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るみのげーむじっきょうー!

ごしちょーありがとーございまーす チャンネル登録してねー

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 結局ルミが仕事先に顔を見せたのは、俺が到着してから1時間後の事だった。
 先輩たちは俺に引き継ぎを済ませ足早に帰って行きやがった。
 つまり俺はバイト2日目にして、1時間とはいえ一人で仕事を任されていたのである。
 どんな職場だよ!? ブラックかよ!?

 到着したルミに聞けば、先ほどの試合が負けたもんで、悔しくてもう一戦やってきたとの事だった。
 意味が解らない。
 大丈夫、ちゃんと勝ったから! との事だった。
 意味が解らない。

「おまえ、本当に首になるぞ……?」

「でも結局お客さん来なかったんでしょー? 人件費削減だよー」

 そう、それだけが唯一の救いであった。
 喜んでいいのかわからないけれど。

「それにしても、ちょっとしか見てないけどあんなゲームが人気なのか? 見ててなにしてるのかさっぱりわからなかったぜ」

「あのジャンルはちょっとわかりずらいかもねー。でも世界でもかなり有名なんだよー。世界中にプロがいるんだー」

「ふーん。でも今度は、ちゃんと遅刻しない範囲に納めとけよ」

「へへ。了解しましたー」

「そういえばルミ、俺の友達がルミに会いたがってるんだけど、会ってみないか?」

「幸ちゃんの友達? なんで?」

 勿論師匠の事である。
 いずくの事では決してない。

「その娘もYouTubeやってるんだけどさ、ルミの登録者が10万人って聞いて一緒にコラボしたいって言うんだよ」

「ああ、そういう事? 構わないけどうち顔出しとかしないよ?」

「ああ、構わないさ。今度その娘と鍋でもしながら動画撮ろうってなったんだけど、そん時にでも来てくれよ」

「鍋!? うちキムチ鍋が食べたい! その娘もお酒飲める口!? 幸ちゃんの彼女!? 楽しみだなー!!」

 ルミも俺も一人暮らしだからこそ鍋に惹かれるんだろう。
 やっぱり一人で食べる鍋は味気ない。複数人で囲めれば最高である。
 楽しみなのは俺も同じだった。
 いずくは誘うつもりは無い。

「残念ながら彼女じゃないし、酒も飲めねーよ。俺が付き合ってやるから飲まそうとなんかすんなよ?」

「なんだしょうがないなあ。まあ幸ちゃんが付き合ってくれんならいいか。飲み明かそうぞ!!」

 しっかし暇な仕事だな。
 ここに来てからやった事と言えばレジに立ってルミと話していたくらいである。
 これで昼飯時に汗水垂らして働く同僚たちより時給が高いってんだからなんだか申し訳なくなってくるぜ。お前ら、コンビニで働くなら夜勤に限るぞ!!

 そんな事を考えていたら入口の自動ドアが開いた。
 俺はあまりにも客が来なかったもんだから新聞屋のお兄ちゃんかと思ったが、それは違った。
 慌てて挨拶をする。

「い、いらっしゃいませ!!」
「しゃせー」

 皆さんは深夜にコンビニ行ったとき、俺のような張り切っちゃった挨拶と、ルミのようなやる気のない挨拶どちらの方が好きだろうか? 俺は断言できるがルミのようなやる気のない店員の方が安心する。気が楽だし、いかにも深夜っぽい接客だからだ。
 記念すべき俺の初接客は50代と見られるおっさんだった。
 自動ドアをくぐるなりずかずかとレジに歩いてくる。タバコかな?

「ルミッ!! ここにいたのか!? 母さんも心配してるんだぞ!?」

「おっお父さん!?」

 え?
 お父さん?
 ルミの?

「電話番号も教えないでなにやってんだ! 家を出て行ったと思ったらこんなところでバイトか!?」

「お、お父さんには関係ないでしょ!!」

「もういい年なんだからちゃんとしたところに就職しなさい!! ほら、帰るぞ!!」

 そのおっさんはルミの手を掴んだ。

「ちょっと! なにすんのよ!! 離してよ!!」

 ルミが嫌がっている。
 助けなくては。
 そう思うより先に俺の手は男の手を掴んでいた。

「お客さん。警察呼びますよ」

「何だ貴様っ! 離せっ!」

 男は残る手で俺の頭を殴ってきた。
 頭から血が流れる。
 だが、俺からしたら大したことない。むしろこんなのぬるいぜ!
 昨日師匠に顔面を思いっきり殴られた事に比べたらな!!

「幸ちゃん!! 大丈夫!?」

「さっちゃんんん? お前の男か? ルミッ!!」

「最低だよっ!! あんたなんかもう知らないっ!! 帰ってよ!!」

 俺は手を離さなかった。
 すると、流れる俺の血を見て気が引けたのか男がバツの悪そうな顔を見せる。
 それを確認し手を離すと、男はコンビニから出て行った。

「幸ちゃん大丈夫!? ごめんね! ごめんねぇええ!!」

「なんでルミが謝るんだよ。さっきの父親なのか?」

「そう。そうだよ……。前にも言ったけどうちね。ゲーマーになるの反対されて家出ちゃったんだ。きっとずっと探してたんだと思う……。でも、最低だよ……。あんな人、お父さんじゃないよ……」

「そっか。わかった。ルミ、後は頼む」

 俺はそう言い残すとルミを置いてコンビニから飛び出した。
 周りを見渡す。
 先ほどの男の姿は見えない。
 俺は駆けまわって男を探した。
 男を見つけたのは近くの荒川公園だった。
 ブランコに揺られていた男に近寄る。

「寒いっすね」

 俺が声をかけると気が付いた男は頭を掻いた。

「あんたさっきの! ……どうも、すいませんでした……。つい頭に血が昇って……」

「ルミさんから聞きましたよ。ずっと探してたんですってね。無理ないですよ……」

「お恥ずかしい話です……。ルミには立派な人間になってもらいたかったのに……。どうかルミをよろしくお願いします……」

 去ろうとし、立ち上がった男を俺は引き留めた。

「待ってください。勘違いしてるみたいですけど、別に俺はルミさんと付き合ってるとかじゃないんで安心してください」

「そ、そうでしたか……。それは……失礼しました……」

「謝らなくていいです。その代わりにちょっと見てもらいたいものがあるんですけど」

 不思議そうな顔をするその男に、俺はスマホを取り出し、るみのげーむじっきょうーを開いて見せた。

「この声……、まさか、ルミの!?」

「そうですよ。いやあ、俺もやってんすけどね。全然チャンネル登録者が増えないんすよ。でもルミさんのチャンネルには10万人の登録者がいるんです」

「じ……10万人も!?」

「そうですよ。10万人もの人がルミさんの動画を楽しみにして、10万人もの人がルミさんの事を知っていて、10万人もの人がルミさんの情熱に胸を打たれてるんですよ。俺もその一人です。誰にでもできる事じゃない。……ルミさんは立派な人間ですよ」

 嬉しかったのか、己の行動が間違いだったと気付いたのか、男の瞳からは静かに涙がこぼれてきた。
 俺は出来れば、それが前者であってほしいと思いながら、何も言わずに公園を後にした。





「ちょっと、幸ちゃんどこ行ってたの!?」

「ああ、悪かったなルミ。家帰って絆創膏取ってきてたんだよ」

「絆創膏してないじゃん!!」

「丁度切らしちゃっててさ、てかよく考えたらロー〇ンに絆創膏売ってたよな。ハハ……」

 俺は一箱の絆創膏をレジに通し、それを開けるとルミに貼ってもらった。

「ごめんね幸ちゃん……」

「おいおい気にすんなよ。コメディ補正で次の回にはすでに治ってるんだからよ」

「そういうメタ発言控えた方がいいと思うよ……」

 日が昇り、バイトが終わって早朝組に引き継ぐ時間まで、俺がどんだけ華麗にボケを送ってもルミのテンションが上がる事はなかった。
 仕事を終えた俺とルミは外に出る。冷たい北風に身を震わせた。

「じゃあ、帰ろっか。幸ちゃん」

「あ、ちょっと待ってくれ」

 俺はそう言ってコンビニに戻る。
 昨日にも引けを取らないビールとつまみを抱えて出てきた俺を、ルミは目を丸くして見ていた。

「何その量!? これから飲むの!?」

「何言ってんだよ! 半分はお前の分だ。お前んちで飲むに決まってんだろ?」

「ごめん幸ちゃん。うち、そんな気分じゃ……」

「いいのか? 俺は知ってんだぜ!? ルミの部屋の押入れに大量のエロゲーが積まれている事をな!!」

「な、なんで知ってんのおおおおおおおおお!!???」

 昨日俺が布団を敷いてやったと言うのに、どうやらルミはまったく覚えてないらしい。
 こんなこともあろうかと、今まで黙っておいてよかったぜ。
 断れないだろう!? ゲーム風に言うなら、強制イベント、宅飲みだ!!

「わかったよ、付き合う付き合う。絶対誰にも言っちゃ駄目だよー?」

 福島ハイツに戻った俺とルミは部屋へと上がり込んだ。
 パソコンのモニターが点きっぱなしになっている。

「ああ、昨日急いで家出たからねー。配信しっぱなしだった!」

 画面を消そうとするルミは体を固まらせる。
 何を見たのか気になった俺はルミの背中越しにモニターを覗き込んだ。


――――――――――――――――――――――――――
乙―
GG
また明日ー
配信乙―
( ・´ω`・p[お疲れ様ァ
るみ、ごめんなさい。次の配信を楽しみにしています。
――――――――――――――――――――――――――



「幸ちゃん……」

「どうした? ルミ?」

「の……、のむぞおおおおお!!!!」

「おお!! そうこなくっちゃなあああ!!」

 また一人、ルミの配信に胸を打たれた人がチャンネル登録していた。
 昨日バイトして、ルミと飲んで、いずくと撮影行って、師匠に会って、いずくの家を訪れて、ほんの少しの仮眠の後、またバイトして、これからいずくと撮影に行き、更には師匠に会わなければならない俺は、すでに睡眠不足でフラフラだったが、全部の缶を開けるまで、ルミに付き合うと心に決めていた。
 当然である。
 それが俺がルミのファンとしてできる唯一の事だったんだから。
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