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ニーム、アルルに見放される。
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それはアルルにも同じだったようで、「あなたにできることはなにもないわ。お父様にだってどうしようもないことなんだから」
アルルはニームを侮辱するわけではなく、医者と子どもという身分の違いによる当然のこととしてそう言ったに過ぎなかったが、ニームにはやはり屈辱であっただろうし、アルルが不憫に思えた。ニームはアルルにとって、友だちとしてすら力になることができなかった。あるいはダンケルクに加担していたものは、力になることを許されないとも言っていいのかもしれないが、どちらにしてもたしかにダンケルクというブラーヴから信を得ている巨大な者に対しては、ニームはあまりにも無力だった。
「ぼくはこれからもここに治療を受けにやってきます。そしてアルルお嬢様をお訪ねします」
ニームはうなだれて、そう言った。ニームはそれが自分にできる精一杯だと感じて、搾り出すようにそう言ったのだろう。
「いいえ。あなたはそれもできないわ」
アルルはその言葉は断罪のように、ニームにつきつけた。「あなたと私が会うことのなくなる未来がくることは間違いないわ」
「そんな未来は想像できません!これもまた先生による妨害ですか?しかしどうでしょうか。幼少期、ぼくをお嬢様に引き合わせたのは先生に他なりません。たしかにここまでお嬢様がおっしゃってきたことが真実であるならば、もちろんぼくは疑っておりませんが、ぼくの先生に対する考え方を少し改めなければならないでしょう。しかし先生がぼくをこの部屋に招いてくださったことは考慮しなければならないでしょう。そうすれば、先生が悲観的未来に完全に怯え切っているとも、悪魔のような冷徹な血を持っているとも、言い切ることは極めて困難になるでしょう」
「あなた、まるで有能な弁護士にでもなったみたいね」アルルはそう言って、くすりと笑った。
「ぼくの言っていることが間違っていますか?」ニームはアルルのその微笑に誇りを傷つけられたようだったが、アルルのその微笑はニームの毀損を目的としたものではなく、むしろ斟酌だった。アルルが言ったもうニームと会うことはないということは実際間違いのないことだったろう。アルルはそれならばと、ニームをダンケルクによって書かれた誤った法学書の中に耽溺させてあげることを選んだのだろう。
「いえ、なにも。あなたの言うとおりよ」
アルルがそう言うと、ニームは満足そうに笑った。ニームの誤った信念は、アルルによって守られ続けてきてしまったようだったが、オルレアンにはそれについてアルルを非難する気持ちなど毫も起きないのは当然のことであった。
アルルはニームを侮辱するわけではなく、医者と子どもという身分の違いによる当然のこととしてそう言ったに過ぎなかったが、ニームにはやはり屈辱であっただろうし、アルルが不憫に思えた。ニームはアルルにとって、友だちとしてすら力になることができなかった。あるいはダンケルクに加担していたものは、力になることを許されないとも言っていいのかもしれないが、どちらにしてもたしかにダンケルクというブラーヴから信を得ている巨大な者に対しては、ニームはあまりにも無力だった。
「ぼくはこれからもここに治療を受けにやってきます。そしてアルルお嬢様をお訪ねします」
ニームはうなだれて、そう言った。ニームはそれが自分にできる精一杯だと感じて、搾り出すようにそう言ったのだろう。
「いいえ。あなたはそれもできないわ」
アルルはその言葉は断罪のように、ニームにつきつけた。「あなたと私が会うことのなくなる未来がくることは間違いないわ」
「そんな未来は想像できません!これもまた先生による妨害ですか?しかしどうでしょうか。幼少期、ぼくをお嬢様に引き合わせたのは先生に他なりません。たしかにここまでお嬢様がおっしゃってきたことが真実であるならば、もちろんぼくは疑っておりませんが、ぼくの先生に対する考え方を少し改めなければならないでしょう。しかし先生がぼくをこの部屋に招いてくださったことは考慮しなければならないでしょう。そうすれば、先生が悲観的未来に完全に怯え切っているとも、悪魔のような冷徹な血を持っているとも、言い切ることは極めて困難になるでしょう」
「あなた、まるで有能な弁護士にでもなったみたいね」アルルはそう言って、くすりと笑った。
「ぼくの言っていることが間違っていますか?」ニームはアルルのその微笑に誇りを傷つけられたようだったが、アルルのその微笑はニームの毀損を目的としたものではなく、むしろ斟酌だった。アルルが言ったもうニームと会うことはないということは実際間違いのないことだったろう。アルルはそれならばと、ニームをダンケルクによって書かれた誤った法学書の中に耽溺させてあげることを選んだのだろう。
「いえ、なにも。あなたの言うとおりよ」
アルルがそう言うと、ニームは満足そうに笑った。ニームの誤った信念は、アルルによって守られ続けてきてしまったようだったが、オルレアンにはそれについてアルルを非難する気持ちなど毫も起きないのは当然のことであった。
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