うさぎ穴の姫

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オルレアン、病院の裏庭を知る

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「それで、お主は私がなにをしにお主に会いにきたと思う」
「うさぎのことが気になっていたのでは」
「違う。エサをやりにきたのさ」
「うさぎに?」
「エサをやるうさぎがどこにもいないのはお主が確かめたとおりさ」
「じゃあなにに?」
「お主に決まっておろう」
「ああ、ぼくにか」オルレアンはそう納得してみせたが、この場合の「エサ」の言葉の意味を理解していなかったので、老婆は果たしてなにをくれるのだろうと期待していたのだった。
「お主はパスィヤンス病院の秘密を知りたいのだろう」
「そのとおりです」オルレアンは老婆が「エサ」のことから急に話をそらしたようだぞと、そんなことを考えていた。
「私の知っている病院にある穴が、お主が探しているうさぎ穴である保証はまったくないが」老婆はもったいつけるようにして言った。「パスィヤンス病院の建物の陰となる、日の当たらない裏庭には確かに穴がひとつある」
「ほんとうか」
「もっともそれは裏庭と言っても、建物が高く築かれてしまったせいで、表があり裏があるようになってしまっただけであるが」
「そこにはうさぎが隠れられそうなのか?」
「1匹2匹くらいならなんでもないが、町中のうさぎとなればさすがに無理だろう」
「でも、町中のいろいろな隠された穴にうさぎが隠れていて、あなたの言うその穴はその中のひとつなのかもしれない。見てみる価値はあるだろう」
「行く気はあるかね?」
「もちろんだ」
「その穴は、かつて防空壕と呼ばれていたものだ。その昔、敵国からの爆撃や爆弾から逃れるためにつくられた非常用の逃げ穴のことだ」
「言葉は聞いたことがある」
「無理もない。私のような老人でさえ、幸いにも穴の中に逃げ込んだ経験はない。平和な世の中が続いている。しかし、戦争になる危機感に満ちた時代はあった。それはちょうどダンケルクがブラーヴに移住してきたときだった。ダンケルクは病院を建てる場所を選ぶときに、空き地に残されていた防空壕に目をつけたのかもしれない。防空壕なんてどの家でも持っているものではないし、自分で掘ろうとしたら多くの労力と時間を費やさなければならないからね」
「その防空壕の正確な位置は?」
「そんなものは自分で探せ」
「見つかるだろうか」
「もしかしたら生い茂った草木に隠されてるかもしれん」
「それは困る」
「なにいいじゃないか」
「なぜ?」
「自然に埋もれてしまうくらいにずっと開かれることのない穴ならば、それはつまりずっと使われてこなかったということだろう。防空壕が見つからなかったならば、お主がほんとうに見つけたいものも見つからないだろう」
「なるほど」
 老婆の言っていることはさておき、ともかく行ってみようかと、オルレアンは思った。




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