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オルレアン、穴から抜け出す。
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オルレアンは行き止まりのない、暗闇のトンネルを愚直に突き進んだ。先ほどの穴の下に戻るきっかけとなった行き止まりは消えていた。道はいくらでも続いた。腰に下げていたランタンの灯りはすっかり消えていた。でもオルレアンは恐怖を感じなかった。ましてや疲れさえも感じなかった。どれくらいの時間を歩いたのか、オルレアンにはわからなくなっていた。実際、光のないこの暗闇の世界では、時間の流れはなくなっていた。あるのは空間だけだった。オルレアンは歩けば歩くほど過去に歩みを進めていた。オルレアンは突然、上空にぽっかりと穴が空いていることに気がついた。それはまるで満月みたいだった。しかし目を凝らしてみると、穴の中から夜空の星が輝いていたから、それは月ではなくて、たしかに人が抜けられる空間だった。オルレアンは長い間暗闇を歩いていたから、穴までの距離を目測できなかった。あの穴は手のかからない遥か高みにあるのだと思った。オルレアンはそうして何年か、あるいは何十年ぶりかの星空を見上げていたが、そのうちに自分の足元でゴツゴツと起伏が起こるのに気がついた。手を自分の辺りに伸ばすと、湿気を含んだコケの生えた岩肌に囲まれていた。
オルレアンは左右の道をふさがれた。その代わりに、上への道は開かれた。オルレアンはおのれの指と腕と脚だけで岩肌をのぼろうとしたが、岩肌はつるつるすべるうえにつかみどころも少なく、オルレアンも特別な訓練を受けているわけではなかったので、オルレアンはむしろ八方塞がりにおちいった。
オルレアンは「おーいおーい」と外に向けて声を出した。諦めずにしばらく続けていると、上からひもがおりてきた。オルレアンはそれをくいっと引っ張ると、ひもはしっかりとなにかにくくりつけられているようだった。オルレアンはそのひもをつかみ、足の裏で壁を押して体重を支えながら、穴の外を目指した。
そうしてオルレアンが穴から抜け出したそこは、厳重な石塀に覆われている庭だった。オルレアンは石塀をよじ登り、塀の真下を見下ろした。塀の周回にはまるでここが城かのように堀が掘られていて、庭の中からなら手を伸ばせば頭に手が届くこの塀も、庭の外からでは、おとなの背の高さの2倍にもなるはいになるようだった。オルレアンは塀にしがみついたまま、こんどは外を見渡した。そこは一見して、オルレアンの知っている景色と変わらないように見えた。事実、オルレアンが幼かったころからこれまで、ブラーヴの町はほとんどその姿を変えていなかった。しかし、オルレアンから見える景色ではなく、いま立っているそこだけは、オルレアンが穴に降りたときと、その趣を異にしていた。そこには、病院の立派な建物はなかった。あるのは、一軒の民家だけだった。オルレアンはまだ建て替えと増築が始まる前の、パスィヤンス病院の前進を見ているのだった。
オルレアンは左右の道をふさがれた。その代わりに、上への道は開かれた。オルレアンはおのれの指と腕と脚だけで岩肌をのぼろうとしたが、岩肌はつるつるすべるうえにつかみどころも少なく、オルレアンも特別な訓練を受けているわけではなかったので、オルレアンはむしろ八方塞がりにおちいった。
オルレアンは「おーいおーい」と外に向けて声を出した。諦めずにしばらく続けていると、上からひもがおりてきた。オルレアンはそれをくいっと引っ張ると、ひもはしっかりとなにかにくくりつけられているようだった。オルレアンはそのひもをつかみ、足の裏で壁を押して体重を支えながら、穴の外を目指した。
そうしてオルレアンが穴から抜け出したそこは、厳重な石塀に覆われている庭だった。オルレアンは石塀をよじ登り、塀の真下を見下ろした。塀の周回にはまるでここが城かのように堀が掘られていて、庭の中からなら手を伸ばせば頭に手が届くこの塀も、庭の外からでは、おとなの背の高さの2倍にもなるはいになるようだった。オルレアンは塀にしがみついたまま、こんどは外を見渡した。そこは一見して、オルレアンの知っている景色と変わらないように見えた。事実、オルレアンが幼かったころからこれまで、ブラーヴの町はほとんどその姿を変えていなかった。しかし、オルレアンから見える景色ではなく、いま立っているそこだけは、オルレアンが穴に降りたときと、その趣を異にしていた。そこには、病院の立派な建物はなかった。あるのは、一軒の民家だけだった。オルレアンはまだ建て替えと増築が始まる前の、パスィヤンス病院の前進を見ているのだった。
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