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一章(心は)まだまだ男

第二話 最低な三本勝負

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「ふぅ、緊張するなぁ」

 少し駅から離れた所にある会社へとやってくる。小規模ながら工場も敷地内併設されているため、割と広い。新卒で入社した当日みたく、肩や首がそわそわしつつも、社員用の通用門をくぐって中へと入る。
 まだ、尻を触られた気持ち悪い感覚が抜けきらないまま、モゾモゾと内腿同士を擦り合わせつつ、タイムカードの前までやってくる。

「(お、落ち着け)よ、よし」

 ピッ。電子音を鳴らし、屋舎の中へと歩いていく。
 ――務め先のこの会社は、雑貨も含めた日用品の製造業兼取扱の企業であり、社員数はパートを含めて二百人くらいの中堅規模であった。小物が人気な令和の昨今、競争の激しい業界ではあるが、機能性に特化した商品を中心に取り扱うことで、何とか攻勢に出ている状況だった。
 営業職は売り上げが給与にいくらか反映される歩合制であり、また外勤も好きな方であるため、個人的にはそこまで悪い職場とは思っていなかった。
 ……少なくとも、男であった時は。
 コツ、コツ。
 パンプスの乾いた音が響くこの社屋は、入社する少し前に建て替えられたため、割と綺麗であった。
 経営者は二代目の女社長で、もうすぐ六十歳だが運営に関しては割と敏腕な方と、みんな認識していた。ややワンマンだが、売り上げがある程度ついて来ている現状、誰も文句を言わない(言えない)。
 そうこう改めて思い返している内に、営業部室の部屋の前にて背筋を伸ばす。

「(つ、着いた)あ、開けるぞ――」

 深呼吸に併せて、デカめの乳も僅かに上下する。
 ――ガチャ。
 活気に溢れた営業部へ、伺うみたくそっと入室する。

「お、おはよーございます」

 約四十人ほどが所属している営業部は、三課まであった。全体の半分強ほどの人数がパソコンに向かって、あるいは新発売の高額商品のパッケージデザインなどについて議論していた。

「おっ、新妻」

 スカしたスーツに派手目なネクタイをした、同期の川口が呼んでくる。おれを新妻と認識していて、特に驚いていない様子だ――っということはつまり。

「(やっぱ女のおれで問題ないってことか)な、なんだ?」

 茶髪に染めた髪型ウルフカットの川口は背も高く、チャラそうな見た目と相まったチャラ男であった。女を取っかえ引っかえしているヤツだが、男だった自分に実害は無かったため、黙認していた。

「もうすぐ会議だぜ。忘れんなよ」

 あごで第一会議室を促すのを見て――そう言えば年度最初の定例営業会議があったことを思い出す。

「あ、あぁ」

 とりあえずと席を目指しつつ、変化を見出す。部下に自慢話をしている二課の西浜課長や、難しい顔で他社製品をいじくっている富士見係長、その他の男社員達の前を歩く。やはり、見慣れた光景であった。
 男社員達という言い方は、この会社の営業部は全員男……ではなく、おれ以外の全員が男であるためだ。いや、経理や製造部を含めた他部署の大半も男で、たまに五十歳後半のおばちゃんが派遣で出入りする程度であった。

「(雑貨とかって女性のセンスも必要と思うのに、少し変だよなぁ)とは言え、誰も社長に意見なんてできないだろうけど――ん?」

 所属長であり、いくらか腹が出っ張った五十歳過ぎの囲部長が、内線を受けた後、血相を変えて会議へ出席する課長陣に声をかけ出す。
 ――聞き耳を立てるに、ただの営業会議に、例の女社長が出席するとのことだ。みんな驚いているが、まぁ、おれみたいなペーペーの主任には、関係のない話。
 そう思って臨んだのだが……。

「もっとしっかりしてもらわないと。新妻さん!」

 ヒステリックな声が、広い会議室にこだまする。
 白髪染めをした、派手な服の社長は、会議そっちのけで、なぜか冒頭からおれを槍玉に上げてきた。しかも営業成績とかの指摘ではなく、素行的なことや髪色など、個人に関する事ばかりだった。
 ――い、いや、こっちだって今朝いきなり女になったんだから、昨日までのこととか知らないし。他の社員も驚きの顔を作っていた。

「しかも、そんな身体のラインを強調する服を着て。男性社員の業務効率が落ちたら、貴女あなたのせいと疑わざるを得ませんね」

 へ? べ、別にそんなにピッチリなスーツを着ているわけじゃない。それに、胸がデカいのは、不可抗力だって。
 当然ながら自己弁明を試みる、が。

「ま、待ってください。しゃ、社長――」

「反論するということは、私の意見が間違っているとでも?」

 すごい剣幕でズタボロに言い返される。雇っていただいている側としては、これ以上は言い返さない。
 ……まるで女に対して、ただただ敵意を剥き出している気配すらあった。あるいはであると言わんばかりに。

「お、仰ることはよくわかりました。私の方からも、注意いたしますので――」

 囲部長が立ち上がって謝り、支社からたまたま来ていた十六沢いざさわ課長代理、直上の式峰しきみね係長らが、頭を下げてくれて、何とか収まった。
 しかし、今回は上司達が率先して庇いに来てくれた格好だが、男だった時よりも、本気で擁護してくれたような気がした。

「す、すみませんでした」

 自分自身もそう繰り返し、まるで水飲み鳥みたく、何度も何度も頭を下げた。
 ――ったく。にしても、何だってんだよ? 男だった時は、こんなに目の仇にされることなんてなかったのに。
 その後、販売ターゲット層についてなどの営業方針や四半期目標などの議題へ進むも、女社長はだんまりであった。始終、おれを睨んでいるばかりだった。

「(会議終了)ハァ。つ、疲れた」

 急ぎ席を立ち、庇ってくれた上席らの前で頭を下げて回った。気のせいか、謝罪と同時に揺れる胸ばかりを見られていた気がしたが――とかくお礼を言う。
 それに、普段の勤務態度がものを言ってくれたのか、叱責の件について、上司達から大きなおとがめはなかった。むしろ、元気づけにと、川口主催で夜に飲み会を行われることとなった。

「と、トンデモナイ日だぞ」

 給湯室近くの自販機の前で独り息をつく。
 午前中だけで――朝起きたら女になってて、人生初の痴漢に遭って、最後には社長にどやされる
 散々すぎるぞ、ちくしょう。

「社長以外は、おれに対して特に問題や違和感を感じている気配はなかったけど」

 むしろ、男だった時よりも言い方や対応が柔らかいのは、気のせいじゃあなさそうだ。

「夜はタダで飲めそうだし。まぁ、がんばるか?」

 ……だが、その飲み会こそ、女狂いの川口が、女体化したおれをハメるための罠だったなんて、思いもしなかった。
 そう、三次会あたりで盗撮されたトイレの写真に釣られて、川口の魔の手により、ホテルへ強制連行させられることになるのであった……。

 * * *

 その日の夜遅くだった。
 相手をラブホへ連れ込むのならともかく、まさか連れ込まれる日が来るとは、思いもしなかった。

「お、押すなって」

 ドサッ。
 部屋へ押し入れられると、いきなり手首と腰を掴まれ、ベッドに押し倒され、胸が不要に揺れる。悪趣味なハートのベッドは、柔らかいおれの身体を、柔らかく受け止めた。

「か、川口っ」

「くけけ。今日こそお前をイタダけるぜ。どういうわけか、入社してから、えらく時間が掛かっちまったがな!」

 獣に組み敷かれたみたいな恐怖を覚える。酔いは覚めてきたが、やはり女の力でどうこうってのは無理だ。それに写真の件もあるし、どうすれば――?

「(でもとにかく抵抗しないと)む、無理矢理ヤラれたって、嫌いになるだけだけどなっ」

 涎を垂らしそうな、迫り来るヤツの顔面を、精一杯睨む。

語彙力ごいりょくしょっぼ(笑)。――しっかし、まぁ、どおやって喰おうかなぁ」

 ここまで連れ込めれば、後はどうとでも出来ると思ってか、おれの服を掴む手が一旦止まる。だが酔った目は血走ったままで、やがて口角を上げてくる。
 悪知恵だけは働くヤツだから、嫌な予感しかしなかった。

「――よし新妻。俺と勝負だ」

「しょ、勝負?」

 こ、この期に及んで何の勝負だと、小さく震えつつ、オウム返してしまう。

「そうだ。俺が勝ったら、

 ニヤァ、と笑う川口ヤツの顔は、劣情(※勝手気ままな性欲)した人間の男が作るものに他ならなかった。

「(勝負の内容しだいだけど、そもそもこっちに拒否権なんか無いだろ)お、おれが勝ったら?」

 そう口にするより早く、まるだ予知していたように携帯を取り出した。

「それ以前に、参加賞として放尿シーンは消してやるよ」

 えっ、マヂか! 思わず手を合わせそうになるも、それはそれでおかしい。それに、まだ本当に消去してくれるのかもわからん。

「ク、クラウドとかにデータを保管してねーだろうなぁ?」

 ベッドに肘を突き刺し、上半身を四十五度ほど起こす。

「女にしては鋭いねぇ。でも、してねぇよ。からな。あと、万が一お前が勝ったら金輪際、仕事以外では一切関わらねぇし、慰謝料として一本やるよ」

「い、一本って?」

「馬鹿だなお前。百だよ、百万」

 ひゃ、百万円も? わ、訳がわからん。だが金はともかく、データの消去は最優先事項だ。

「わ、わかった。じゃ、じゃあどんな勝負を?」

「三本勝負の二本先取だ。一試合目のタイトルは、そうだな――【俺達の巨乳ボーイッシュな新妻明ちゃんが、そんなに簡単に感じるワケがない】だっ」

 はっ? クソなことを妄想し過ぎて、ついに頭がおかしくなったのか?

「まず、上半身マッパになれよ。その間に説明してやる」

 好色な視線をおれの身体に突き刺しつつ、そう呟く。嫌々ながらも、震える指を無理矢理動かして、スーツのボタンに指をかけてゆく。
 ヤツは舌なめずりをしつつ、その内容とやらを吐き出していく。

営業部おれらのクールビューティーこと新妻明が、俺ごときダメンズに、感じさせられるワケがないよな?」

 上着を脱ぎ、ブラウス一枚になったおれは、それすらも脱衣しつつ、視線を合わさずに心の中で叫んだ。
 あたりめーだ。誰がお前なんかに感じさせられるか!

「くくくっ。アラームを十五分にセットするから、その間に俺が――おほっ、乳デカ。てか、ブラ割は普通だな。てっきりスポーツブラとかかと思ったぜ。もしくはサラシ(笑)」

 勝手に出来てしまう谷間を覗き込まれて、軽く鳥肌が立つ。
 ――ケッ、笑うだけ笑ってろ。どんな勝負か知らんが、力比べとか以外なら負けるわけがねぇ。

「俺がお前のそのご立派な乳房むねいじり、その間に一言も声を漏らさなかったらお前の勝ち。どうだぁ?」

 舌舐めずりをしつつ、もう勝ちを確信したように不細工な表情を作る。
 そういうことか――十五分間、鳥肌が止まらなさそうだが、だぜ。

「(残念だったな川口。知らないだろうが、記憶や心は男なんだよ)いいぜ。さっさとスタートしろよ」

「お前も早くホック外せよ」

 ヤツがアラームをセットし終えると同時に、プチン、と冷たい音を立てて――プルン――狭かったと言わんばかりに乳房が揺れ出る。
 趣味の悪い室内灯に照らされる中、大きく、健康的な色の、さらにその先端を艶やかに輝かせた、乳房が晒される。

「おおっ、新妻の生乳なまちち! お前、着痩せし過ぎ――ってか乳首がまさかの処女色バージンピンク! テンション上がるわ。ぜってぇ真っ黒のヤリマンだと思ってたから(失笑)」

 一人で馬鹿みたいにギャーギャー騒ぎやがって。高校生の初セックスだってお前より大人しいぞっ。

「さっさと始めろ」

 ギリギリまで乳首を両腕で隠しつつ、腹立たし気に言い放つ。

「おっ? ひょっとして俺に舐め触られたくて、ウズウズして――」

「スタートを押せって言ってんだよ」

 ドサッと仰向けに倒れて、胸に巻きつけていた腕を、嫌々ながら外す。
 川口ヤツの開いた鼻から吹き出される息は、気持ち悪いくらいに強く、おれの肋骨付近に当たり続けた。

「くくっ、お前みたいな処女ビッチ、ド楽勝なんだよ。じゃあ、いただきま~す」

 ピッ。かつて体験したことの無い、拷問が始まろうとしていた。

「あぁんむっ」

「っ!」

 ホールケーキにしゃぶりつくみたく、唾で糸を引く大口へ、心臓に近い方の乳首を頬張ってくる。
 うえっ――湿気と体温が乳首を覆うや否や、温かくて唾液塗れの舌が、我慢できないとばかりに、まとわりついてくる。
 ジュル、ロレレ。

「!」

 くぅあっ。そ、想像以上に、き、気色悪すぎる。鳥肌は全身で隆起し、背筋が軽く痛むほどだった。
 ヤツはわざと音を立ててすすりつつ、舌先で軽く乳首を押し撫でて、さらに乳首のつけ根を舌先でなぞりはじめる。立体的に舌を這わされるたび、悪寒が、乳首むねから身体全体へ駆け巡る。
 不快感に歯を食いしばり耐えるも、おれは一つ、思い違いをしていたことに気付かされた。

「(確かに男の記憶と感性はあるけど、そのせいで、乳首を男に舐められるという異常事態に、余計なストレス、が)……」

 普通の女が受けるのとは違う意味の生理的嫌悪感が、乳首の先端から弾けるみたく伝わってくる。 

「ぷはっ。――新妻のピンク乳首は激ウマだぜ。母親になれたら母乳めっちゃ量産しそうだな」

 言葉も行為も、その何もかもが不快だった。とにかく十五分の辛抱だと、ただただ言い聞かせる。
 やがて、舌は力任せな愛撫を止めて、舌先を筆みたく伸ばし、おれの……にゅ、乳輪をなぞるように弧を描き始める。

「(く、くすぐった)……っ」

 シーツを握りしめて、奥歯を噛みしめる。
 しかし、不快感が限界突破しつつあるせいか、しゃぶられている方の乳首が、ジンジンと熱く麻痺してくる。
 さらに、乳輪を薄らと舐められているのが、ジラされていると乳房からだが誤認してか、冷たい電気が身体の内側を流れだす。

「(もう、残りちょっと?)っ」

 息を殺しつつ、そっと目を開けて、ベッドへ投げ置かれたタイマーを見る。だが無情であった。

「(まだ十分も経って、ない)!」

 視界内にて、川口の手が空いている方の乳房へ這い進んでくるのが見えた。左は舌で乳首を丁寧に、右は指で乳房を力強く揉みし抱き始める。
 その強弱の加減もだが、川口が嬉々として、おれの乳首を舐め吸うという、圧倒的な負の視覚情報に、腰の内側がピク、ピクっと微動する。

「(最悪すぎる。早く、終わってくれぇ)――」

 チュプ、ジュルル、モニュニュ。
 慌てて目を閉じても、今度は耳が敏感になり、川口の吐息と吸引音に、声が漏れ出そうになる。そしてさらに、腹の下? あたりに、何か無色の熱いものが押し当てられている様な錯覚を覚える。
 この未知の感覚に加えて、乳首はヒリヒリと熱く、我慢の許容量が黄色信号から赤へと変わろうとしていた。
 ――しかも何というかこの感覚、今朝の痴漢から受けた、最後あたりの感じに近い?

「チュバ――えっ? お、おい、新妻」

 胸を、乳首を触るのが急に止まり、よく分からないが、耳だけ貸した。

「乳首めっちゃ硬くなってんぞ? ぎゃははっ! そんなに具合よかったか」

「は? ウソっ」

 ガバッ、っと頭を起こし上げて、唾液まみれの乳首を見下ろす。
 こんなクソ野郎の性技テクで、乳首おれが感じる、わけが、ねぇ……。

「――あっ」

 トロリ、と乳首の先端より、ヤツの唾液が涙のように垂れて、流線型の乳房の表面を、滑っていった。
 急いで口を抑え、目蓋を閉じるも。

「ぶははは! 馬鹿でドジで純真な新妻ちゃん、ワンナウト~!」

 くそ、クソッ。こ、こんな、古典的で馬鹿みたいな方法に、ここ大一番大事で引っかかるなんて。
 こんな最低なヤツに一敗を喫した、のか。

「ちっ、くしょう」

 ぬらぬらと唾で光る乳首を、震える指で持って、ティッシュで拭う。その動作の一つ一つが、惨め以外の何物でもなかった。
 ――いや、でも仕方ないところもあるんだ。こっちは女初心者で、AVの情報は全て役に立たず、身体の構造とかもサッパリだし……。

「腹痛ぇ。――じゃあ、間髪入れずに二戦目いこっか♪」

「……ちきしょう」

 ここで断るわけにはいかないが、心の整理も追いつかないまま、おれは乳丸出しのまま、連戦に挑まざるを得なかった。

「ゾクゾクするねぇ。次のお題は……フェラだ」

 さ、最低すぎる。こんな卑怯で利己的な野郎の、ち、チンポを舐めさせられるなんて。
 けど――。

「……い、いいぜ。さ、さっさ、と出せよ。お前の短小チンポをよぉ」

 手ブラで一時的に乳首を隠し、ベットの上で膝立ちをすると、柔らかな栗色の髪が揺れた。
 舐められていた乳首から発せられるジンジンとした感覚の残渣ざんさは、なるべく意識しないようにした。

「新妻の小さな可愛いオクチに、入るといいけどなぁ。――あぁ、手コキも許可してやるよ」

 カチャカチャと鳴るベルトの金具音は、狂人の鳴らす楽器音みたいだった。
 ――こんな糞キ●ガイ野郎のナニを舐めるなんて死ぬほど嫌だが、今度こそ
 なぜなら元男の記憶がある以上、ナニをどうされれば気持ち良くなるかは、ある程度イメージができるからだ。

「出すぞ。ほ~れ」

 ビン!

「つっ」

 勃起状態の肉棒は、さながら研がれたナイフみたく、こちらへと差し向けられた。
 平均サイズか僅かに長めのナニが、ここまで硬くなっている理由わけが、おれの乳首を舐め、さらに半裸を眺めているたせいだと思うと、虫唾むしずがマッハ五の速さで走った。

「新妻のやわデカ桃色お乳をチュウチュウできたおかげだぞ~。ほれほ~れ」

 すでに勝ち誇っているヤツは、あろうことかその先端で、おれやがった。顔が真っ赤になる勢いで、頭に血が昇っていく。

「っめろ! そ、それよりルールは?」

 これだけ恥辱を重ねられても、暴力という手段が取れないおれに対して、加虐心かぎゃくしんを満たしてか、ヤツは肉棒チンポに、ますます血を通わせた。

「そうだなぁ~。十分……いや十五分以内に射精せたらお前の勝ち。これでいくぞ」

 背を向けて、ドカっとベッドの端に座り直す。こっちもベッドを降りて、少し硬めのカーペットにて正座し、川口と正対する。

「ようやくお前に、俺のチンポの味を教えてやれるよ」

 狂ってやがる――そもそもなんでそこまでおれに固執すんだよ。女なんて他にいくらでもいるだろうが。

「お前みたいな気の強い女を屈服させるのが、最っ高の快感なんだよ!」

 く、糞サド野郎が、男として終わってるぞ。
 ――ピッ。ボタンを押したヤツは、勝ち誇ったようにタイマーを後ろへ放り投げた。

「……」

 やむなく、ジッと肉棒を見る。巻き付いた青い血管は太く、先端の亀頭は、赤黒く蠢動しゅんどうしていた。

「おいおい。いざとなるとビビッて何にもできねーのか? まぁ、時間が過ぎるだけで、俺は一向に構わねーけど?」

 乳首を隠すのは左腕のみにして、嫌がる右手の細い指を伸ばし、陰茎みきの部分に触れる。少し上目へと押し上げ持ち、雁のあたりに、舌の先端をそろそろと這わせる。
 レロォ、ロ。
 に、苦い味と生臭い臭気が舌の上にひろがる、と同時に――ビクン――と肉棒が縦に小さく振れる。

「お、ぉっ」

 一瞬でヤツの顔から表情が消える。
 おれは間髪入れずに雁の溝のあたりを舐め進める。感触もだが、しょっぱい味は恥垢ちあかのせいだと思うと、喉元までナニかがせり上がってきそうになるも、怒りで無理くり静める。
 チュロ、チュ。
 ついでにと、鼻先で裏筋の辺りをくすぐる。

「て、てめっ。ぅ、ォ」

 頭の上から、今日初めての情けない溜息が漏れ出る中、包皮小帯の辺りに唾を塗りたくる。

「(まだまだっ)ロレレ、レチョ」

 鼻先に付着した我慢汁が垂れる中、まるで媚びるみたく舌を這わせていく。
 ……一見、攻勢に出ていると思い込んでいたおれは、だが勇み足な行動を取ってしまっていることに、その時は気付けずにいた。
 やがて、尿道口の辺りを舌先でほじりつつ、右手でそっと陰茎みきを擦り始める。
 シュッ、シュ。

「に、新妻。お、まえ」

 快感で震える間抜けな声に、おれは糸を引いて口を開く。

「んん? なぁんか言ったぁ?」

 ヤツが言い返すよりも早くマラスジを舌先でなぞる。その度にビクンビクン揺れる肉棒に、思わず笑いそうになる。
 ジュポ、っとわざと音を立てて、歯を立てないように。口と顎が小さいせいで、さすがに全部は入りきらないが、口内全体で亀頭をマッサージする。

「ふぉ。ぉ、っん」

 へへっ、頭を反り返って喘いでやがる――が、し、っかし、なんか、妙だな。
 ……治まっていたはずの腹の変な熱が、ジンジンと再燃し始める。乳を舐められた上に口淫フェラなんかさせられているから、怒りで煮えくり返ってんのか?
 ってか、痴漢された時の感覚をさらに強くしたような――そもそも絵面だけ見たら、まるでおれ川口コイツ肉棒チンポを悦んで、しゃぶ、っている、みた……い?

「? どう、した? 新妻ぁ」

 ! し、しまった。
 あのまま馬鹿みたく走っておけばよかったのに、不必要なタイミングで正気に戻り、大幅に時間をロスしてしまった。
 てか、握力がだんだん落ちてきて、力を込められない上、顎も疲れてきた。
 それでも舌をしゃにむに動かす!

「(ダメだ。このままじゃ、しゃぶり損だぞ)ジュロ、チュボ」

 ヤツの喘ぎが小さくなる中、慌てて口や舌を動かすも、さっきまでみたいな精度は全く出なかった。ぎこちなく動く舌と手、垂れる涎。
 あいつも今までの失敗を反省してか、腹筋に力を込めつつ、ニヤニヤしたまま黙りこくったままであった。
 なりふり構えないおれは、乳首を隠す左手まで駆り出して、両手でヤツの竿を握り擦り始める。生乳をもろ出しにして、懸命にフェラする姿を、ヤツは笑いを必死に堪えて眺め、そして……。
 ピピピッ、ピピピ。
 無情のゴングが鳴り響く。
 ヌチャ、っとおれの口から肉棒が取り出されると、糸の橋が出来た。
 怒張したままの肉棒かわぐちは、吐精オチが無いのを不満に思っているように、目と鼻の先でビクビクと揺れ動いた。

「ふ~。ちとヤバい場面もあったが、俺の勝ちってことで間違いないよなぁ? 新妻」

 ……頭の中はグチャグチャだった。
 自尊心プライドは見事なまでに打ち砕かれて、大嫌いな男に乳首を舐められて、フェラを強要され、挙句に敗北した事実だけが、脳内を占めた。
 おれは青い顔で、右手でそっと腹を押さえつつ、床上に正座をしたまま、顔を上げられなかった。

「うっ、あ」

 口の中の苦味に、この格好に、自分の惨めさに、泣きそうになる。
 ――なんだよこれ。全部、川口の筋書き通りに運ばれちまったじゃねぇか。おれは大馬鹿だ。ほんと、なん、で、こんなぁ。

「……ワンチャンやろうか?」

 その言葉に、糸で頭を引っ張られるみたいに、乳首を丸出しのまま、川口を見上げる。
 ヤツはさも愉悦ゆえつに浸っていると言わんばかりに、震える顔と乳房を見下ろしつつ、やがて口元を曲げた。
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