37 / 101
オルレアン、ニームから素性を隠す
しおりを挟む
「どうされたのですか?」ニームは顔を背けるオルレアンを覗き見ようとしたが、その自分の行いをいかにも子どもらしい振る舞いに感じたのか、こほんと咳払いをしながら「失礼」と言って、顔を元の位置に戻した。
オルレアンは少年のニームに、自分の印象を強く与えることは好ましくないことだろうと予感した。少なくとも、オルレアンの青年ニームのと出会いは、初対面のようであったし、オルレアンがパスィヤンス病院にこだわるようになるまでは、ニームはたしかにオルレアンのよき友人であったからだ。オルレアンとニームとの出会いは、たぶんここでないほうがいい。
「ひとの視線が怖いんだ」オルレアンは咄嗟にそんなウソをついたが、そんなウソにもニームは同情を寄せてくれた。「ああ、わかります。ぼくもひとにじっと見られると、自分がなにか恥ずかしいことをしているのではないかと不安になって、顔が赤くなってしまうんです。そして、それはほんとうに恥ずかしいことだから、ぼくはもっといたたまれなくなるのです」ニームはそう言って、ため息をついた。
「君みたいな少年の年ごろであれば、正常なことだよ。問題はぼくみたいに大きくなっても、それが治らないことなんだ」今度はオルレアンがニームをそうなぐさめた。
「ここの医者の先生は名医なんです。あなたの病気にもきっとなんらかの助言をくださったことでしょう」
「つまり、この時間はもう診てもらうことはかなわないんだね」
「ええ。先生は外出されてしまいました」
「そうか。残念だ」
オルレアンはそう言ってわざとらしく頭を垂れてがっかりしたように見せて、そうして顔を伏せてその場から離れようとしたのに、オルレアンはニームに「あの」と呼び止められてしまった。
「なにかな」オルレアンは横目でニームを見た。
「どうしてあなたはわざわざ遠方からここまで?」
「うーん」オルレアンはしばし考えこんだが、「この病院の医者の先生の評判をたくさん聞いたからだよ。良い医者の情報を調べていたら、いつもここの病院が記事に書かれてあったんだ」オルレアンはそう話をでっちあげたが、オルレアンはさっきダンケルクが語っていたことをそのまま借用していたのだった。
「そうですか」ニームは、ひとをわざわざ呼び止めたわりには無味乾燥な相槌を返したが、その表情は言葉とは裏腹に複雑だった。「やはり、先生はすごい先生なのですね」
オルレアンにはニームの胸中が察せられた。ニームは崇め奉ってきたダンケルクの偉大さを、肯定されても否定されても今はただただむなしいだけなのであった。
オルレアンは少年のニームに、自分の印象を強く与えることは好ましくないことだろうと予感した。少なくとも、オルレアンの青年ニームのと出会いは、初対面のようであったし、オルレアンがパスィヤンス病院にこだわるようになるまでは、ニームはたしかにオルレアンのよき友人であったからだ。オルレアンとニームとの出会いは、たぶんここでないほうがいい。
「ひとの視線が怖いんだ」オルレアンは咄嗟にそんなウソをついたが、そんなウソにもニームは同情を寄せてくれた。「ああ、わかります。ぼくもひとにじっと見られると、自分がなにか恥ずかしいことをしているのではないかと不安になって、顔が赤くなってしまうんです。そして、それはほんとうに恥ずかしいことだから、ぼくはもっといたたまれなくなるのです」ニームはそう言って、ため息をついた。
「君みたいな少年の年ごろであれば、正常なことだよ。問題はぼくみたいに大きくなっても、それが治らないことなんだ」今度はオルレアンがニームをそうなぐさめた。
「ここの医者の先生は名医なんです。あなたの病気にもきっとなんらかの助言をくださったことでしょう」
「つまり、この時間はもう診てもらうことはかなわないんだね」
「ええ。先生は外出されてしまいました」
「そうか。残念だ」
オルレアンはそう言ってわざとらしく頭を垂れてがっかりしたように見せて、そうして顔を伏せてその場から離れようとしたのに、オルレアンはニームに「あの」と呼び止められてしまった。
「なにかな」オルレアンは横目でニームを見た。
「どうしてあなたはわざわざ遠方からここまで?」
「うーん」オルレアンはしばし考えこんだが、「この病院の医者の先生の評判をたくさん聞いたからだよ。良い医者の情報を調べていたら、いつもここの病院が記事に書かれてあったんだ」オルレアンはそう話をでっちあげたが、オルレアンはさっきダンケルクが語っていたことをそのまま借用していたのだった。
「そうですか」ニームは、ひとをわざわざ呼び止めたわりには無味乾燥な相槌を返したが、その表情は言葉とは裏腹に複雑だった。「やはり、先生はすごい先生なのですね」
オルレアンにはニームの胸中が察せられた。ニームは崇め奉ってきたダンケルクの偉大さを、肯定されても否定されても今はただただむなしいだけなのであった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
冤罪で断罪されたら、魔王の娘に生まれ変わりました〜今度はやりたい放題します
みおな
ファンタジー
王国の公爵令嬢として、王太子殿下の婚約者として、私なりに頑張っていたつもりでした。
それなのに、聖女とやらに公爵令嬢の座も婚約者の座も奪われて、冤罪で処刑されました。
死んだはずの私が目覚めたのは・・・
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
こちら異世界タクシー観光案内所 ~SSSSパーティーから追放されたオッサンは辺境の村で観光ガイドを開業してみた~
釈 余白(しやく)
ファンタジー
「お前みたいな役立たず、俺たちSSSSパーティーにはふさわしくない! もういらねえ、追放だ!」
ナロパ王国で長らくマッパーとして冒険者稼業をしているエンタクは、王国有数の冒険者パーティー『回廊の冥王』から突然の追放を冷酷に告げられ王都を去った。
失意の底に沈んだエンタクは、馬車に揺られ辺境の村へと流れ付いた。そんな田舎の村で心機一転、隠居生活のようなスローライフを始めたのである。
そんなある日、村人が持ちかけてきた話をきっかけに、かつての冒険者経験を生かした観光案内業を始めることにしたのだが、時を同じくして、かつての仲間である『回廊の冥王』の美人魔法使いハイヤーン(三十路)がやってきた。
落ち込んでいた彼女の話では、エンタクを追放してからと言うもの冒険がうまくいかなくなってしまい、パーティーはなんと解散寸前になっているという。
当然のようにハイヤーンはエンタクに戻ってくるよう頼むが、エンタクは自分を追放したパーティーリーダーを良く思っておらず、ざまぁ見ろと言って相手にしない。
だがエンタクは、とぼとぼと帰路につく彼女をそのまま放っておくことなどできるはずなかった。そうは言ってもパーティーへ戻ることは不可能だと言い切ったエンタクは、逆にハイヤーンをスローライフへと誘うのだった。
※各話サブタイトルの四字熟語は下記を参考にし、引用させていただいています
goo辞書-四字熟語
https://dictionary.goo.ne.jp/idiom/
ぼくは悪のもふもふ、略して悪もふ!! 〜今日もみんなを怖がらせちゃうぞ!!〜
ありぽん
ファンタジー
恐ろしい魔獣達が住む森の中。
その森に住むブラックタイガー(黒い虎のような魔獣)の家族に、新しい家族が加わった。
名前はノエル。
彼は他のブラックタイガーの子供達よりも小さく、
家族はハラハラしながら子育てをしていたが。
家族の心配をよそに、家族に守られ愛され育ったノエルは、
小さいものの、元気に成長し3歳に。
そんなノエルが今頑張っていることは?
強く恐ろしいと人間達が困らせ怖がらせる、お父さんお母さんそして兄のような、かっこいいブラックタイガーになること。
かっこいいブラックタイガーになるため、今日もノエルは修行に励む?
『どうだ!! こわいだろう!! ぼくはあくなんだぞ!! あくのもふもふ、あくもふなんだぞ!!』
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
覚醒屋の源九郎 第一部
流川おるたな
ファンタジー
人生に疲れ、絶望感で塞ぎ込んでいた。
そんな俺の前に突然現れた妖精のケット・シー。非現実的な存在である彼女との出会いにより、ウルトラレア級のスキル無限覚醒を手にした。
劇的に変わっていく、俺のファンタジーな人生物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる