うさぎ穴の姫

もも

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 オルレアンにはこの朽ちかけた宿は、むしろ自分のような泥まみれの金のない旅人にはぴったりだと思った。そして、金持ちの貴族がこのようなおぞましい宿に泊まるだろうかと思った。
 オルレアンには、修繕する気のないぼろぼろの家屋を見て、老婆がダンケルクをとことん利用してやろうという魂胆以上に、自分が嫌味であろうとすることを貫いていることがわかるように思った。つまり、老婆が生業として宿泊業を真剣に営んでいるのであれば、ダンケルクの病院をさらに繁盛させる助けになるだろう。それは共生関係である。今はただの寄生中である。となると、なるほど、ダンケルクが老婆のことをうとましく思うことも理解できることである。
「ご心配には及びませんよ」
 オルレアンが怯え立ちすくんでいると思ったのか、ニームはオルレアンをそう力づけた。「もっとも、あなたがここに泊まれることを保証するものではありませんが。でもあなたの身の安全は保証しますよ」
「君こそ、ぼくのことは心配いらないよ」
「あなたひとりくらいなら、ぼくの家に泊めて差し上げられます。ぼくの両親もわかってくれるでしょう」
 それならはじめから君の家に案内してくれたらよかったじゃないか、なんてことはオルレアンは言わなかった。ニームがオルレアンを家に呼べない理由の根本問題は、家の広さにはおそらくなかった。
「君はぼくのことをひとがよさそうと言ってくれたね」
「はい」ニームはうなずいた。
「それは君の直感であって、本当のところはどうかわからない」
「自分が実は盗賊かもしれないとでもいうのですか?」
「たとえばそういうこともあるかもしれない」
「あなたがもし本当に盗賊なら、目をつけたカモにそのような警句を与えたりしないでしょう」
「しかし、そういう罠かもしれない」
「そんなことを考え始めたら、ひととなんて付き合ってられません」
「だから、君はぼくを直感で判断した」
「悪い人には見えませんから」
「ぼくはぼくの威信をかけて、君のその判断が正しいものだと証明したいと思うよ。でも、おとなというのは、子どもほど直感を大切にしない生き物なのだよ。君の説得はご両親に届かないよ」
 オルレアンがそういうのを、ニームは否定しなかった。否定できないのをオルレアンにはわかっていた。両親を説得するより、老婆のなけなしの良心に賭けたほうが、まだ希望があると考えたから、ニームはオルレアンをここまで連れてきたのだろう。
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