8 / 101
ニーム、奔走する
しおりを挟む
「終わりにするつもりがないとは、どういうことだ」
恥ずかしさからなんとか立ち上がったニームは、小声でオルレアンにそう聞いた。
「言葉通りさ。ぼくはまたパスィヤンス病院に調査に行くよ」
「院長は、やましいことはなにもないと君に説明したじゃないか」
「そう説明されたからそうだと信じるやつは、はじめからうさぎ穴のことなんて見向きもしない」
「君は本当にバカだ」
ニームは今の言葉がオルレアンとの仲の、何か決定的な一言になることを、そう言い放ってから恐れたが、オルレアンはまるでそう言い慣れていて、むしろそう言われることを勲章であると考えているようであった。オルレアンは本気で終わりにするつもりはないんだと、ニームは息を飲んだのだった。
学校が終わると、ニームは家に帰ることもせず、そのままブラーヴの中心へと向かった。そこにあるのは、もちろんパスィヤンス病院だった。ニームが急いでパスィヤンス病院に向かったのは、オルレアンの先回りをするためだった。オルレアンとここではちあわせたり、パスィヤンス病院に入っていくのを見られたくなかった。
ニームはパスィヤンス病院の庭を、正体を隠すように顔を伏せながら走ってつっきり、建物に入ると、行き慣れた様子で病院の奥の方へと進んで行った。
アンティーブ夫人の部屋の前を通り過ぎ、息はだいぶ上がっていたけれど、ニームは立ち止まることなく階段をのぼっていった。ニームはダンケルクのいる部屋を目指して、ひたすら突き進んだ。ニームはつまり、夫人の案内なしに、ダンケルクのいる部屋にひとりでたどりつけると思ったのだった。ニームはそれでも道に迷った。自分の記憶ではすでにあったはずの扉がそこにはなくて、そこは上に続く階段にあった。ニームは多少戸惑ったが、それはオルレアンが夫人に連れられてこの空間に入り込んだ時ほどではなかった。ニームはパスィヤンス病院の増築に次ぐ増築の過程を逐一見てきていた。ニームはこの病院の増築の癖をなんとなく直観できていたのだった。
ニームは目当ての扉の前に着いた。部屋の位置は変わっているのにもかかわらず、扉の色や模様はなにひとつかつてのものと変わりなかった。ニームはそれがノックの代わりになるくらいに大きな呼吸音を立てて息を弾ませながら、扉をノックした。
「入りなさい」ダンケルクの重々しい声が扉越しにニームに届いた。
「失礼します」ニームは扉を慎重に開くと、かつて幼少期によく見た、見覚えのある部屋へと入った。
恥ずかしさからなんとか立ち上がったニームは、小声でオルレアンにそう聞いた。
「言葉通りさ。ぼくはまたパスィヤンス病院に調査に行くよ」
「院長は、やましいことはなにもないと君に説明したじゃないか」
「そう説明されたからそうだと信じるやつは、はじめからうさぎ穴のことなんて見向きもしない」
「君は本当にバカだ」
ニームは今の言葉がオルレアンとの仲の、何か決定的な一言になることを、そう言い放ってから恐れたが、オルレアンはまるでそう言い慣れていて、むしろそう言われることを勲章であると考えているようであった。オルレアンは本気で終わりにするつもりはないんだと、ニームは息を飲んだのだった。
学校が終わると、ニームは家に帰ることもせず、そのままブラーヴの中心へと向かった。そこにあるのは、もちろんパスィヤンス病院だった。ニームが急いでパスィヤンス病院に向かったのは、オルレアンの先回りをするためだった。オルレアンとここではちあわせたり、パスィヤンス病院に入っていくのを見られたくなかった。
ニームはパスィヤンス病院の庭を、正体を隠すように顔を伏せながら走ってつっきり、建物に入ると、行き慣れた様子で病院の奥の方へと進んで行った。
アンティーブ夫人の部屋の前を通り過ぎ、息はだいぶ上がっていたけれど、ニームは立ち止まることなく階段をのぼっていった。ニームはダンケルクのいる部屋を目指して、ひたすら突き進んだ。ニームはつまり、夫人の案内なしに、ダンケルクのいる部屋にひとりでたどりつけると思ったのだった。ニームはそれでも道に迷った。自分の記憶ではすでにあったはずの扉がそこにはなくて、そこは上に続く階段にあった。ニームは多少戸惑ったが、それはオルレアンが夫人に連れられてこの空間に入り込んだ時ほどではなかった。ニームはパスィヤンス病院の増築に次ぐ増築の過程を逐一見てきていた。ニームはこの病院の増築の癖をなんとなく直観できていたのだった。
ニームは目当ての扉の前に着いた。部屋の位置は変わっているのにもかかわらず、扉の色や模様はなにひとつかつてのものと変わりなかった。ニームはそれがノックの代わりになるくらいに大きな呼吸音を立てて息を弾ませながら、扉をノックした。
「入りなさい」ダンケルクの重々しい声が扉越しにニームに届いた。
「失礼します」ニームは扉を慎重に開くと、かつて幼少期によく見た、見覚えのある部屋へと入った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる