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ニーム、アルルと意見がくいちがう
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ダンケルクは、それでは私は大工と打ち合わせがあるからと、アルルの部屋を去っていった。つまり、その大工とはパスィヤンス病院を増築というよりは新しく建て替えをする大工たちのことで、このパスィヤンス病院はちょうど新旧入れ替わりの時期なのだと、オルレアンはさとった。
ニームはダンケルクが部屋を去って行っても、ドアの内側から、その足音ひとつひとつにさえ尊敬を感じているように、耳をすませていた。
「この病院の建物が立派になったら、もっとたくさんのひとたちが救われることになります」ニーム感嘆を込めて、そう言った。「立派な方が立派な場所で立派なお仕事をされる。先生になんとふさわしいことでありましょうか」
ニームのそのような口ぶりは、少年のニームであれば、オルレアンにもかわいく思えた。
「あなたは病院がおおきくなることがそんなに嬉しいのね」そういうアルルはニームの爛漫な様子と違い、憂いの色を帯びていた。
「ええ。どうして?」ニームはアルルはなんでそんなことを言うのだろうという顔で相槌した。
「だってね、ふつうのひとは病院なんてきたくないのよ」「もちろん来ないに越したことはないですが」
「もっとも赤ちゃんくらい小さな子なら、自分の運命に無知だからいいんでしょうけど。私とあなたみたいな歳の子だって、泣きながらくることもあるわ。おとなや老人は泣きはしないけれども、その悲壮さはときに子どもとは比べものにならないものになる。病院がおおきくなることは不幸中の幸いかもしれないけれど、よろこぶことではけしてないのよ」
「それはつまり、病院はひとの不幸を食いものにしているという、一部偏見や妬みの激しいものの間で流布する誤った風説のことをいうのでしょうか」
「あなた、こわいわ」
アルルはそう言って、身をかばうようにしてニームからさっと身を引いた。ニームの融通の効かなさとときに自分の情動に負けてしまう感じやすさは、子どものときから変わらないのだと、オルレアンはひそかに感動を覚えていた。
「いえ、そのようなつもりは」オルレアンはアルルのおびえる声に熱くなった気を一気に削がれると、攻撃の意思を否定するように、手を後ろに組んだ。「しかし、これだけはわかったください。ぼくはこの病院に、そして先生に救われたのだと」
「それはわかってるわ。あなたがお父様を偽りなき心で深く尊敬し感謝をしていることも、そしてお父様がそれに値することをあなたに施したことも、町のひとがこの病院を頼りにしていることも」
ニームはダンケルクが部屋を去って行っても、ドアの内側から、その足音ひとつひとつにさえ尊敬を感じているように、耳をすませていた。
「この病院の建物が立派になったら、もっとたくさんのひとたちが救われることになります」ニーム感嘆を込めて、そう言った。「立派な方が立派な場所で立派なお仕事をされる。先生になんとふさわしいことでありましょうか」
ニームのそのような口ぶりは、少年のニームであれば、オルレアンにもかわいく思えた。
「あなたは病院がおおきくなることがそんなに嬉しいのね」そういうアルルはニームの爛漫な様子と違い、憂いの色を帯びていた。
「ええ。どうして?」ニームはアルルはなんでそんなことを言うのだろうという顔で相槌した。
「だってね、ふつうのひとは病院なんてきたくないのよ」「もちろん来ないに越したことはないですが」
「もっとも赤ちゃんくらい小さな子なら、自分の運命に無知だからいいんでしょうけど。私とあなたみたいな歳の子だって、泣きながらくることもあるわ。おとなや老人は泣きはしないけれども、その悲壮さはときに子どもとは比べものにならないものになる。病院がおおきくなることは不幸中の幸いかもしれないけれど、よろこぶことではけしてないのよ」
「それはつまり、病院はひとの不幸を食いものにしているという、一部偏見や妬みの激しいものの間で流布する誤った風説のことをいうのでしょうか」
「あなた、こわいわ」
アルルはそう言って、身をかばうようにしてニームからさっと身を引いた。ニームの融通の効かなさとときに自分の情動に負けてしまう感じやすさは、子どものときから変わらないのだと、オルレアンはひそかに感動を覚えていた。
「いえ、そのようなつもりは」オルレアンはアルルのおびえる声に熱くなった気を一気に削がれると、攻撃の意思を否定するように、手を後ろに組んだ。「しかし、これだけはわかったください。ぼくはこの病院に、そして先生に救われたのだと」
「それはわかってるわ。あなたがお父様を偽りなき心で深く尊敬し感謝をしていることも、そしてお父様がそれに値することをあなたに施したことも、町のひとがこの病院を頼りにしていることも」
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