月と星と雪と

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　グリム童話の一編であるシンデレラの話を知らない者は、今となってはもうほとんどいないだろう。しかし一方で、メルヘンの代名詞と呼ぶべきこのお話が、民間説話にその原型があることを知っている人は、それほどいないと思われる。
　グリム童話とは、グリム兄弟が民間説話を集成したものであるという。何を隠そう、私もつい先日まで全く勘違いをしていた。グリム童話はグリムという人が頭の中で空想して考え出した短編のお話しを集めた類のものだと思っていた。
　民間説話とは、それこそ私の想像に及ばないような昔の人たちが、日本でなら囲炉裏を、西洋でなら多分暖炉を家族で囲みながら、例えばその家族の一番の年長者が口頭で家族の成員や集まった近所の人たちに話して聞かせて現代まで伝えられたものであるという。それに対して、それを口述の文化のまま安閑と放置していてはいずれ消滅してしまうものと予見して、文字として記録しておこうとした点にグリム兄弟の偉大さがあったわけだが、現代では、国内外を含めて、そうした熱心な人たちが残してくれた文献でさえ、人々の日の目に当たらない所に追いやられてしまっている。ましてや、口頭で昔話を伝える文化など、目も当てられないのか現状である。まあ、気まぐれで最近興味を持ち始めただけの私が偉そうに言えることではないんだけれど。しかしその中にあっても、シンデレラはまだまだ人間のこころの中でその生命を維持している物語の内のひとつと言えるんじゃないだろうか。
　中学生にもなった私がなぜ今さらシンデレラに興味を持ったのかは、つい謙遜で気まぐれと言ってしまったけれど、実はそこまで気まぐれとも言えない事情にある。高い目的意識があったわけではないが、ただ魔が刺しただけとも言えない。そんな感じの、ずっと気にはなっていたけれど、でもめんどくさいからいいやってずっと放置しておいたものを、宿題の息抜きにちょっと調べてみたって種類のものだ。試験勉強をしなければいけない時ほど、部屋の掃除が無性にはかどる例のあれと同種のものである。
　私には姉がひとりいる。姉と言っても、年齢はひとつも変わらない。半年ほど私の方が生まれが遅いだけだ。なぜなら私の姉は、正しくは義姉だからである。でもいちいち義姉と言うのも面倒だし、私としても義姉としてしまうと、せっかく長年の積み重ねで近づけたお互いの気持ちがスッと離れていってしまうように思うから、姉としておくほうがずっと都合がよかった。それなりの年月を一緒に過ごしてきた今となっては、そこまで過敏になることではなくなったのかもしれないけれど、いまさら義姉に戻す方が明らかに不自然だから、私にとっては姉なのである。