うさぎ穴の姫

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アルル、悲しみを語る

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「しかし、お嬢様は父である先生を祝福されない」
「祝福なんてできないわ」
「お嬢様はとても悲しそうにお見えになる」
「私には悲しみしかないもの」
「なぜですか? 先生の成功を祝福できない理由を。先生の成功は、お嬢様の豊かさになります。物も心も豊かになる。それなのに、お嬢様のお顔は曇りがかり、声は沈んでおられる。よろしければぼくにそのわけを教えていただくわけにはいきませんか」
「あなたはこのうちのボーイではないわね」
「ええ。なぜです?」
「あなたは、私の唯一のお友だちとして、聞いてくれているのね」
「ええ、そうです。ぼくはアルルお嬢様の友だちです。しかし、アルルお嬢様への忠誠は、ボーイや執事さえも超えることでしょう」
アルルはそう言うニームを見て、小さくため息をついた。ニームの言葉はアルルが求めている言葉とは違ったようだったが、幼いニームは気づいていないようだった。ニームのその忠誠という言葉が、結局、ニームのダンケルクへのそれから出てきているものであることをアルルは感じたようだったし、傍観に徹しているオルレアンにも当然わかることだった。
そして同時に、オルレアンは、このニームの忠誠により、自分は穴の中に落とされたのだと、自分がここにたどり着いた理由がこのときわかったのだった。
「じゃあ、あなたを無二のお友だちと信じて、打ち明けるわ。あなたに打ち明けたこと、お父様には言わないでね」
「誓います」
ニームはそう宣誓したが、ダンケルクに詰められたときにニームがその口を閉ざし続けることは、オルレアンには困難に思えた。アルルにもおそらくそれはわかっていた。しかし、孤独なアルルはきっと誰かに話さずにはいられなかったのだろう。オルレアンはそんなアルルに同情した。
「病院が、建物が、立派になるということは、私にとってはどういうことだと思う?」アルルはニームにそう改めて問うた。ニームにはわかるはずのない解答をアルルは求めていた。
「アルルお嬢様にとって」
「そう。あなたにとって、患者にとって、お父様にとってではなくて、私にとって」
ニームはまるで答えのない問答を突きつけられたように、苦悩で顔を歪めた。しかしその答えはたしかに、アルルが求めている答えはたしかにアルルの胸の内にあるのだった。少年のニームがそこに眼差しを注いだことは、これまでたぶん一度もなかった。
「お嬢様のご病気の治りが、さらに早まることでしょう」
ニームは苦し紛れにそう言った。アルルはそのニームの答えに、悲しみではなく諦めの表情を浮かべた。その顔は、まだ十にも満たない少女の顔には似合わない表情であった。






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