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最終話 穏やかな冬風

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 シュッ。
 自宅の洗面所前にて、薄水色のネクタイを締める。
 今日は営業同行で、大口の客層相手にプレゼンをしなければならない。
「(今年、最後の大勝負だな)ふぅ」
 軽く息を突くと、肩に温かくて小さな指が触れる。
「トシ、糸くずが」
「サンキュ、真」
 振り返ると、家庭的な姿の真と目線を合わせて、笑う。
 ――真と繋がった日から、俺達は恋人同士になり、同棲という形で俺の家に住んでいる。
 結局、真のアパートはご両親の力も借りて退去した。
「(それより、真の性別が変わった説明が本当に大変だったなぁ)……よっと」
 おじさんは倒れるは、おばさんはなぜ早く連絡しなかったと怒鳴り散らすは、しずくさんはなぜかハイテンションだはで――。
「トシ。緊張してる?」
 玄関まで見送りに来てくれた真が、小さく首をかしげる。
「あ、いや。全然――っ」
 そうじゃない、っと苦笑して振り返ると一瞬、柔らかく温かいものが当たる。
「届いたぁ」
 全力背伸びで唇が触れ合い、満足気に笑う真は。
「帰ったら続きだゾ」
「――そのつもりだよ」
 そう言うと、柔らかな髪を撫でる。
 気持ちよさそうにする真を、優しく抱きしめる。
「もうすぐクリスマスだな」
 まさか真と過ごすクリスマスが、こんなに楽しみになるなんて、数ヶ月前までは頭をよぎりもしなかった。
「うん――あ、当日はサンタコスでエッチしてあげるから」
 ミニスカでね?
 などと照れもせずに悪戯っぽく笑う。
「……辛抱できませんな」
 もう一度、軽くキスして玄関の扉を開ける。
 ――チュンチュン。
 冬晴れの風は冷たく、俺の頬を撫でるも、心の中は灯った暖炉みたく優しく、穏やかであった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 ――幸せはの定義は人それぞれと思う。
 けど、実在すると、真が教えてくれた。
 今度は俺が、確かに掴んだしあわせを、大切にしていきたい。冬の弱い、だが眩しい陽光が街を照らす中、力強く歩き始めた。
 俺一人の力じゃない、小さな一歩を踏みしめて。
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