うさぎ穴の姫

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 翌朝、オルレアンは朝早く起きて、客室のあった二階から下に降りた。部屋は殺風景でなにもなく、寝心地がいいとはいえない固いふとんのベッドだったから、年寄りは早起きだと聞くし、老婆と話をしに行こうと思ったのだった。オルレアンは老婆の力を借りたいと思った。オルレアンはできるだけ安全な方法を取りたいと思った。病院のことをよく知っている老婆の力を借りられれば、安全に、アルルにもう一度会い、そして、穴の中に戻れるだろうと考えた。
 オルレアンが耳障りな音をたてながら階段を降りていっても、老婆は昨夜と同じ格好で安楽椅子に座ったまま、身じろぎひとつしなかった。オルレアンは老婆の近くにあった、背もたれのない貧相なイスに座った。老婆は目を閉じていた。寝ているのかもしれないし、寝たふりをしているのかもしれない。オルレアンは、老婆が寝ているなら目覚めるまで待とうと思ったし、寝たふりをしているのなら我慢比べをしようと思った。
 一刻ほど経ったかというとき、とうとう老婆は目を開けた。そして億劫そうに身を起こすと、どちらかにそそくさと歩いていった。老婆が我慢できなかったのは、オルレアンの存在ではなく、尿意という自然の節理だったらしい。どちらにしても、オルレアンが勝ったことにはちがいない。老婆はトイレから戻ってくるとまた安楽椅子に座ったが、近くに座るオルレアンを無視することはさすがにできないようだった。
「あんたに支払いはないよ。さっさと出て行きな」
 老婆はつまり厄介払いをしたのだった。そしてふつう、今の一言で客は出ていくものだと考えられた。老婆にしてみればオルレアンがここに居座る理由なんて全く想像できないと思うのは、常識的な考えだといえた。にもかかわらず、オルレアンが座ったまま動かないものだから、老婆も怪訝な顔を隠さなかった。
「あのね、そこにずっといられたら迷惑なんだよ」
 老婆の主張は、老婆を嫌悪しているニームでも正当性を認めざるをえない真っ当なものだったが、オルレアンは座ったまま口を開いた。
「この宿はあと十年後にはなくなっています」
「は?」老婆はぽかんと口を開けた。
「夫人にもらったその指輪、ありがたくいただいて換金して、そのお金は大切にお使いなさい。また、宿泊費は最適なものを設定して、計画的に収益を得なさい。パスィヤンス病院が新築すると、患者の数はさらに増えます。数年はこの宿も繁盛するでしょう。しかし病院は増築を続けます。増築した部分は、入院患者、宿泊患者によって利用されるようになります。この宿に泊まるものはいなくなるでしょう」




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