うさぎ穴の姫

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オルレアン、アルルと出会う。

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「あなたは、誰?」
オルレアンは背後から、そう声をかけられた。オルレアンは声のした方へ振り返ると、家の中の閉じられた窓越しに、窓枠を陰にして隠れるように、ひとりの少女がオルレアンを、探るような目で見ているのに気がついた。オルレアンがのぼってきたひもは家の庭の木の根元にゆわえつけられていて、おそらくこの少女がオルレアンの助けを呼ぶ声を聞いて、用意してくれたものに違いなかった。
「君がぼくのために?」オルレアンは顔の半分だけ見せる少女にそう聞いた。
「うん」少女はまだオルレアンを警戒しているようだった。「あなたは、人間?」
「うん、見てのとおりさ」
「でも、人の姿をした悪魔もいるのよ」
「しかし、悪魔は太陽のもとでは生きられない」
「そうなの?」少女は無垢な目でそう聞いた。
「そうだ。でもぼくはこうして日の元に立っている」オルレアンは自信満々にそう言い切ったが、悪魔の実態はもちろん、悪魔が登場する昔話や伝説もなにもよくは知っていなかった。
「わたし、知らなかったわ」少女はオルレアンに感心したように、オルレアンに向いた気持ちの分だけ、窓枠の中に身体を寄せたが、まだ窓は閉じられたままだった。「疑ってしまって、ごめんなさい」
「なぜぼくを悪魔だと思った?」
「お父さまからけしてその穴に近づいてはいけない、近づくと悪魔に穴の中へ引きずり込まれると、そう教えられてきたから」
「そうだ。それは正しいことだ。この穴には近づかないほうがいい。落ちたらあぶないからね」
「それに、その穴から出てくる他にこの庭に入りようがないもの。門から庭に行くには鉄柵があって、門から入ったらおうちの中にしか進めないようになってるから」
「ぼくはあの山のてっぺんにある穴に入ったんだ。そしたらいつのまにかここに着いていたってわけさ。その穴は山のどこにあったって?それはちょっと教えられないんだけどね」
少女はオルレアンの穏やかな話し振りに安心したように、窓枠に全身を見せた。色白な素肌にそばかすが浮かぶ、赤い髪を三つ編みに編んだ、目の青い控えめな少女だった。
少女はオルレアンにうすく微笑んで見せたが、「あなたは、どうしてその穴に落ちてしまったの?」
「落ちたわけじゃないんだ。自分から入ったんだよ」
「なんのために?」
「うさぎが隠れてやしないかと思ってね」
「あなたが飼っているうさぎなの?」
「いや、うさぎならなんでもよかったんだけど」
「うさぎって、そんなに見つけにくいものなのかしら」
「ふつうなら山をちょっと歩けば見つかるんだけどね」
オルレアンはそう言って、笑いながら頭をかいた。少女はそんなオルレアンを名残惜しそうに見ていたけれど、「うさぎはその中にはいなかったのでしょう。それがわかったのなら、あなたははすぐこの庭から出たほうがいいわ。あなたは穴にはもちろん近づかないほうがいいし、庭にももう近づかないほうがいいわ」
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