うさぎ穴の姫

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オルレアン、少年ニームと交流する

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「金のないものは、諦めがいいものです。諦めるしかないのですから。しかし、金持ちは諦めが悪いのです。金はあの世に持っていけないから、この世に未練が残るのですね」ニームはそう言って、自分のまだら模様の腕をさすった。その健康に近づいている腕は、ニームも本来諦めなければならないものであった。「外から、このブラーヴに来る物好きなんて、金を持っていなければできません。ぼくが見たことあるのは、だいたいなんらかの身分を持っていそうなひとたちばかりでした。ヨレのない生地のいい服を着て、馬に引かれてきたり、最近は車で来るものも多いようです。車なんてまだ珍しいですから、ブラーヴの子どもたちはみな群がって集まるのですが、従者に乱暴に追いやられたりしてます」
「ひどいもんだ」オルレアンはそんな他愛のない感想を言った。
「その点、あなたはひとがよさそうでしたし、それに」ニームはそう言って、視線を下に落とした。「靴に土がたくさんついていました。遠い距離を歩いてこられた証拠でしょう」
「たしかに長い距離を歩いた。ぼくにはそれがどれくらいだったかわからないくらいだ」
「それに、ついている土に赤色が混じっていました。赤土です。赤土はブラーヴにはないんですよ」
「なんでないとわかる?」
「赤土では農作物が育たないからです。それはあなたがブラーヴの外から来た証拠です。だから、あなたはブラーヴの外から遠い距離を歩いて来たのだとぼくは考えたのです」
「名推理だ」
オルレアンがそう感心したように言うと、ニームは照れ臭そうにほほをかいた。
「ブラーヴにはたしかになにもありません。外部との交渉は非常に限られています。しかし、それは交易をする必要がないからとも言えます。ブラーヴの肥沃な黒い土のおかげで、ブラーヴではこれまで町民が食うのに困ったことはないようです。ブラーヴに生まれ、ブラーヴの外を知らないままにブラーヴで死んでいく。ぼくの祖父母はそのような一生だったそうですし、ぼくの両親もそういう生き方をしています。そしておそらくぼくもそうなるでしょう。だから、ぼくはあなたを尊敬します。自分の足ひとつで、自分の故郷を飛び出したあなたを」
「そんなものはモノの弾みさ。ぼくだって飛び出したくてきたわけじゃない」
「そうですよね。あなたは自分の病気と向き合うためにここに赴いたのですから」
「だから、君だってどうなるかわかったものじゃない」
「ぼくに限ってはないですよ。故郷のブラーヴでさえ、やっと受け入れられ始めたこの肌を」
「そのうち綺麗に治るさ。これは気休めじゃないぜ」
オルレアンがあまりにも自信を持ってそう言うものだから、ニームも「はあ」と言って、オルレアンの気遣いに対して感謝のおじぎを示すしかなかった。
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