異世界の住人を見守るだけの簡単なお仕事です。

虫圭

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【看板娘ミクの帳簿録―四頁目】

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 最近村に一人の旅人がやって来た。
 ミクという名前の女の子で、一人旅をしているという。
 世界は人を襲う魔獣が跋扈しているというのに、信じられないくらい物騒な話だ。……それとも実は名の知れた冒険者なのだろうか。
 僕は珍しい女の子一人旅という来訪者が気になって、一度顔を見ておこうと女の子が泊まっているという宿を訪れた。

 村に一つしかない小さな宿の戸を開くと、薄い翠の髪をした見知らぬ女の子が、入り口右にあるカウンターで昼食を食べているところだった。
 滅多に村を訪れる人がいないことから、彼女が噂の旅人だと分かる。
 入り口からは彼女の横顔だけが見えた。
 僕より少し年上ーー18か19くらいか。どちらにしろ、この若さで一人旅とはやはり信じられない。どう見ても普通の女の子だ。
 怪しまれないよう気を付けつつ少し足早に近寄り、僕は女の子に声をかけた。

「こんにちは。貴方がミクさんですか?」
「え? あ、はい。こんにちは。私がミクです。……えーと、どちら様でしょか。……ん? あの、貴方とは初めてお会いしますよね? 何だか私、貴方とよく似た人につい最近会ったような気がするんですが……」
 首をこてんと傾げて、彼女は不思議そうに僕の顔を見つめている。
「あぁ、それはきっと僕の姉のことだと思います。よく似ているって言われるんですよ。不思議なことに」
 僕と姉とは血が繋がっていない。それなのに、どことなく似ていると最近になってよく言われるようになった。
 一緒に暮らし始めて長いせいだろうか。同じ生活を送ると食べる物が一緒になるから、顔付きや体型が似通ってくるという眉唾話を聞いたことがある。
「あー! きっとそうですね! 昨日ご挨拶した女の子と雰囲気がよく似てます! ご姉弟なんですねー。私ミクと言います。どうぞ宜しくお願いしますー」
 彼女は両手をパチンと合わせると、謎が解けたと嬉しそうにはにかむ。その笑顔からはミクが冒険者という印象は受けなかった。まだしも自分のほうが腕っぷしは上のような気がする。
「私に何かご用でしたか?」
 ミクが掌を合わせたまま頭だけを傾げて僕に尋ねてくる。
 えっと……どうするかな。特に用事があった訳じゃないんだけれど。何を話そう。
「あ、あの、一人旅と聞いたんですが、冒険者なんですか?」

『彼がミルテくん。これが、私と彼と彼のお姉さんとの出会いでした』

(次頁へ続く)
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