イソギンチャクは浴槽で夢を見る

「あれ。こんな所にペットショップなんてあったっけ?」
六月中旬の夕方頃で、梅雨の時期にしては珍しく晴れた日の事であった。社会人二年目の僕は、営業先からの直帰途中、狭い路地の山裾にて、ふと足を止めて見上げる。パネルの一部が割れ、色褪せた看板には、水棲動物の専門店であることが示されていた。
夕飯前の軽い冷やかしのつもりで、暗い店内へ脚を踏み入れる。その好奇心が、僕の人生のターニングポイントになるとも知らずに――。

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