異世界の住人を見守るだけの簡単なお仕事です。

虫圭

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【看板娘ミクの帳簿録―五頁目】

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 私は障害者である。
 目も見えないし、足も悪い。

 二十歳の頃だろうか。
 車に轢かれ、気付かないままにあらゆるモノを失った。
 あの綺麗な景色はもう、見れない。
 小鳥の囀りが頬を伝ったって、本体を見ることは出来ない。
 苦しみしかない。
 働くことは無理だし、生きてて辛いだけ。
 私は歩道を歩いていた。

 以前から私は、絶望していた。
 この社会に。
 以前の私は、目や足があったから、この世界を見渡せた。
 けれどその時は若かった。
 本当の社会の闇を、垣間見たことはなかった。

 失ってからだ。
 耳に聞こえてくるのが罵声だって、迷惑がる声だって。
 全ては私に、向けられていた。
 ただ私が点字ブロックの上を杖を使って歩いているだけで、言われる。
 やれ障害者だの、邪魔だの。
 私はそう言う人間の声しか、最近聞いていない。

 言葉はトゲなのだ。
 私のような障害者は、なりたくてこうなってるわけじゃない。
 君たちの様に、全てを五体満足で与えられて幸せなわけじゃない。
 だが彼らは、私の様な人間の声を、聞きたいと思っていない。
 聞く仕草を見せたって、本当に心に届いていない。

 嫌いだ。
 全ての人間が。
 そう言う奴らこそ、こうなればいいのだ。
 でも。

 私も、彼らの気持ちを理解できない。
 ただただ被害妄想を繰り広げているだけだ。
 良い人はいるし、その分悪い人だっている。
 一概に批判するのも、ダメなことだろう。

 ラジオをつける。
 すると、こんな声が流れ込んできた。
「ペンネーム、私は。さん。えー、
『障害者が嫌いです。』
 うわっ酷い。
『以前はそう思っていました。けれど、ある人を見かけました』
 ……ん?
『どうしようもない程に、蔑まされている障害者。
 侮蔑している友人を見て、私は戰慄を覚えました。
 だから私は思い切って、組織を立ち上げようと思います。
 非障害者による、障害者の為の非営利組織を。
 それに当たる意見を聞きたいです』
 と。うーん、僕が思うに──────」

 私はそこでラジオを止めた。
 あの局は、障害者などの弱い人に寄り添う放送をしていたらしい。
 だからあんな質問が出てきたと。

 事実。
 質問に出てきた障害者が私でないにしろ、そういう人間もいる。
 そう、悟った。知った。
 そこから私は、人の目も、侮蔑も、気にせずに。

 今を歩く。
 例え目が目えなくとも、足が朧いでも。
 確かに私達を思ってくれる人がいる。
 そう思うと、少し、この世界が綺麗にも見えてきた。
 侮蔑しない。異常者でない人もいる。

 では。
 君は、どちら側でしょうか。
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