うさぎ穴の姫

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オルレアン、院長と対面する

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 オルレアンはアンティーブ夫人に誘われるままに部屋の外に出ると、オルレアンとともに部屋を出た老婆はもと来た道へ身体を向けた。
「私は帰るよ。もう日も沈むし、私の役目は終わったからね。それに、この先は私のような足の悪い人間が取り残されたら二度と帰れなくなるような迷宮だからね」老婆は常に正しい判断しかしない老賢者のような自信に満ちた声でカッカと笑って、そのまま消えた。
「大げさに言ってるだけよ」アンティーブ夫人は幼児に向ける言葉のように、慰めるような口調でオルレアンにそう言った。
「ぼくは怖くないですよ」オルレアンは言った。
「まあ、頼もしいわ」アンティーブ夫人はオルレアンをまるで息子のように扱い始めているようだった。
 オルレアンとアンティーブ夫人は階段で上へとあがっていった。1階は診察、2階と3階に主には入院患者の病室があった。そこまでは普通の病院と変わりないようだった。それより上にあがると、老婆の表現したとおり、迷路のようであった。階段は常に次のフロアで切れており、次のフロアに上がるためには別の場所にある階段を探さねばならなかったが、そこにいたる道は人がやっと2人並んで歩けるくらいに狭く、一度案内されただけではとても覚え切れない複雑なもので、帰り道もアンティーブ夫人の案内がなければ、家に帰ることは無理だろうと思われた。
 オルレアンが階段をいくつ上がって、そしていくつ降りたのかさっぱりわからなくなって、時間の感覚さえ失い始めたその時、アンティーブ夫人はようやく立ち止まった。オルレアンたちがいる通路の壁は白く、アンティーブ夫人が立ち止まったところには確かに扉があったのだが、その扉の把手が、すぐ手が届くところにあるのか、遥か彼方にあるのかわからなくなるほど、遠近感を戸惑わす、異質な空間だった。
「さあどうぞ」
 アンティーブ夫人はそう言って、扉を開いた。オルレアンは中に入って、すぐ正面に座っていた男に名乗った。
「オルレアンです」
「ダンケルクだ。待っていたよ」
 ダンケルクは書類に目を通していたようで、ダンケルクが座る椅子の前の机には紙が散らばっていたが、ダンケルクな椅子から立ち上がると、来客用の向かい合いのソファに身を移した。
「オルレアン君、かけなさい」
 オルレアンがソファに座るのと、アンティーブ夫人は紅茶の入ったカップをオルレアンとダンケルクの前に置いた。アンティーブ夫人はオルレアンに笑みを浮かべると、部屋から出ていった。
「あの」オルレアンはそう口を開いた。
「なにかね」ダンケルクはそう聞いた。
「ここからはどうやれば外に出られるでしょうか」
 ダンケルクはオルレアンの質問に笑って答えた。
「来たそばから、帰るつもりかね」
「本当は奥さまに聞きたかったんです。でもいま聞きそびれてしまって。だから忘れないうちに聞いておきたかったんです」
「安心したまえ。家内を呼ぶよ」
「そうですか」
 オルレアンは人に頼らずに外に出る方法を知っておきたかったのだが、これ以上は食い下がらないことにした。
「地震や火事があったら大変そうですね」
「君はそんなことを聞きに来たのかね」ダンケルクはしびれを切らしたようだった。
「でも、なんでこんないびつな建て方をしたのでしょうか」
 ダンケルクはオルレアンのその質問に喜んだようだった。ダンケルクは意気揚々と話し出した。
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