月と星と雪と

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 こうして二人で両手を握り合うことは、幼少期に私たちが突然に出会わされてから、二人の間に流れるどうにも収拾のつかない奇妙なわだかまりを、小さい子どもながらにその折り合いをつけるため創り上げた儀式のようなものであった。私と月子は血が繋がっていないから、二人が違うということに敏感だった。正確に言えば、二人の違いに優劣や善悪をつけられることに敏感だった。私たちは不都合がない限りは純粋な姉妹として紹介された。私たちの保護者たる親たちも、買い物中や電車の中で私たち姉妹の可愛らしさをいちいち褒めてくれるご老人たちに、実は血のつながりはないんですなんて説明するのは面倒だっただろうし、だいたいそれをする義理もないし、相手だってそんなことを言われても気まずくなって仕方がないだろう。私たちはそっくりな姉妹ではもちろんなかったし、似てもなかったけれど、双子でもあるまいし、そっくりでないと姉妹として許されないなんてことはないから、姉妹であることを疑われることはなかった。だいたい共通の保護者らしき人物と道で歩いている女の子ふたりを「あの子たち、本当は血はつながってないんじゃない」と怪しんでかかる人など神経がどうかしているに違いない。私の、私と未星の関係性についての説明下手は幼少期にこの経験に由来する。「可愛いわねえ」と褒めてくれるたびに、「いや違うんです」と釈明するなんて馬鹿らしくてしょうがない。
 しかし、保護者たちのこの説明の労を惜しむ省エネ主義は、幼かった私と未星に時々しわ寄せがきた。私たちの関係性に、大型船をも転覆させる破壊的な大時化の到来は一度としてなかったけれど、私たちがふたり同時に人前に提示されるのがどのような状況であるかにかかわらず、私たちのこころがぴったり凪いだままでいるためには相当な時を待たなければならなかった。私たちふたりは、私たちを飲み込むほどではないけれど、口元まで迫り上がってきて呼吸に必死になるような、ぷかぷかした波の中でずっと浮いているようなものだった。私たちはその波に離れ離れにならないようにずっと手をつないでいたけれど、蓄積された疲れが時々ふたりの手をふたつに裂こうとした。そしてその予感はたいてい、未星が私の手を振り切っていくことを選ぶ恐ろしさとして、私に押し寄せてきた。未星は一緒に生きようとして海面まで引き上げる私の手から逃れて、海の底に沈んで、海の藻屑となることを望む危機の時期があったように私には思われた。
 
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