うさぎ穴の姫

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オルレアン、ニームから素性を隠す

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「どうされたのですか?」ニームは顔を背けるオルレアンを覗き見ようとしたが、その自分の行いをいかにも子どもらしい振る舞いに感じたのか、こほんと咳払いをしながら「失礼」と言って、顔を元の位置に戻した。
オルレアンは少年のニームに、自分の印象を強く与えることは好ましくないことだろうと予感した。少なくとも、オルレアンの青年ニームのと出会いは、初対面のようであったし、オルレアンがパスィヤンス病院にこだわるようになるまでは、ニームはたしかにオルレアンのよき友人であったからだ。オルレアンとニームとの出会いは、たぶんここでないほうがいい。
「ひとの視線が怖いんだ」オルレアンは咄嗟にそんなウソをついたが、そんなウソにもニームは同情を寄せてくれた。「ああ、わかります。ぼくもひとにじっと見られると、自分がなにか恥ずかしいことをしているのではないかと不安になって、顔が赤くなってしまうんです。そして、それはほんとうに恥ずかしいことだから、ぼくはもっといたたまれなくなるのです」ニームはそう言って、ため息をついた。
「君みたいな少年の年ごろであれば、正常なことだよ。問題はぼくみたいに大きくなっても、それが治らないことなんだ」今度はオルレアンがニームをそうなぐさめた。
「ここの医者の先生は名医なんです。あなたの病気にもきっとなんらかの助言をくださったことでしょう」
「つまり、この時間はもう診てもらうことはかなわないんだね」
「ええ。先生は外出されてしまいました」
「そうか。残念だ」
オルレアンはそう言ってわざとらしく頭を垂れてがっかりしたように見せて、そうして顔を伏せてその場から離れようとしたのに、オルレアンはニームに「あの」と呼び止められてしまった。
「なにかな」オルレアンは横目でニームを見た。
「どうしてあなたはわざわざ遠方からここまで?」
「うーん」オルレアンはしばし考えこんだが、「この病院の医者の先生の評判をたくさん聞いたからだよ。良い医者の情報を調べていたら、いつもここの病院が記事に書かれてあったんだ」オルレアンはそう話をでっちあげたが、オルレアンはさっきダンケルクが語っていたことをそのまま借用していたのだった。
「そうですか」ニームは、ひとをわざわざ呼び止めたわりには無味乾燥な相槌を返したが、その表情は言葉とは裏腹に複雑だった。「やはり、先生はすごい先生なのですね」
オルレアンにはニームの胸中が察せられた。ニームは崇め奉ってきたダンケルクの偉大さを、肯定されても否定されても今はただただむなしいだけなのであった。





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