。老婆はおとなしくそれを手放した。老婆は震えたままの手を宙に浮かせていたが、その迷い子のような手は不安にかられると、落ち着きどころを探すようにオルレアンの手を取った。老婆の両手は祈るように、オルレアンの手を包んで、老婆のシワとだらけの額の前に据えられた。
「私は精神病者なんかじゃないぞ。私はなにも知らない。なにも見ていない。私をあのようなおぞましい監獄にぶち込まないでくれ」
オルレアンは老婆の骨のような手を握り返して、言った。「ぼくはけしてそんなことしないさ」
もちろんオルレアンには、それが言葉だけのことだとわかっていた。老婆が恐怖の膜を突き破り、そこから出てきてもらうためには、オルレアン自身も一線を超える必要があることをオルレアンは自覚していた。
「ぼくのことが信じられないなら、いいかい、この町の外れに、捨て子があったことがあっただろう?そう、町外れの森の入り口のところに、竹で編まれたカゴの中に入れられて置かれてあった子だ。あなたも知っているだろう、町の中で誰かが引き取るのか、あるいは、川に流すなり熊に喰わすなり、町中で議論があったらしいから」
「ああ、それは知っている」老婆はそれは知っているということを口にすることさえ、細心の注意を払っているようだった。
「その子どもの背中の真ん中、背骨の真ん中のところに、小豆くらいの大きさのあざがあるはずだ。知っていたかい?」
「知っているもんか。偉い祭司さまに拾われた子だぞ。私などおそろしくて教会に入ったこともないわ」
「では、一度教会に行ってみるといい。あそこは本来あなたのようなひとのためにあるのだから」
「私がそんなところに行ってどうする。私には祈るものなどない。すがるものもない。信じるこころもないというのに」
「そんなことはしなくていい。ただ、あなたの愛しき神より授かり子を一目みたいとそう願い出ればいいのだ」
「祭司など信じられん。祭司の背後には金と権力の暗い気配が渦巻いておるわ」
「ぼくは保証するが、祭司はあなたとその子を必ず面会させてくれるだろう。祭司はその子を神からの自らへの祝福の証であると考え愛している。神から授けられたものは、我が物にするのではなく、全ての民に分け隔てなく振る舞わなければならないとそう考えているからね」
「私みたいな、信仰心のないものにもか」
「神を信じる心を持たないものはいない。それを導き出すのが自分の仕事だと、彼はそう考えているよ」
「しかし、その拾われっ子に会って、背中を見て、それがらなんになる」
老婆にそう聞かれるとオルレアンは着ていたシャツを脱いで、老婆に背中を見せた。
「その子の名前はオルレアンというだろう。ぼくの名前も同じオルレアンだ。ぼくのこのあざをよく見て覚えておくれ。祭司にもらわれたその子の背中にこれと同じものがあったのなら、ぼくの話を真剣に聞いてほしい」
「私は精神病者なんかじゃないぞ。私はなにも知らない。なにも見ていない。私をあのようなおぞましい監獄にぶち込まないでくれ」
オルレアンは老婆の骨のような手を握り返して、言った。「ぼくはけしてそんなことしないさ」
もちろんオルレアンには、それが言葉だけのことだとわかっていた。老婆が恐怖の膜を突き破り、そこから出てきてもらうためには、オルレアン自身も一線を超える必要があることをオルレアンは自覚していた。
「ぼくのことが信じられないなら、いいかい、この町の外れに、捨て子があったことがあっただろう?そう、町外れの森の入り口のところに、竹で編まれたカゴの中に入れられて置かれてあった子だ。あなたも知っているだろう、町の中で誰かが引き取るのか、あるいは、川に流すなり熊に喰わすなり、町中で議論があったらしいから」
「ああ、それは知っている」老婆はそれは知っているということを口にすることさえ、細心の注意を払っているようだった。
「その子どもの背中の真ん中、背骨の真ん中のところに、小豆くらいの大きさのあざがあるはずだ。知っていたかい?」
「知っているもんか。偉い祭司さまに拾われた子だぞ。私などおそろしくて教会に入ったこともないわ」
「では、一度教会に行ってみるといい。あそこは本来あなたのようなひとのためにあるのだから」
「私がそんなところに行ってどうする。私には祈るものなどない。すがるものもない。信じるこころもないというのに」
「そんなことはしなくていい。ただ、あなたの愛しき神より授かり子を一目みたいとそう願い出ればいいのだ」
「祭司など信じられん。祭司の背後には金と権力の暗い気配が渦巻いておるわ」
「ぼくは保証するが、祭司はあなたとその子を必ず面会させてくれるだろう。祭司はその子を神からの自らへの祝福の証であると考え愛している。神から授けられたものは、我が物にするのではなく、全ての民に分け隔てなく振る舞わなければならないとそう考えているからね」
「私みたいな、信仰心のないものにもか」
「神を信じる心を持たないものはいない。それを導き出すのが自分の仕事だと、彼はそう考えているよ」
「しかし、その拾われっ子に会って、背中を見て、それがらなんになる」
老婆にそう聞かれるとオルレアンは着ていたシャツを脱いで、老婆に背中を見せた。
「その子の名前はオルレアンというだろう。ぼくの名前も同じオルレアンだ。ぼくのこのあざをよく見て覚えておくれ。祭司にもらわれたその子の背中にこれと同じものがあったのなら、ぼくの話を真剣に聞いてほしい」
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