うさぎ穴の姫

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ニーム、奔走する

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「終わりにするつもりがないとは、どういうことだ」
恥ずかしさからなんとか立ち上がったニームは、小声でオルレアンにそう聞いた。
「言葉通りさ。ぼくはまたパスィヤンス病院に調査に行くよ」
「院長は、やましいことはなにもないと君に説明したじゃないか」
「そう説明されたからそうだと信じるやつは、はじめからうさぎ穴のことなんて見向きもしない」
「君は本当にバカだ」
ニームは今の言葉がオルレアンとの仲の、何か決定的な一言になることを、そう言い放ってから恐れたが、オルレアンはまるでそう言い慣れていて、むしろそう言われることを勲章であると考えているようであった。オルレアンは本気で終わりにするつもりはないんだと、ニームは息を飲んだのだった。
学校が終わると、ニームは家に帰ることもせず、そのままブラーヴの中心へと向かった。そこにあるのは、もちろんパスィヤンス病院だった。ニームが急いでパスィヤンス病院に向かったのは、オルレアンの先回りをするためだった。オルレアンとここではちあわせたり、パスィヤンス病院に入っていくのを見られたくなかった。
ニームはパスィヤンス病院の庭を、正体を隠すように顔を伏せながら走ってつっきり、建物に入ると、行き慣れた様子で病院の奥の方へと進んで行った。
アンティーブ夫人の部屋の前を通り過ぎ、息はだいぶ上がっていたけれど、ニームは立ち止まることなく階段をのぼっていった。ニームはダンケルクのいる部屋を目指して、ひたすら突き進んだ。ニームはつまり、夫人の案内なしに、ダンケルクのいる部屋にひとりでたどりつけると思ったのだった。ニームはそれでも道に迷った。自分の記憶ではすでにあったはずの扉がそこにはなくて、そこは上に続く階段にあった。ニームは多少戸惑ったが、それはオルレアンが夫人に連れられてこの空間に入り込んだ時ほどではなかった。ニームはパスィヤンス病院の増築に次ぐ増築の過程を逐一見てきていた。ニームはこの病院の増築の癖をなんとなく直観できていたのだった。
ニームは目当ての扉の前に着いた。部屋の位置は変わっているのにもかかわらず、扉の色や模様はなにひとつかつてのものと変わりなかった。ニームはそれがノックの代わりになるくらいに大きな呼吸音を立てて息を弾ませながら、扉をノックした。
「入りなさい」ダンケルクの重々しい声が扉越しにニームに届いた。
「失礼します」ニームは扉を慎重に開くと、かつて幼少期によく見た、見覚えのある部屋へと入った。




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