うさぎ穴の姫

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アルル、オルレアンに忠告する

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「それはなぜ?」
「お父様が怒るわ」
「お父様って、病院の院長のことかい?」
「そうよ」
 オルレアンはそう答えた少女をまじまじと見た。少女は十にも満たないほど幼く見えたから、この少女はダンケルクにとっては遅く授かった子どもに違いなかった。オルレアンは十数年ブラーヴに住んでいて、パスィヤンス病院の院長に娘や息子がいるという話を聞いたことがなかった。
 もちろん、オルレアンは娘や息子がいるという話を聞いたことがなかっただけで、院長には子どもがいないといういま否定される事実を聞かされていたわけでも信じていたわけでもなかったが。
「それに、あなたのことをすぐに教えなかったわたしもきっと怒られるわ」少女はそう言って、恐ろしげに自分の肩を抱いた。
「お父さんは怖いひとなのかい」オルレアンは聞いた。
「あまりお話しはしないひとだけどこわくはないわ。それに町中からこの病院を頼って、いろんなひとがくるもの。きっとみんなから信頼されているに違いないわ」少女はそう言って、父親をまるで他人のように評した。
「うーん、どうやらそのようだね」オルレアンは将来この病院が町一番の独占的な大病院になることは言わなかった。
「でも」少女は言いにくそうにいったん間を空けたが、まるで不安を押し込めずにはいられない様子で話し始めたり「一度、この庭にちいさな子どもが周り込んできたことがあったの。鉄柵をお父様かお母様が閉め忘れたのね。まだいいことも悪いこともわからないようなちいさな子どもよ。わたしは今日と同じように窓から外を眺めていた」
「というと、いま君は君の部屋からぼくと話しているわけだね」
「そうよ。それで、わたしはその子に気がつくとその子が穴に落ちてはいけないと思って、この窓から飛び降りて近寄って、その子とお話しをしていたの。その声がお父様に聞こえていたみたい。お父様はおそろしい顔をしてわたしに近づいてきて、そして、子どもをまるで犬か猫かのようにして外に放り出した。わたしは部屋に閉じ込められて、2週間、庭にさえも出ることを禁じられたの」
「学校も?」
「わたし学校へは行ってないの。お母様が代わりに勉強を教えてくださっているわ」
「友だちは?」
「友だち?」少女は悲しげに目をうつむかせたが、言いにくそうに口をごにょごにょさせて、言葉をよどませた。「ひとりだけ、いるわ。そう言っていいのか、わたしにはわからないけれど」
 少女は遠慮がちにそう言った。少女がそう言い終わるのと同時に、少女がいる奥のほうから、ドアノブをガチャガチャと、まるでそれを取り外さんというほどの大きな音が聞こえた。少女はうさぎのように耳をそばだて、目を見開いた。


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