月と星と雪と

もも

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 ちなみにそう言う私の見た目は多分まあまあである。特筆するほどの美しさも可憐さもなければそんなにまずくもない。クラスの真ん中で輝くには十分である。むしろ外見に劣等感を抱きがちな私たち年頃において、自分をまあまあと言えるなら私はむしろちょっと良いくらいなのかもしれない。でも自分でそう言うのはさすがに気後れするから、まあまあとしておくのが無難である。
 私は花屋に並ぶ無数の花たちの中から誰かに選ばれるだけの多少人工的な強さを有した、人の関心を引く雰囲気をしっかり持つように育ってきた。私は日陰に隠れなければ、太陽の力を借りてしっかり輝くことができた。その雰囲気は今はどれかの花で例えるようなほどのものではないかもしれないけれど、人の手に守られた植物園の中にしっかり陣取っていれば、いずれ誰かが名前をつけてくれるだろう。
 私はそうして常識の程度に則って、自分に磨きをかけることを怠らない抜け目ない女であったが、しかし未星の美しさはその延長のどこにもないように思われた。教室の中にたたずむ未星は、ガラスケースで保護されているようであり、ファンタジーのようであり、イデアであった。もう少し現実に即して言えば、それは遺伝の違いであると思われた。未星と私は父も母も共有していない。だから育っていくための始まりに当たる、根っこがそもそも違うのである。でもその違いがなんなのだろうか。朝顔は頑張って蔓を伸ばしてもひまわりにはなれない。でも私は朝顔が好きである。これはそういう類の話なのである。
「未星、お待たせ」
 三階の教室の窓から外を見渡している未星に私は後ろから声をかけた。夏休み前にようやく梅雨明けが宣言された夏空は、放課後の時間になった時にもまだ青々としていたが、未星が見つめる視線のずっと先ではすでに夕焼けの始まりを見せているようにも私には見えた。
「遅かったのね。待ちくたびれちゃった」
 振り向いて視線を私に移した未星は眩しそうにかすんだ目で私を見つめた。明るい日差しを長い時間見続けていた未星は、省エネという名目で蛍光灯の明かりを消された教室の暗さに目が慣れていないようだった。普段はほとんど見ることのないキツめの目をした未星を見て、私は未星に憎しみをぶつけられているようにも、一方で自分からまるで後光が差しているような気にもなったが、しかし実際に明るいのは私ではなく外の景色の方なのだから、人間の体は実に不思議であるとそんなことをいい加減に考えた。
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