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ダンケルク、ニームと契約を交わす
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「君へのいつものお願いだ。ここに呼ばれた理由がわかるね?」
「もちろんです」ニームは得意げに、高らかな声でそう言った。「アルルお嬢様のお相手をすることです」
「そうだ。君と同じで、皮膚の病気で外に出ることができないんだ。かわいそうな子だ。あの子は君しか遊び相手がいないのだよ」
「おまかせください」
「その代わりといってはなんだが、私は君に無償で治療を提供している。今日も君は薬をもらったね。君は今日お金を支払ったかね」
「いえ。払っていません」
「私は君みたいなちいさな子どもに恩を着せるようなことをしたいんじゃない。これは確認だ。私は君を子どもとして扱うよりはむしろ、対等な関係とさえ思っている。いわば契約関係だ。言葉が難しければ、おとな同士の関係と考えてもらったいいだろう」
「うれしいです。先生にそのように言っていただけるなんて」
「私はね、君しか信頼できないのだよ。君にならアルルを任せられる。君なら、アルルの気持ちをわかってくれる。私の気持ちもわかってくれる。アルルの病気が世間に知られたら、アルルがどれほどかわいそうな思いをすることになるか」
「ぼくは痛いほどにそれを知っています」
「だから、ここでもう一度約束をしようじゃないか」
「約束とは、つまり契約ですか?」ニームは契約という言葉が気に入ったようだった。
「そうだ。君がそのように言ってほしいのであれば、私はそう言おう」
「ありがとうございます」ニームは満足したようだった。
「私は君を治療する。無料で診察し、無料で薬を処方しよう。代わりに君はアルルに会ってやってほしい。かわいそうなアルルをなぐさめてやってほしい」
「はい」
「ただし、この契約には条件がある。すなわち、君がアルルのことをけして他言しないことだ。アルルの病気のことはもちろん、アルルという存在も他言してはならない。アルルの将来のためにわかってくれるね。アルルの病気はいずれ完治する。そのときまで、私と君でアルルを守ってやるのだ。アルルを悪意や偏見の視線にさらさせないためだ。ひとはひとたびある観念をもつと、そこからなかなか逃れられないものだ。ひとたびアルルが病気を持っていると知られると、ひとはアルルの完治した汚れなき絹のような肌を見ても、そこに目に見えないなにかを見てしまう。それはさながら呪いのようだ。それが乙女にとっては、イバラのような苦難の道に連れ込むことになることを君ならわかってくれるね」
「もちろんですとも」
そう請け負う少年のニームは、たしかに露出する肌のいたるところで、肌が薄く皮むけていて、それが悪化したところではただれが痛々しく、まるでニームの運命を黒く覆い尽くそうとしているのを、なんとか薬の力で拮抗させているようだった。一方、アルルのその肌は、顔にはそばかすこそあるが、ダンケルクが表現したように、まさに純白の絹のようであった。アルルはたしかに、日の光の浴びぬところで育てられたのが一見してわかるのだった。もっとも、日の光を浴びるとたちどころに、その美しい肌を失ってしまうのかもしれないが。
「もちろんです」ニームは得意げに、高らかな声でそう言った。「アルルお嬢様のお相手をすることです」
「そうだ。君と同じで、皮膚の病気で外に出ることができないんだ。かわいそうな子だ。あの子は君しか遊び相手がいないのだよ」
「おまかせください」
「その代わりといってはなんだが、私は君に無償で治療を提供している。今日も君は薬をもらったね。君は今日お金を支払ったかね」
「いえ。払っていません」
「私は君みたいなちいさな子どもに恩を着せるようなことをしたいんじゃない。これは確認だ。私は君を子どもとして扱うよりはむしろ、対等な関係とさえ思っている。いわば契約関係だ。言葉が難しければ、おとな同士の関係と考えてもらったいいだろう」
「うれしいです。先生にそのように言っていただけるなんて」
「私はね、君しか信頼できないのだよ。君にならアルルを任せられる。君なら、アルルの気持ちをわかってくれる。私の気持ちもわかってくれる。アルルの病気が世間に知られたら、アルルがどれほどかわいそうな思いをすることになるか」
「ぼくは痛いほどにそれを知っています」
「だから、ここでもう一度約束をしようじゃないか」
「約束とは、つまり契約ですか?」ニームは契約という言葉が気に入ったようだった。
「そうだ。君がそのように言ってほしいのであれば、私はそう言おう」
「ありがとうございます」ニームは満足したようだった。
「私は君を治療する。無料で診察し、無料で薬を処方しよう。代わりに君はアルルに会ってやってほしい。かわいそうなアルルをなぐさめてやってほしい」
「はい」
「ただし、この契約には条件がある。すなわち、君がアルルのことをけして他言しないことだ。アルルの病気のことはもちろん、アルルという存在も他言してはならない。アルルの将来のためにわかってくれるね。アルルの病気はいずれ完治する。そのときまで、私と君でアルルを守ってやるのだ。アルルを悪意や偏見の視線にさらさせないためだ。ひとはひとたびある観念をもつと、そこからなかなか逃れられないものだ。ひとたびアルルが病気を持っていると知られると、ひとはアルルの完治した汚れなき絹のような肌を見ても、そこに目に見えないなにかを見てしまう。それはさながら呪いのようだ。それが乙女にとっては、イバラのような苦難の道に連れ込むことになることを君ならわかってくれるね」
「もちろんですとも」
そう請け負う少年のニームは、たしかに露出する肌のいたるところで、肌が薄く皮むけていて、それが悪化したところではただれが痛々しく、まるでニームの運命を黒く覆い尽くそうとしているのを、なんとか薬の力で拮抗させているようだった。一方、アルルのその肌は、顔にはそばかすこそあるが、ダンケルクが表現したように、まさに純白の絹のようであった。アルルはたしかに、日の光の浴びぬところで育てられたのが一見してわかるのだった。もっとも、日の光を浴びるとたちどころに、その美しい肌を失ってしまうのかもしれないが。
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