うさぎ穴の姫

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ニーム、ダンケルクに忠告する

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確かにダンケルクの治療過程において、魔術的な施術はこの通り一切なかった。最新の細菌学、疫学を取り入れ、適切に処置しただけだった。
「私の故郷はブラーヴではない。私にそれを求められても困る。ブラーヴで生まれ育った君から見たら私のブラーヴに対する態度は物足りなく感じるのかもしれない。しかしそれで非難されるのは誠に遺憾だ。私はそれだけこのブラーヴに尽くしてきたつもりだよ」
「先生がこのブラーヴから去っていなくなってしまうことはあるのでしょうか」
「困るのかね」
「当然です。ブラーヴの患者はみな、パスィヤンス病院に依存しています。この病院がなくなっては、みな路頭に放り出されるようなものです。先生がこの町から医者を放逐されたからです」
「まるで私が悪者のようではないか」ダンケルクは大声をあげて笑った。
「しかし」ニームはそう言い淀んだ。
ダンケルクは大声から一転、ニームを鼻で笑うようにして、「ブラーヴは私にとっても心地がよいところだ。なに、心配には及ばんよ」
ニームは安心したようにほっと息をついて顔を緩めたが、すぐに深刻な顔をして、「先生はなぜオルレアンに会おうと思ったのですか」
「私の信念だ。私はこれまであのような青年を拒んだことはない」
「そうした青年と対面したとき、先生はどうなされるのですか」
「あるがままに話すことだ。私の後ろめたさもふくめて打ち明けるのだ。正直に話せば彼らは必ずわかってくれる」
「今まではそれでうまくいっていたのかもしれません」
「そしてこれからも」
「その保証はありません」
「なぜそう思う」
ニームはダンケルクの問いには答えずに、言った。
「先生のブラーヴでの平安を壊さないために、オルレアンにだけはもう会わないようにしていただきたいのです」
「君は私の話を聞いていたのかね。オルレアン君もその例外ではない。オルレアン君だってわかってくれたさ」
ダンケルクはあのとき、自分が追い出すようにオルレアンを扉の外に閉め出したことを当然覚えていた。
「オルレアンは納得していませんでした」
ダンケルクはニームの一連の忠告に顔をしかめた。自分の歳半分もいかない青年に自分が比べられているようだった。ダンケルクにとって、それは屈辱だった。
「バカらしい」ダンケルクは吐き捨てるように言った。
「たしかにバカなことを言っていると思います。ええそうでしょう。ぼくは頭がおかしくなったのかもしれません。しかし、オルレアンのほうがその点でぼくよりさらに上手なのです」 
「君はあの少年のなにをおそれている」
「オルレアンにあるのは、底なしの好奇心と無反省な確信です。これほど怖いものはない」
「たしかに」ダンケルクはいったんそう同意したが、「しかしそれは、あばかれては困るものが実際あるからだろう」とニヤリと笑った。「君は私をはかったのかね」
「まさか」ニームはダンケルクに疑われたことに絶句した。「ぼくは先生のお役に立ちたいだけなのです」
「それはどのようにして」
「とにかく、ぼくにお任せください」
ダンケルクはなにをせよともするなとも言わず、ただ黙っていた。
ニームはそれを許しと解釈して言った。「先生がオルレアンを拒まないのであれば、ぼくがオルレアンを留めるのみです」







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