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五本目 無知の未知

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「……う?」

 少し硬い目のモノの上で目が覚める。マットだろうか? やけに埃っぽい様な。

「――どこ。ここ?」

 気怠い自身の声を耳に、ボヤけた薄暗い視界を、目を凝らして精査する。壁は灰色コンクリートであり、掃除用具や古びたパネルみたいな物が乱雑に立てかけられており、窓は一つもなかった。
 六畳一間くらいの大きさのであると気付いた頃、少しずつ上半身からだを起こせた。

「えと、商談室にいて、それから――」

「やっと起きたかぁ。水羽ぇ」

「取引先の倉庫で、随分と呑気のんきなモノですねぇ」

 野太い声とかすれた声に意識が揺すられる。板橋係長と、霜毛さん? の声、だよね?
 
「(なんで電気も点けないでこんな)――へっ?」

 やがて薄暗さに馴れてきて、目が馴れると同時に、大きな瞳を何度もまばたかせる。なぜならまず、身に着けている物が、という事に、気付いてしまったためだ。

「ちょ、何これ?」

 見上げると、なぜかシャツとパンツ一枚で――こ、股間を盛り上がらせている係長と霜毛さんが、ニヤつきながら、こっちを見下していた。

「こっちのセリフだぜぇ、水羽ちゃんよぉ。――ねぇ、霜毛さん?」

「全くですよ。大きな胸に腰の括れ、細い腕に脚……係長さん。人事課に問い合わせて、水羽クンの履歴書を見せてもらってください。きっと、性別の虚偽で訴える事ができますよ?」

 ま、まだそんな話を。

「ハハッ。――しかし御社も、担当者による性別の詐称さしょうという被害にっておられるのだから、同様に責任を取らせますね。

「だ、だからぼくは男で――てか、係長はぼくの上司なのに、どうしてこんなワケの分からないことをっ」

「バーカ。上司である前に男なんだよ」

 顔を斜めにしつつ、係長がヤンキー座りをして、目線を合わせてくる。

「係長。ほんと、オカシイですよ」

「オカシイのはお前だ――ってことをわからせてやる。なぁ、水羽。お前、男なんだよな?」

 眉に力を込めて、睨み返す。

「もぅ、本当にいい加減にしてください。その話題!」

 自分でも久々に本気で怒っているというのに、全く気にしないどころか、口元を歪める。

「……じゃあよぉ、お前が男であることを証明してくれよ」

 霜毛さんも屈み、まるで圧をかける様に語りかけてくる。

「この場を納めるのは、それ以外にありませんね。――もし、君が男性と証明出来たら、先程の非礼のお詫びとして、新商品もドカッと卸してもらいます」

「俺だって、何でも言うこと聞いてやるよ」

 混乱するぼくはお尻を擦りつつ、後退し、腕で出来るだけ身体を隠す。

「(全く意味がわからないけど)わ、わかりました。男って証明できたら、すぐに離してくださいよ?」

「おう。離すどころか、お前の気が済むまで付き合うさ……その代わり、もし女だったらどうすんだ?」

 二人の涎を垂らしそうな表情は、まるでそう決めつけているみたいであった。

「か、係長と霜毛さんの言う事を、聞きます」

 顔を見合わせる二人は、頷きながら破顔する。

「で、では水羽クン。どうやって性別を証明するのですか?」

 ――そ、そんな、決まっている。分かっているのにわざと聞いているんだ。

「わ、わかりましたよ。と、トランクスを抜げばいいんでしょう?」

 立ち上がろうとする瞬間、ふと心配になった。実はホモとかバイとかで、どっちにしろ襲ってくるという展開を。二人の尋常じゃない興奮状態は、そこまで懸念させてしまうほどだった。

「心配すんなよ水羽ぇ。オレ達ゃ異性愛者だからよ。へっへっへ」

 うっ、読まれている。嫌々ながら中腰になり、トランクスの端に指を掛ける。
 いくらでも、風呂場でもトイレでも無いのに男性器チンコを見られるのは、やはりためらわれる。

「(けど、これで頭がオカシくなった二人から解放されるなら)――あっ。お、大きさは関係ないですよ?」

「ご心配なく。別にミニウィンナーでも構いませんよ。あるのなら、ね」

 仕方なく、スルリ、と汗をいくらか含んだトランクスを下ろす。
 用意の良い二人は、携帯のライトをオンにして、ぼくの股間を照らしてくる。うぅ、恥ずかしい。

「……おい水羽。どこに生えてんだぁ?」

「だ、だからここに……えっ?」

 ドクン。
 埃が反射する光の筋の先、薄い陰毛が細々と生えている股間が照らされるだけであった。
 一本の小さな亀裂すじが股にかけて走っている他に、目立つ物は無かった。ましてやなんてどこにも――。
 ドックン。

「なん、で? ど、どこ――?」

 柔らかい身体的特性を活かして、前屈するみたくして股間の眼前に顔を持ってくる。髪が逆さになる中、ややもすればその態勢は、まるで彼らへ謝罪するみたく、頭を深々と下げている様にも見えた。

「ふむ。私達も手伝ってあげましょうか」

 やめて――っという前に、男二人の震える指先が視界の端から生え出て、。くすぐったさと気色悪さ、さらに本能的な恐ろしさに背筋が氷そうだった。
 けど、茫然自失ぼうぜんじしつぼくは、ただ陰毛が引っ張り回されるのを、黙って見ていただけであった。

「おい。だからどこにあんだ? お前の男性器エノキは?」

 ドン。
 軽く突かれたかと思うと、お尻がマットの上に落ちた。

「係長さん。もっと入念に調べようではありませんか。彼の名誉回復のために」

「おほっ、いいですねぇ」

 未だ事態を受け入れられていないぼくの後ろに、気がつけば係長が座っていた。背後からその両手を、ぼくの柔らかい太腿に食い込ませたかと思うと、

「ご開帳~!」

「ひっ!」

 グニン、足がほぼ百八十度開脚する。

「すげぇ、身体柔らけぇ。霜毛さん、見つかりそうっすかぁ?」

 股間の根元には――額に玉の汗を浮かべている霜毛さんの吐息が、股間にある小陰唇ビラビラに当たる。

「えぇ、ええ。ひょっとしたら、ここの肉の穴に入っているのかも?」

 彼は痩せた指先で、肛門ではない穴へ触れようとする。
 ドックン!
 なん、で、女のコ専用の、穴が、ボクにあるの? イソギンチャクの風呂に入り続けて、女になってしまったの? 確かに体調に変化はあったけど、どうして、ナンデ?

「や、めて――ングッ!」

 口に三本ほど、毛の生えた太い指が突っ込まれる。

「おいおい水羽。今の所、チンコはどこにも見当たんねーぞぉ。つまりお前は、それぞれの会社に損害賠償をしないといけねぇ流れだなぁ」

 目の鼻の先にある係長の口が、糸を引きつつ開く。

「指を抜くけど、叫ぶなよ?」

 ジュポ――イソギンチャクの触手とは異なり、硬くてマズい、そんなどうでもいい事を思ってしまった。

「うっ、あ、アァ」

 未だに女になった事実に打ちのめされるぼくは、二人の男性に襲われている事実も重なって、とうとう涙を流しながら、肩を振るわせる。

「ど、どうしたらいいんですか?」

 ズタズタな自尊心プライドの欠片を、泣き集めるも、手のひらの中で粉々になっていくかの様に。
 ジュル。

「! 痛ぁい」

「馬鹿、声がでけぇっ。――ちょっと霜毛さん。強く舐め過ぎっすよ」

 股間の彼は、舌先で小陰唇を、グニュ、グニュっと曲げ舐めていた。その絵的な気持ち悪さとそれ以上に不快な感触に、腰が震える。

「ジュルル。ひっひっひ、すみませんねぇ。こんな若くて可愛い女子と性行為なんて、記憶に無いので」

 恐怖と混乱で震えるぼく手拭いサラシは、係長の手によって簡単にほどかれた。狭かったと言わんばかりに、ぷるん、と二つの――乳房おっぱいが勢いよく揺れ出る。

「水羽ぇ。お前、元から女だったのか? もしくは女になったのか?」

 そう尋ねつつ、脚から手を離して、下から持ち上げるみたく乳房を揉み上げられる。係長の手にちょうど収まるくらいの大きさで、人差し指で乳首をピンと、弾かれる。

「痛っ――ひゃ!」

 レロジュル、ズルルロレ。
 霜毛さんが犬みたく膣を舐めていた。涎まみれの股間からほとばしる冷たい電流は、控えめに言っても、吐きそうなくらいに気持ち悪かった。

「まぁもう、昨日までのお前が、男だったとか女だったとか、どうでもいいか」

 そう言うと、分厚い唇が近づいてくる。――う、嘘でしょ!
 ジュパ。

「! ンンン~ッ」

 し、信じられない。き、キスされた。いや、キスなんて可愛いものじゃない。
 係長の唇と触れたかと思うと同時に、思いっきり舌を口の中へ差し込んできた。口内をまさぐるみたいな舌に、まるで脳を内側から舐められているみたいな病的な感覚を覚えて、卒倒しそうになる。

「ジュポッ――こんな状態で乳が腫れてたとか。本気で言ってたら頭おかしいぞお前(笑)」

 モニュ、ムニュ。
 胸は好き勝手に揉みし抱かれた。太い人差し指が、乳首を乳房の中へと押し込んでくる。時間と共に乳首が戻ると、また押し戻されるという、およそ理解できない行為をされ続けた。

「へっ、へっ、ジュロロ」

 股間には、小陰唇を吸って口に含んだ後、唾液まみれにして吐き出すという、世にもおぞましい行為を、興奮の絶頂で行っている霜毛へんたいがいた。
 さらに小陰唇ビラビラの割れ目部分を舌先で舐め開き、ヒダの部分を片側ずつ吸っては、舌で押し出していた。唾液まみれとなってしまってなお、気持ちよさなんて全くなく、不快感だけが股間から全身へ沁み拡がった。

「ジュパッ――霜毛さん。舌で処女膜はブチ破らないでくださいよ」

「レロジュルル。ぷはぁ、えぇえぇ、心得ています。……しかしあまり濡れませんねぇ」

 大きな舌が、力任せに陰核クリトリスらしい部分を突っついた。イソギンチャクの優しい感触に馴れていたボクには、強すぎるため、痛くて仕方が無かった。

「男女だから、感度が悪いのかもっすね」

 下手なだけ、っと言おうとしたが、逆上されたらと、唇を噛みしめた。
 十分ほど、口と胸と股間を犯された頃、頭の中とお腹の下が、恐怖と嫌悪感によってか、ジンジンしてきた。しゃっくりながらに思わず、

「――か、係長。霜毛、さん。も、許して、くらはい」

 性転換の傷口を、さらに傷つけるみたいな、あるいは不潔化させるような、生理的恐怖と本能的脅威に、もはやPTSD(※心的外傷後ストレス障害)寸前と言えた。
 だが、この二人は、そんな泣き弱るぼくの姿見にすら、興奮する変態っぷりであった。

「ひっひっひ。可愛くて若い女が、涙ながらになぶられる。たまらん、タマラン」

「ほんっと。な~んで美人が甚振いたぶられていると、男って興奮しちまうんだろぉ? くっくっく」

 二人の唾液で汚され続け、ついに涙ながらに嘆願する。

「ごめ、んなさい。お、女でしたから、たす、たすけてぇ」

「あぁん? 女だったら言うこと聞くって言ったのお前――んっ?」

 一瞬、二人の動きが止まる。
 扉の向こうで、台車? を動かすみたいな音が聞こえる。

「霜毛さん。場所を変えましょうか?」

「そう、ですね。会社は早退するとして、どこか良い場所は?」

 嫌な汗に、雄達の唾液と垢、そして埃によって汚れた身体が、ヒドく不快だった。
 パンパンな頭の中――ある場所が思い浮かんだ。こんな地獄とは真逆の場所だった。
 あそこでなら、本望かな? そう思いつき、後悔しないようにと口を開く。

「……ハァ、ハァ。ぁ、の」

 砕けそうな腰に活を入れて、股をググッと開く。

「あっ?」

「何を?」

 大半が唾液で、僅かな愛液が垂れ出る膣口を差し出す。野獣の息吹を取り戻す二人へ、輝きを失った瞳でもって、最後の哀願をした。

「写真、撮っていいですし、本当に何でも言うことを聞きます。その代わり、続きを、どうか、ぼくの家でお願い、します――」
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