3 / 6
3
しおりを挟む
ちなみにそう言う私の見た目は多分まあまあである。特筆するほどの美しさも可憐さもなければそんなにまずくもない。クラスの真ん中で輝くには十分である。むしろ外見に劣等感を抱きがちな私たち年頃において、自分をまあまあと言えるなら私はむしろちょっと良いくらいなのかもしれない。でも自分でそう言うのはさすがに気後れするから、まあまあとしておくのが無難である。
私は花屋に並ぶ無数の花たちの中から誰かに選ばれるだけの多少人工的な強さを有した、人の関心を引く雰囲気をしっかり持つように育ってきた。私は日陰に隠れなければ、太陽の力を借りてしっかり輝くことができた。その雰囲気は今はどれかの花で例えるようなほどのものではないかもしれないけれど、人の手に守られた植物園の中にしっかり陣取っていれば、いずれ誰かが名前をつけてくれるだろう。
私はそうして常識の程度に則って、自分に磨きをかけることを怠らない抜け目ない女であったが、しかし未星の美しさはその延長のどこにもないように思われた。教室の中にたたずむ未星は、ガラスケースで保護されているようであり、ファンタジーのようであり、イデアであった。もう少し現実に即して言えば、それは遺伝の違いであると思われた。未星と私は父も母も共有していない。だから育っていくための始まりに当たる、根っこがそもそも違うのである。でもその違いがなんなのだろうか。朝顔は頑張って蔓を伸ばしてもひまわりにはなれない。でも私は朝顔が好きである。これはそういう類の話なのである。
「未星、お待たせ」
三階の教室の窓から外を見渡している未星に私は後ろから声をかけた。夏休み前にようやく梅雨明けが宣言された夏空は、放課後の時間になった時にもまだ青々としていたが、未星が見つめる視線のずっと先ではすでに夕焼けの始まりを見せているようにも私には見えた。
「遅かったのね。待ちくたびれちゃった」
振り向いて視線を私に移した未星は眩しそうにかすんだ目で私を見つめた。明るい日差しを長い時間見続けていた未星は、省エネという名目で蛍光灯の明かりを消された教室の暗さに目が慣れていないようだった。普段はほとんど見ることのないキツめの目をした未星を見て、私は未星に憎しみをぶつけられているようにも、一方で自分からまるで後光が差しているような気にもなったが、しかし実際に明るいのは私ではなく外の景色の方なのだから、人間の体は実に不思議であるとそんなことをいい加減に考えた。
私は花屋に並ぶ無数の花たちの中から誰かに選ばれるだけの多少人工的な強さを有した、人の関心を引く雰囲気をしっかり持つように育ってきた。私は日陰に隠れなければ、太陽の力を借りてしっかり輝くことができた。その雰囲気は今はどれかの花で例えるようなほどのものではないかもしれないけれど、人の手に守られた植物園の中にしっかり陣取っていれば、いずれ誰かが名前をつけてくれるだろう。
私はそうして常識の程度に則って、自分に磨きをかけることを怠らない抜け目ない女であったが、しかし未星の美しさはその延長のどこにもないように思われた。教室の中にたたずむ未星は、ガラスケースで保護されているようであり、ファンタジーのようであり、イデアであった。もう少し現実に即して言えば、それは遺伝の違いであると思われた。未星と私は父も母も共有していない。だから育っていくための始まりに当たる、根っこがそもそも違うのである。でもその違いがなんなのだろうか。朝顔は頑張って蔓を伸ばしてもひまわりにはなれない。でも私は朝顔が好きである。これはそういう類の話なのである。
「未星、お待たせ」
三階の教室の窓から外を見渡している未星に私は後ろから声をかけた。夏休み前にようやく梅雨明けが宣言された夏空は、放課後の時間になった時にもまだ青々としていたが、未星が見つめる視線のずっと先ではすでに夕焼けの始まりを見せているようにも私には見えた。
「遅かったのね。待ちくたびれちゃった」
振り向いて視線を私に移した未星は眩しそうにかすんだ目で私を見つめた。明るい日差しを長い時間見続けていた未星は、省エネという名目で蛍光灯の明かりを消された教室の暗さに目が慣れていないようだった。普段はほとんど見ることのないキツめの目をした未星を見て、私は未星に憎しみをぶつけられているようにも、一方で自分からまるで後光が差しているような気にもなったが、しかし実際に明るいのは私ではなく外の景色の方なのだから、人間の体は実に不思議であるとそんなことをいい加減に考えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ある平民生徒のお話
よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。
伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。
それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる