13 / 101
オルレアン、病院の裏庭を知る
しおりを挟む
「それで、お主は私がなにをしにお主に会いにきたと思う」
「うさぎのことが気になっていたのでは」
「違う。エサをやりにきたのさ」
「うさぎに?」
「エサをやるうさぎがどこにもいないのはお主が確かめたとおりさ」
「じゃあなにに?」
「お主に決まっておろう」
「ああ、ぼくにか」オルレアンはそう納得してみせたが、この場合の「エサ」の言葉の意味を理解していなかったので、老婆は果たしてなにをくれるのだろうと期待していたのだった。
「お主はパスィヤンス病院の秘密を知りたいのだろう」
「そのとおりです」オルレアンは老婆が「エサ」のことから急に話をそらしたようだぞと、そんなことを考えていた。
「私の知っている病院にある穴が、お主が探しているうさぎ穴である保証はまったくないが」老婆はもったいつけるようにして言った。「パスィヤンス病院の建物の陰となる、日の当たらない裏庭には確かに穴がひとつある」
「ほんとうか」
「もっともそれは裏庭と言っても、建物が高く築かれてしまったせいで、表があり裏があるようになってしまっただけであるが」
「そこにはうさぎが隠れられそうなのか?」
「1匹2匹くらいならなんでもないが、町中のうさぎとなればさすがに無理だろう」
「でも、町中のいろいろな隠された穴にうさぎが隠れていて、あなたの言うその穴はその中のひとつなのかもしれない。見てみる価値はあるだろう」
「行く気はあるかね?」
「もちろんだ」
「その穴は、かつて防空壕と呼ばれていたものだ。その昔、敵国からの爆撃や爆弾から逃れるためにつくられた非常用の逃げ穴のことだ」
「言葉は聞いたことがある」
「無理もない。私のような老人でさえ、幸いにも穴の中に逃げ込んだ経験はない。平和な世の中が続いている。しかし、戦争になる危機感に満ちた時代はあった。それはちょうどダンケルクがブラーヴに移住してきたときだった。ダンケルクは病院を建てる場所を選ぶときに、空き地に残されていた防空壕に目をつけたのかもしれない。防空壕なんてどの家でも持っているものではないし、自分で掘ろうとしたら多くの労力と時間を費やさなければならないからね」
「その防空壕の正確な位置は?」
「そんなものは自分で探せ」
「見つかるだろうか」
「もしかしたら生い茂った草木に隠されてるかもしれん」
「それは困る」
「なにいいじゃないか」
「なぜ?」
「自然に埋もれてしまうくらいにずっと開かれることのない穴ならば、それはつまりずっと使われてこなかったということだろう。防空壕が見つからなかったならば、お主がほんとうに見つけたいものも見つからないだろう」
「なるほど」
老婆の言っていることはさておき、ともかく行ってみようかと、オルレアンは思った。
「うさぎのことが気になっていたのでは」
「違う。エサをやりにきたのさ」
「うさぎに?」
「エサをやるうさぎがどこにもいないのはお主が確かめたとおりさ」
「じゃあなにに?」
「お主に決まっておろう」
「ああ、ぼくにか」オルレアンはそう納得してみせたが、この場合の「エサ」の言葉の意味を理解していなかったので、老婆は果たしてなにをくれるのだろうと期待していたのだった。
「お主はパスィヤンス病院の秘密を知りたいのだろう」
「そのとおりです」オルレアンは老婆が「エサ」のことから急に話をそらしたようだぞと、そんなことを考えていた。
「私の知っている病院にある穴が、お主が探しているうさぎ穴である保証はまったくないが」老婆はもったいつけるようにして言った。「パスィヤンス病院の建物の陰となる、日の当たらない裏庭には確かに穴がひとつある」
「ほんとうか」
「もっともそれは裏庭と言っても、建物が高く築かれてしまったせいで、表があり裏があるようになってしまっただけであるが」
「そこにはうさぎが隠れられそうなのか?」
「1匹2匹くらいならなんでもないが、町中のうさぎとなればさすがに無理だろう」
「でも、町中のいろいろな隠された穴にうさぎが隠れていて、あなたの言うその穴はその中のひとつなのかもしれない。見てみる価値はあるだろう」
「行く気はあるかね?」
「もちろんだ」
「その穴は、かつて防空壕と呼ばれていたものだ。その昔、敵国からの爆撃や爆弾から逃れるためにつくられた非常用の逃げ穴のことだ」
「言葉は聞いたことがある」
「無理もない。私のような老人でさえ、幸いにも穴の中に逃げ込んだ経験はない。平和な世の中が続いている。しかし、戦争になる危機感に満ちた時代はあった。それはちょうどダンケルクがブラーヴに移住してきたときだった。ダンケルクは病院を建てる場所を選ぶときに、空き地に残されていた防空壕に目をつけたのかもしれない。防空壕なんてどの家でも持っているものではないし、自分で掘ろうとしたら多くの労力と時間を費やさなければならないからね」
「その防空壕の正確な位置は?」
「そんなものは自分で探せ」
「見つかるだろうか」
「もしかしたら生い茂った草木に隠されてるかもしれん」
「それは困る」
「なにいいじゃないか」
「なぜ?」
「自然に埋もれてしまうくらいにずっと開かれることのない穴ならば、それはつまりずっと使われてこなかったということだろう。防空壕が見つからなかったならば、お主がほんとうに見つけたいものも見つからないだろう」
「なるほど」
老婆の言っていることはさておき、ともかく行ってみようかと、オルレアンは思った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる