うさぎ穴の姫

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ダンケルク、自己を語る

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「この病院がもともとちいさな町医者だったことは知っているね」
「さきほど聞きました」
「小屋のような診療所でどんな病気やケガでも私ひとりで見た。私は内科が専門だが、そんなことは言っていられなかった」
「おばあさんの足も治してあげたんですよね」
「おばあさん?ああ、ルーベのことか。整形外科は一番苦手なんだ」ダンケルクはまずかった料理と味を思い出したときのように顔をしかめた。
「おばあさんは院長にとても感謝しているようでした」
「感謝か」
「院長の人柄をとても褒めていました」
 院長はそれを聞いて、ふっと鼻で笑った。「まあ、ルーベとは長い付き合いだ。ルーベがわれわれの評判を町民に宣伝してくれたから、今があるとも言える。最期まで私たちで面倒を見させてもらうつもりだよ」
 ダンケルクはそう言うと、オルレアンに対して、気さくな笑顔に切り替えた。「いや、つい話がそれてしまったな」
「すみません、ぼくのせいで」
「いや、君は何を言ってもいいんだ。君はそのために来たのだから。それで、建物の話だったね」
「はい」
 ダンケルクはテーブルの紅茶に口をつけた。「そう、私は整形外科が苦手だった。苦手だったがやるしかなかった。それが今となっては、各科の専門医をそろえる総合病院になった。ブラーヴにはもともと病院がたくさんあった。しかしそれら専門の病院であって、総合病院ではなかった。私は町民たちに、パスィヤンス病院に行けばとにかく大丈夫だと思ってもらえる病院をつくりたかった。そんな夢を持つ私がゆめゆめ患者に他院を勧めるわけにはいかない。そりゃあもう勉強したさ。あらゆる薬学、医学を。患者を受け入れたところで、見るだけではしかたない。診なければならいな。私はどの分野でも、ブラーヴにある各専門病院よりも正確な診断と治療を施さなければいけないと考えていた。私はそれを成し遂げたのだ」
 オルレアンはダンケルクの言葉を真実、尊敬の眼差しで聞いていたが、ダンケルクは「傲慢と思うかね」とオルレアンに聞いた。
「いえ。素晴らしいことと思います」
「だから私はこの建物を高く高く築きあげていったのだ」
 オルレアンにはそのダンケルクの言葉がどうして「だから」につながったのか理解できなかった。「患者の数が増えたから病院を大きくしたということですか?」
「ちがうな。オルレアン君もここまで来る道のりで気づいていると思うが、実際に病院として使われているのは3階までだ。それより上は本来不要なものだ」




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