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三本目 お泊まり

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「おい水羽。ちょっといいか?」

 会社の営業部の部屋にて、直上の板橋いたはし係長の野太い声に呼び止められる。
 終業間際ということを差し引いても、元気よく愛想よく返答する。

「あ、はぁい。何でしょうか?」

 ……イソギンチャク風呂に入る様になって、二週間が経っていたが、本当に良いことずくめの日々を過ごしていた。
 まず、酒やらパチンコなんて浪費がほぼ無くなり、真っ直ぐ家に帰るようになった。さらに、風呂では未だかつて無いほどに疲れが溶け抜け、翌日に疲れを持ち越すことと言ったことが激減した。
 そして、トイレは風呂で事足り、食事もイソギンチャクの触手から得られる液体でまかなうため、食費も大幅に削減できた。最近は飲水すらも浴槽から給水している。
 そ、それに――何と言っても浴槽内での自慰オナニーが死ぬほど気持ち良かった。昨日は触手を肉棒ペニスに絡めて射精すと、痒みが溌剌はつらつと解消されるという、あり得ない快楽体験までしてしまった。さらにさらに……。

「なぁ、水羽。お前、最近ちょっと雰囲気が違くないか?」

 デスクの傍で、眉間に皺を刻む係長は、四十くらいの家庭持ち男性であった。元々は総務にいたそうだが、割と怒りやすく、部署替えされたとか何とか。
 噂では、セクハラ関連のオイタが過ぎたとか。

「あっ、わかります? 男の癖にで恐縮ですが、何か肌の艶とかが良くって」

 それらは言うまでもなく、イソギンチャクのお風呂のおかげであった。また肌の質感とかの外見だけでなく、下痢や足の臭いなんかの問題も解消されて、もう薬湯とすら呼べるほどの効能だった。
 そんな物珍しいお風呂に入っているなんて知る由も無い係長は、ジロジロと、一重まぶたでもって、興味あり気に覗き込んでくる。

「いやまぁそれもだけどよぉ。何か髪が伸びて、しかも柔らかくなってないか? 髭とかは――まぁ剃ってるのか」

 髭? そう言えば、髭なんてここ五日くらい剃った記憶が無いけど、ツルッツルだな。

「何より、服の大きさ合ってなくないか? 何より声が高くなってて、女みたいじゃねーか」

 確かに服はちょっとダボダボ気味だった。触手ご飯が続いていたから、痩せただけと思ってたけど。喉については、調子がバッチシで、いつもより澄んだ様な感覚すらする。

「(まぁ、どっちにしろ)心配しすぎですって。係長――」

 心に余裕があるボクは、満面の笑みが浮かびて、思わず身体を揺すってしまった――チリッ。

「ンッ!」

 しま、った。口から変な声を漏らしつつ、顔を伏せて胸元を押さえる。
 ……ここ数日、なぜか乳首がれてしまい、シャツか何かに強く擦れたりすると、今みたいに変なビリッとした感覚がしてしまう。痒いような、痛いみたいな――気持ちイイみたいな、何とも御しにくい刺激であった。
 イソギンチャク風呂のせいかもしれない。けど、今までの結果から、薬になっても毒になることは無いと、信じていたため、我慢してきた。

「ど、どうしたんだよ?」

 目を見開く係長は、なぜか一瞬だけ身震いしていた。返事に困りつつも、ふと目の端が時計を確認した。
 十七時半。終業時刻だ。

「い、いえ。すみません」

「どうだ? 今日は花金だし、週明けの客先訪問がちょっとややこしいから、飲みながら話をしねーか? お前の話も聞いてやるからよ――」

 板橋係長から誘ってもらうのは、何気に初めてであった、が。

「か、係長。すみません。ボク今日は用事があるんです。月曜日は客先に直行しますねっ。大丈夫ですよ、遅れませんから」

 板橋係長相手に、かなり無礼な返答だったかもしれないが、仕方ないんだ。
 それくらい、ボクの頭はお風呂の事でいっぱいだった。急いでPCの電源を落とし、揺れる胸元を押さえつつ走って退社する。
 ――早く、早くお風呂に入りたい。っというか、に浸かりたい。
 焦るボクだったが、今日に限っては絶対命令とばかりに、ある場所へ寄り道をした。それはもちろん、あのペットショップだった。
 っというのも、約束の十日を経っても集金にこず、支払いを完納っせるためであった。
 そのため――十倍の四万円――をもって、お礼と合わせてやってきたのだ。あのイソギンチャク達のためなら、四万円でも安いくらいだ。
 肩で息をしつつ、店の前へとやってくる。相変わらず古びた家々が立ち並ぶ奥まった路地で、人通りはやはり少なかった。

「あれ? 留守かな」

 薄汚れた引き戸は閉まっており、中は古びたカーテンで見えなかった。まぁ、趣味でやってそうな店だから、仕方が無いといえばそれまでだ。

「じゃ、じゃあまた今度にでも――」

 上ずった声は、別にお金を払うのを先延ばし出来たからではなかった。
 高鳴る胸は、まるで恋人に会いに行く時に近い、などと考えもせずに、脈打つ。


 * * *


「ふぅ。お待たせ~」

 湯気を割って中へ入ると、まるで手を振るみたく、触手が波打つ。スッポンポンのまま、嬉々ききとした表情にて浴槽へ足を浸けていく。
 ――全身鏡になど目もくれなかったから気付かなかったが、顔や頭以外の体毛がやたらと減っており、腰の肉周りがふくよかになっていた。指や首は細くなり、目元が少し垂れていた。
 まるで、性別の中性化とでも言うか、もっと言ってしまえば……。

「えっへへ。今日は秘密兵器もあるんだぞ~」

 口調まで丸みを帯びており、やはり男にしては高い声が浴室内にこだまする。
 ガララ、っと今日は風呂桶に氷を入れて、缶ビールを三本ばかし持ってきた。風呂に酒は、日本の伝統と言わんばかりに準備する。

「今日は花金。そしてビールには利尿作用があるから、一杯おしっこしてあげるね」

 反響するボクの声は、本当に楽しそうであった。少し膨らんだ胸や、出っ張った乳首なんて全く意に介さず、ジャボンと身体を沈める。

「あぁ~、さいこ~」

 カシュ、っと音を立てて缶ビールを開けて、まずは一口。

「ぷはぁ……んっ? あれ、なんか苦味が強いみたいな」

 おかしいな。ビール一辺倒のボクが、しかも一口目で喉を鳴らせないなんて。

「でも、そんな時はぁ」

 ボクを包む触手の一本、今日は青いのを指先で摘まむ。初めてこの家に来た頃よりは、ちょっとだけ管が太くなったように見えるのは、上手く飼育できている証拠だよね。
 先端を少し押すと、いつもの白い体液がしみ出てくる。舌先で舐めつつ、ビールを一杯。

「! ありかも。――あはは、苦しゅうない苦しゅうない」

 そう言って股を大きく開けて、かかとを浴槽のふちにかける。

「一発目、はっしゃ~」

 チョロロロと、小さな噴水みたく薄黄金水が室内灯に照らされて輝き、浴槽へと注がれて、溶け込んでいく。

「さぁ、みんなで飲もうぜ~……って、あれ?」

 股関節の可動域が広く、身体がすごく柔らかい――のもだけど、湯船にて開脚しているこの状況、当然、男性器ペニスが直立するなり、前か後ろへと倒れるはずだ。

「(どこ?)あ、あったあった。――けど、なんか小っちゃくない?」

 平常時でもここまで短小じゃなかったっしょ? っと言える小指サイズであった。

「ゴクゴク――まぁ、触手のお汁を飲めば、すぐにビッグになるってか」

 そう言って、手に持った触手の先端を口に含む。前歯で固定して、舌先でビンタするみたく刺激する。甘噛みと舌で圧することで、一滴、また一滴と体液が垂れてくる。
 夢中でチュバチュバと吸いつつ、たまにビールを飲む。
 んふっ――ヤバイ。まるで非合法な薬を使ってるみたいな、夢の中にいる様に、身体がフワフワと浮くみたいな心地良さだった。初恋に胸が焦がれる風なこの高鳴り、う~ん最高。

「ヤッバ。なんか、スゴイことに、なって、ナイ?」

 カランカラン。二つ目の缶ビールが空になり、浴槽床に転げ落ちる。
 ――あれ、二本目なんていつ飲んだっけ? シャアア、っと気がついたら何度目かの放尿を勢いよく行っていた。
 呼吸が早くなってきたかと思うと、お腹の下が何やら熱い。
 トロンとした目つきのまま、何本もの触手を、気が付けばストローみたく口に含んで吸っていた。

「ふぁれ? しょくしゅ、ふぁ、ふぁんふぉんもふちに(あれ、触手、が、三本も口に)」

 チュバ、チュパ。
 馬鹿みたいにほうけた顔で、赤と白と青の触手を頬張る。ジンジンジン。なん、だろ。乳首が、さっきからすごく熱くて、痒い?
 チラッと垂れた横目で見ると、まるでにピンクの乳首が、ってか胸ごと膨らんでいた。
 ――女の子のオッパイみたいでウケる、そう思って、やたらと肉付きが良いお尻を少し動かした時だった。
 ゴリュ。

「んんあっ!」

 男性器ペニスの付け根あたりをイソギンチャクの本体に擦った際に、感じたことの無い強い性感覚が、全身にほとばしった。
 肛門の辺りかと思ったが、それよりは少し股間側まえがわであった。

「なぁに、今の。やばぁい」

 他の触手を引っ掴んで身体を固定しつつ、グニグニと股間を口盤などに擦り付ける。痛みはあるが、それを上回る未知の快感が、何度も何度も股間から全体へ拡がる。そのつど、肛門付近の穴から、何か体液っぽいのを垂れ流しているのに、まだ気付けなかった。

「え、もう、十一時? う、そ――アアッ!」

 目がチカチカしたかと思うと、乳首から鋭い電気刺激がほとばしった。薄目で胸部を見ると、口のある触手のいくつかが、まるで乳首に噛みつくみたく、絡まっていた。

「ま、待って。食べない――ンデェ!」

 動こうとすると、引っ張られて、痛みや快感やらの衝撃で、思わず失禁する。むしろ、失禁してしまう情けないの自分に、恥じらいみたいな興奮を覚えてしまう。
 喉が渇いたので、口を浴槽につけて水を飲む。すると、あ、れ。

「ゴクッ。――ね、眠い? ダメ、寝たらダメって、誰か――ガッ!」

 股間の一部を、何かに丸呑みするみたいな奇妙な感覚に、驚きほだされる。

「なに、なぁ、に?」

 霞んだ視界が捉えたのは、黒くて一番大きなイソギンチャクが驚くほどに口を開き、ボクの――オチンコを――丸呑み、してる?
 痛みはなかった。むしろ極上のフェラをされているみたいな性感覚に、戸惑いすら覚えた。
 そしてやがて、二十余年連れ添ったが、飲み込まれていく様は、恐怖と同時に、何とも言い難い不可思議な興奮を覚えて、背筋が白ばむ。

「オッ、おっ、お……」

 乳首も太腿も、腋も股間も、触手に揉まれるつど、不気味な気持ち良さに、股間が震えた。
 触って欲しくない身体と心の部分を無理やり触られることで、ドMな人が感じる被虐心を、もっと研ぎ澄ませたみたいな感覚に溺れた。

「ブク、ぶ」

 ブッ――ボコポコ
 脱力しすぎて、屁が出る。
 もう沈んでもいいや、っと全身の筋肉の力を抜いてしまう。
 ――まるで天国に連れてイカれるような、快楽の揺り籠に身を任せて……。
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