うさぎ穴の姫

もも

文字の大きさ
上 下
5 / 101

ダンケルク、自己を語る

しおりを挟む
「この病院がもともとちいさな町医者だったことは知っているね」
「さきほど聞きました」
「小屋のような診療所でどんな病気やケガでも私ひとりで見た。私は内科が専門だが、そんなことは言っていられなかった」
「おばあさんの足も治してあげたんですよね」
「おばあさん?ああ、ルーベのことか。整形外科は一番苦手なんだ」ダンケルクはまずかった料理と味を思い出したときのように顔をしかめた。
「おばあさんは院長にとても感謝しているようでした」
「感謝か」
「院長の人柄をとても褒めていました」
 院長はそれを聞いて、ふっと鼻で笑った。「まあ、ルーベとは長い付き合いだ。ルーベがわれわれの評判を町民に宣伝してくれたから、今があるとも言える。最期まで私たちで面倒を見させてもらうつもりだよ」
 ダンケルクはそう言うと、オルレアンに対して、気さくな笑顔に切り替えた。「いや、つい話がそれてしまったな」
「すみません、ぼくのせいで」
「いや、君は何を言ってもいいんだ。君はそのために来たのだから。それで、建物の話だったね」
「はい」
 ダンケルクはテーブルの紅茶に口をつけた。「そう、私は整形外科が苦手だった。苦手だったがやるしかなかった。それが今となっては、各科の専門医をそろえる総合病院になった。ブラーヴにはもともと病院がたくさんあった。しかしそれら専門の病院であって、総合病院ではなかった。私は町民たちに、パスィヤンス病院に行けばとにかく大丈夫だと思ってもらえる病院をつくりたかった。そんな夢を持つ私がゆめゆめ患者に他院を勧めるわけにはいかない。そりゃあもう勉強したさ。あらゆる薬学、医学を。患者を受け入れたところで、見るだけではしかたない。診なければならいな。私はどの分野でも、ブラーヴにある各専門病院よりも正確な診断と治療を施さなければいけないと考えていた。私はそれを成し遂げたのだ」
 オルレアンはダンケルクの言葉を真実、尊敬の眼差しで聞いていたが、ダンケルクは「傲慢と思うかね」とオルレアンに聞いた。
「いえ。素晴らしいことと思います」
「だから私はこの建物を高く高く築きあげていったのだ」
 オルレアンにはそのダンケルクの言葉がどうして「だから」につながったのか理解できなかった。「患者の数が増えたから病院を大きくしたということですか?」
「ちがうな。オルレアン君もここまで来る道のりで気づいていると思うが、実際に病院として使われているのは3階までだ。それより上は本来不要なものだ」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

処理中です...